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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
一章 伏線とかは特に必要としていない

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テラ先生の歴史の授業



 ある意味でまともな授業初日。

 テラはその表情に「くそかったりぃ」と言わんばかりの感情を浮かべていた。

 いや教師、仕事しろ。

 思わずそう突っ込みたくなるものの、別に真面目に勉学に励みたいかと言われるとそこまででもないので下手に真面目な発言をして優等生扱いされるのも面倒。

 そういうわけでウェズンは僕何も気づいてませんけど? と言わんばかりに見なかった事にしたのである。


 いや一応異世界に関してだし、ある程度の情報は知っておかないと危険な気もしているので学ぶ気が全くないというわけではないのだ。



「あー、とりあえず聞くけど。お前らこの世界についてどんだけ知ってる?」


 テラの言葉はものすごくザックリしていた。世界規模での質問。いやあの、範囲広すぎてわけがわからないよ。ウェズンは思わずそう思っていたし、周囲の生徒も似たような顔をしていた。要するに困惑している。

 そしてその周囲の反応から、この質問は別によくある常識を問われているわけではないのだなと判断した。いや、もしかしたら常識過ぎて今更何聞いてんの? という可能性もあるのでまだ安心できない。


 一向に誰からも発言が出そうにない事で、テラはあー、と小さく呻きながらも更に続ける。


「この世界大昔に異世界から色々来訪してたって話は知ってる奴~」

 挙手しろ、とばかりに片手をあげたテラにおずおずと数名が手をあげた。一応ウェズンもその部分は聞いた覚えがあったので手をあげたし、イアもまた手をあげていた。大体教室内の半数がそうしただろうか。


「知らない奴もいたか。まぁともかく、大昔、俺らの先祖がそこらで狩猟生活したり畑ちまちま耕したりしてた頃の話だな。当時はまだそれなりに平和だったわけだ。

 だが、異世界からある日迷い子がやって来た。子、って言ってもいい年の奴もいたようだが。そいつは当時のこの世界より文明が発展していた所にいたらしくてな。ロクな発展もしてないこの世界の状況を見て、ご親切に手を貸してくれたわけだ。当時はまだ農耕だってロクな知識もなくただなんとなくやってる、くらいだったらしいからな。作物は育つよりも枯れる方が多かった。

 だが、そこら辺色々教わって狩りに使う道具もいくつか使いやすい物の作り方を教わって、この世界の人間たちの生活は一部向上したってわけだ。これだけ聞けばありがたい話だな」


 そういう割にテラの声はそう思っていないようにしか聞こえなかった。


「異世界からの迷い子様がどうしたか知らん、帰ったか、ここで死んだか。そこは記録に残されていない。ただ、その後も他の世界から度々迷い込んでやってくる奴らが来て、そうしてこの世界は少しずつ彼らによって発展していった。魔法の使い方も魔術の使い方ももたらしたのは異世界の奴らだ。

 そのあたりまでは、異世界に対してこの世界の連中も大半は隣人みたいな扱いだったんだと思う」


 そういや父からも似たような話は聞いたな。異世界から色々もたらされた、って。

 案外ハイテクっぽいアイテムがあるのはそれが原因だとも。


「とはいえ、異世界とこの世界は似ているようで当然違うわけだ。異なる世界なんだから当然だろうが。

 そして、この世界にやってくるのは別に善人ばかりじゃない。

 ある程度発展したあたりでやって来た迷い子様は、今までの奴らと違い悪党だった。

 ある程度は本当にひょっこり迷い込んできたらしいがな、そいつは異世界に行く方法を確立させていた。そしてこの世界を私物化しようとしたわけだ。たった一人の人間が世界を手中に収めると聞けば壮大な話だな。


 その迷い子は魔法や魔術を転用し兵器を作りそりゃもう殺戮の限りを尽くしてくれたらしい。そこから少し遅れて迷い込んできた別の迷い子によってそいつの技術に近いものがもたらされ、世界は戦乱一色に彩られた。被害は甚大ではあったけれど、どうにか平和を勝ち取った。だが、魔導兵器によって汚染され世界は瘴気に満たされた。さて、瘴気は流石に知ってるな?」


 瘴気汚染、という言葉は確かに聞いた覚えがあった。

 魔法や魔術を使う際にも本来ならば自分の魔力や周囲の魔素を使うだけで問題はないのだが、万一失敗した場合周囲には瘴気が発生し土地を汚染する。土地だけで済めばいいが、場合によってはその場にいる人間にも被害が及び、瘴気を浄化するには専用の浄化機が必要だったりするのだとか。

 他にも浄化の方法がないわけじゃないが、誰にでもできるものではないと父が言っていたし、だからこそもし魔法を使おうとして失敗した場合取り返しのつかない事にもなりかねないから、と教えてもらえなかったのだ。

 学園でならどうにかなるから、と言われていた。つまりはここでなら万一失敗しても浄化できるのだろう。


 瘴気に関しては皆知っている事らしく、深刻そうな表情で頷く者や、うんざりした顔の者もいた。


 ウェズンが暮らしていた所はそういったものがあまりなかったようなので、特にこれといった被害があったなんて話は聞いたことがないが、それでも他の土地では瘴気汚染は深刻な問題らしい。浄化機があるけれど、浄化するよりも汚染する方が早く浄化が追い付いていない、なんてところもあるとは聞いた。


 思い返せばイアも初めてウェズンと出会った時、怪我をしてボロボロだったけれど若干瘴気に汚染されていたようだった。

 瘴気に汚染と言ってもヒトには自浄作用があるので多少ならそれほど問題はない。


「んでまぁ、世界全土を巻き込んだ戦争は終わったわけだが。世界のありさまはまぁ酷かったわけだ。じゃあ次にする事は何かっていうと復興だな。異世界からの迷い子、来訪者、そういったものに向けられる目は厳しくなった。文明をもたらしてくれたと言えばまぁそうなんだが、同時に世界を滅茶苦茶にされたわけだからな。ついでにこの辺りでまともな人間種族は消えた」


「どういう事ですかセンセー」


 生徒の一人が声を上げる。


「純血って言えばいいか? 世界中滅茶苦茶だし異世界から来た奴で帰ってった奴はともかく残った奴もいる。で、こっちで結婚相手見つけて、なんてのもいたわけだ。異世界の人間がこの世界の人間と全く同じかどうかってなると、まぁ似てはいても異なるわけだ。

 そこから生まれた子がまた別の種族と結婚して、なんて感じで繰り返していくうちにな。

 もう純血種と呼べるヒューマンはいない。この世界にいる人間ってのはデミヒューマンと呼ばれる種へと変貌している」


 テラの言葉に「えぇ……!?」と困惑したような声がいくつか上がるが、テラはそれを気にした様子はなかった。純血種がいなくなったのは事実。

 今も残っていたならそちらの血統と混血種とで正当な人間種族はどちらか、などといった争いが生まれるかもしれなかったが、既に純血種は存在しないのだ。であるならば、デミだろうとなんだろうと今ここにこうして存在している自分たちこそが人間種族である。


「それがまぁ後の災厄に繋がるわけだが……その前に一つ、次の厄災が降りかかる。

 魔物の出現だな」

「え、あの、魔物って昔はいなかったんですか?」

「そうらしいな。魔物も元は異世界からの知識や技術によるもので生み出された……といってもその時点では魔物そのものってわけじゃなかった。だがまぁ、命を人工的に生み出すわけだからそう簡単にできるものでもない。失敗によるものか、突然変異か、それとも意図して行われたかはわからんがそれらは爆発的に数を増やした。無理もない。魔物の大半は瘴気を取り込み力をつける。世界が荒れ放題で瘴気塗れだったとなれば、増える理由はとてもわかりやすい」


 言わば瘴気が餌。成程そりゃ力をつけるし数も増える。


 しかし浄化機とやらは瘴気を浄化するものだけれど、遥か昔から存在している道具で今その手入れをできる者は限られている――と言われている。一応稼働するけれど、絶対的に安心できる物ではなくなってしまっているのだとか。

 更に場合によっては動作不良を起こした場合、逆に瘴気が発生するとも。


 土地そのものにも自浄作用がないわけではないのだが、それを上回る勢いで瘴気が溢れている場所は最早浄化機を使わなければ瘴気にまみれていく一方。そういった土地は魔物も多い。


 ウェズンが暮らしていた家の周辺でもごくまれに魔物らしきものはいた。

 とはいえゲームだったら序盤の雑魚程度のものだったので、特に脅威と感じた事はない。


「そしてそれら魔物を使役する者が現れた。魔王だな」


 その言葉に教室内がかすかに騒めく。

 魔王を目指す学園で、魔王の話題が出ないはずもない……が、この流れはまるで――


「つまり、魔物を使役できなければならない、という事でしょうか?」


 その疑問は当たり前のように出たものだった。

 いやいやいや、テイマーだとかならいざ知らず無理では? と思う。

 近所でたまに見かけた弱い魔物ですら言う事聞いてくれる感じではなかったのだ。魔物を従えて一人前の魔王です、とか言われたとしても、到底それらを実現できる気がしない。


「いや。あれは使役できるもんじゃねぇ。魔物は倒すものだ。決して仲良くするものではない」


 けれどもテラはあっさりとその疑問を否定した。まぁそうだよな、仲良くしろって言われても無理なものは無理。



「だがまぁ、歴史に残る最初の魔王はそういう奴だった。魔物を使役し世界を更なる混沌へと叩き落そうとした。それを放置できなかったんだろう。当然討伐隊が各国で組まれた――が、復興するだけでいっぱいいっぱいだったからな。魔王の優勢だったわけだ。魔物は復興なんて考えず破壊の限り尽くせばいいだけだからな。戦力としても向こうは生きて帰らなければならない、魔王側は瘴気によって魔物は増やせるし強化も可能。戦力を気軽に使い捨てる事ができていた。

 復興どころか人類滅亡寸前までいってたわけだ」


 まぁそうだよな、とウェズンだって思う。

 人類サイドは生きて帰らなきゃ戦力は減る一方。生きて勝つ事が前提になるけれど、魔物側はそんな必要がないとなればそりゃ後先考えずに突っ込んでくだけでも相当だろう。そういった魔物を一網打尽にできればいいが、できなければ被害ばかりが増えていく。



「で、その魔王を倒すに至ったのが勇者ってわけだな」


 えー、これからこの世界どうなっちゃうの~!? なノリで聞いていたはずが、しかしあっさりと終焉を迎えたせいで一同肩透かしを食らった気分だった。

 いやまぁ、魔王によって世界が滅亡していたなら今ここにこんな風に暢気に授業できてないだろ、という気もするけれど。



「ここまでがこの世界の大まかな歴史の前半だな。旧暦と称されてるしもうちょい詳しく知りたいなら図書室に文献あるからそっち漁れ」


 テラが割と雑に放り投げるかのような発言をしたと同時に――


 授業終了を告げるチャイムの音が響いた。

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