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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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聞かない方が良かった話



「えーっと、学院でなんやかんやあって、ウィルと遭遇して連絡先もゲットしたから、あとはもうさっさと撤収しようかなって思ってたんだけど」

「うん」


 学院でなんやかんや、の部分が正直気になりはしたものの、イアの言い方は言葉を濁して知られないようにする、というよりはほんと何かどうでもいい感じの事がいっぱいありましたよ、みたいな言い方であったのでウェズンはそこを突っ込まず大人しく相槌を打った。


 学園の制服を着ないで出かけていったとの事だし、そうなれば余程おかしな服装でない限りはイアはそこら辺にいる子供みたいなものだ。

 愛らしい顔立ちをしているけれど、通りすがった全員が全員振り返る程の美貌を持っているとかではないし、通り過ぎてから「さっきの子可愛かったね」なんてわざわざ言うほどでもない。まぁでも、今の子可愛かったなぁ、と脳内で呟く程度には愛嬌がある、と兄であるウェズンは思っている。

 どちらかといえば道端で見かけた犬や猫を可愛いというのに近いかもしれない。


「何故かそこでアクアちゃんと遭遇しまして」

「アクア?」

「ほら、うちのクラスの」

「あぁ」


 言われて思い出す。

 イアが割とクラスの中でも仲良くしている女子生徒の一人、アクア・リリィ。銀色の髪に水色の目という何とも全体的に色素の薄い少女である。イアが友達の話として時々名前を出していたので把握はしているが、生憎ウェズン本人はそのアクアとはほとんど会話をした事がない。適当にクラス内部で振り分けられた学外授業などでも精々一度組んだくらいだ。


 イアの友人として認識しているが、向こうも恐らくはウェズンの事をイアの兄、程度でしか把握していないだろう。


「遭遇って……学院で?」

「うん」

「……なんで?」

「ホントなんでだろね?」


 学園の中で出会うのなら何もおかしな話ではない。何故って生徒なのだから。しかもクラスメイトだ、顔を合わせる事など何度だってあるだろう。だが、学院で、となると話は異なってくる。

 ちなみにアクアも学園の生徒であるとバレるような事はなく、私服で訪れていたとの事。


「つまり、あいつも学院に見学希望の届を出した、と……?」

「じゃなきゃ学院に入れないからね」


「思わずビックリして叫ぶところだったよね」

「そうならなくて良かったな」


 もし叫んでいたら。

 何かあったと周囲の生徒は思うだろう。何もないのに叫んだとか思われるのもどうかと思うし。


 イアとアクアが知り合いである、となっただけなら別にそれ以上何かがあるでもない。だが、どちらかが――この場合はアクアがイアの事を知らない人扱いした場合、イアが一方的にアクアを知っているという立ち位置になる。そうなった場合気まずいのもあるが、場合によってはお節介な誰かが何かあったのかと深く突っ込んでくる可能性も出る。

 お互いが知り合いである、となった場合でも、周囲で会話に花が咲くとばかりに色々聞かれる可能性が勿論あるけれど、この場合どちらに転んでも厄介な事が起こりうるのでお互いに下手な事など言えるはずもない。


 一番最悪なのは、アクアがその子学園の生徒だよ、と暴露する事である。

 まぁこれは無かったようだが、アクアがイアを知らない人扱いしているのにしつこくイアが絡むのであればそういった暴露がなされたかもしれない。


 どうあれイアが叫ぶ事はなかったし、アクアもイアを学園の生徒だと暴露して売るような真似はしなかった。


 結果として二人は同日に来た見学者という扱いになり、適度に学院内を見学し、時々暇をしている生徒たちに構われつつどうにか無事に学院から出る事に成功した。


 一人の時も正直ヘマやらかしたら不味いと理解していたけれど、二人になったからといって安心できるかと言えば全然そんな事もなかったので、無事に学院から出る事ができたというそれだけでイアの中ではミッションコンプリート! という文字が輝く勢いであった。実際はまだ何も解決していないけれど。



「学院の近くに、いい素材採取場所があるっていうからついてったんだけどね」

「おう」

「そこがその、所謂盗賊のアジトってやつでね」

「ほう」

「中に入るなり魔術ぶちかましてブチ倒していく様を見て震えあがったよね」


「素材採取に行ったんだよな……?」


 話を聞く限りどう聞いても盗賊ブチ倒しに行っただけの話にしか聞こえなかったのだが。

 一体何の素材を採りに行ったんですかねぇ……?


「っていうか、入って早々に魔術ぶちかますとかあいつ結構激しいな……?」


 見た目はもっと大人しそうで、目立たない印象しかないのだが。

 イアとはよく話をしている姿を見かけたが、ウェズン本人は関わる事がほとんどないのでそう思うだけなのかもしれない。


 だがしかし、イアと話している時以外、他の生徒とも話をしたりしていない時にふと見た時のアクアは大抵本を読んでいる事が多く、一人でいる印象の強い少女であった。

 そんな大人しそうな少女がイアがついていかなかったなら単身で物騒極まりない場所に足を運んだというのも正直理解するまでに少し時間がかかったくらいだ。


「っていうか、なんで一人で学院に見学に……?」

「あたしもそれ気になって聞いたんだけど」

「なんだって?」

「情報収集って言ってた」

「情報収集……?」


 イアの言葉を繰り返して、それから思い至る。


「あいつクソ度胸の持ち主なのか……!?」


 確かに直接相手の本拠地とも言える場所に行けばそれなりに情報は得られるだろう。だがしかし、あまりにも危険がすぎる。自分の存在を相手が認識していたなら、間違いなく命の危機だ。ウェズンはファラムとウィル、それからアレスという学院の生徒と既に知りあっている。あの三人は率先してウェズンを殺しにかかろうという感じではないが、しかし知り合いであるという事実が知られ、そこからウェズンが学園の生徒であると知られる可能性はそれなりにある。ファラムやアレスあたりは上手く誤魔化してくれそうだが、なんというかウィルは隠そうとしても嘘があまり上手そうに見えないのでふとした瞬間、ぽろっと口を滑らせるだとかふとした動作で相手に不信感を抱かれたりしてバレそうだなと思う。まぁこれはあくまでウェズンの偏見だが。


 なのでウェズンであれば間違いなく情報を得るために学院へ行こうとは考えない。リスクがありすぎるからだ。そのリスクを無視してでも行く必要がある、とかならまだしもそうでないならまず行かない。


 アクアは自分の存在など学院の生徒が把握しているはずもないと確信した上で行ったのだろうか。

 ただの過信か、はたまたしっかりと考えられた上での結論なのか。アクアの中ではきっと過信だとは思っていないのだろう。


「情報収集は何か収穫あったのか?」

「うぅん、あんまり。でも、いくつか知りたい情報は知れたって言ってた。ただ、あくまで個人的なもので皆にとって役立つかは知らないって」

「……あいつもあいつなりに何らかの事情で学院に行ったって事か。で、何でその後しれっと素材集めと称して盗賊のアジトにお邪魔しちゃったんだ……」

「なんか学院の人とお話してて、それで知ったっぽいよ。学院の生徒が退治しに行かないのは、近隣の冒険者ギルドの人の仕事になるから、それをとっちゃうと困るからって感じだったかな……?

 魔物とかは横取りして倒しても問題ないけど、盗賊だとかは事後処理とか含めてあれこれあるって」


「あー、まぁ、わからんでもない」


 魔物は倒せば消えるけど盗賊はそうもいかない。何せ人だ。気絶させただけなら勿論後で意識は回復するし、牢屋にぶっこむにしてもつれていかなきゃならないし。殺した場合でも死体を放置していたら最悪虫が湧く。虫が湧くだけで済むはずもなく、それらを更に放置した結果疫病が、なんて事にもなりかねない。

 生徒たちがそこら辺を全てやるとなると、結構大変なのだ。そもそも牢に連行するなら近隣の町や村に連絡もしないといけないし。いきなり連れてこられても、牢の空きが必ずしもあるわけじゃない、なんてこともある。その点冒険者たちが討伐に出るならまだその町との連携も簡単にとれるので生徒たちと比べればやるべきことは比較的少ない。


 それもあって学院の生徒たちはそれなりに近くに盗賊団のアジトがあると知っていても手を出さなかったのだろう。中途半端に手を出して後始末だけお願いね、なんて事を一度ならまだしも何度もやらかせば学院側も流石に生徒たちに苦言を呈さなければならなくなるし、下手をすれば何らかのペナルティが生徒に与えられる事もあるだろう。


 だからこそ、学院の生徒たちの横やりは入らないと判断してアクアも行動に移ったのだろうか。


「……後始末はどうした?」

「えっとそれが……全員ころころされまして」

「ちょっと表現可愛くしても言ってる事物騒だからな」

「だよね」


 イアが言うには、そこの盗賊団のメンバーがちょっと希少な種族の血を引く面々だったらしい。既に純血種として存在していないような種族。そして、だからこそアクアはそれに狙いをつけたのだとか。


「あぁ、うん。大体想像はついた。一歩間違うとそれ禁術とかそういうのに該当するやつだろ」

「おにいの理解力が早くてビックリ。そうだよ、アクアちゃんも堂々とやるには問題だけど、でもこいつら犯罪者だから、って言って一片の迷いなくやらかしてた」

「……僕は彼女に対する認識を改めるべきなのかもしれない」


 本当に少し前までは大人しくて一人でいると本を読んでる人畜無害なタイプだと信じて疑っていなかったが、素材に使えそうって理由で人を材料にするのは闇が深すぎる。というか倫理観的にアウトである。


「二日目はそれで素材を回収して、次の日は別の場所でその人たちをこう、解体などしておりまして」

「うちの妹がとんでもねぇ事に巻き込まれてた……」

「解体に関しては慣れれば他の動物も応用可能って言われて、覚えて損はないって」

「そうだけど、そうなんだけど……ッ!!」


 ウェズンは片手で顔を覆って「くっ……!」とどうしようもない呻き声を出した。

 そりゃそうなんだけど、言い方は間違ってないんだけど……

 でもやってる事が色々とアウトなんだよ……!

 そう叫びたかった。


「要塞の素材として使ったけど、何かいい感じになったらしいよ」

「今僕の脳内で人柱っていう単語が凄まじい勢いで流れてったけどね……」

 材料に人が使われてる、と果たして他の面々はわかっているのだろうか。

 わからずに使用したとして、それはそれでどうかと思うが、わかった上でGOサイン出したのであればそれもそれでどうかと思う。



 流石に学院の生徒たちもこんなことになるとは思っていないだろう。

 もし知っていたら、盗賊だとて防衛に回ったかもしれない。

 いやどうだろう、盗賊だからこそ狙われたというのであれば、もうそれは何か貴重な種族の血を引いたりしてるくせに犯罪者になったそいつらのせい、という気もしてくるのだが。


 とはいえ、今更ウェズンが何を思おうとも盗賊団は討伐され、そしてその死体は無駄にされる事なく利用された。

 しばし考えた末にウェズンが出した結論はといえば。



 よし、聞かなかった事にしよ……



 これに尽きる。

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