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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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準備はきっと万全!



 どうしても外せない急用ができた、とヴァンに伝えて自分に割り振られていた作業を他の人に回してもらう。回した相手にもごめんと謝って、イアはそうして自由時間を得たのである。


 ちなみに本日ウェズンは他の場所で必要な素材を集めるべく駆り出されているので既に学園にはいない。


 レイとウィルに関してどうにかしないと……と言っていたウェズンであったが結局のところ何をどうすればいいのか、という最適解など浮かばなかったらしい。どうにか二人を落ち着いて話し合いの席につける事ができればよかったが、現時点でそれができるかとなるとできないわけで。


 レイはさておきウィルの方は交流会にて直々にレイを葬ってやるみたいな気合に満ちてる状態だ。この状態で手紙だとかを出してお話合いしませんか? なんて送ったところで……という話である。


 明確な行先はウェズンに伝えていない。というか、既にウェズンは学外にいるので伝えるならばモノリスフィアのメッセージアプリなどで伝えるしかない。

 けれども今それを送ったとして、素直にいってらっしゃいとウェズンが返信するはずもないのはイアでもわかっていた。

 だって行先はフィンノール学院。

 今まで学園にやってきては殺戮の限りを繰り返していた学院である。


 敵地に単身行ってくる、なんぞと言われてはいそうですかと送り出せる奴は中々いないだろう。

 お前なら一人で大丈夫だよとか言われるだけの実力があるならともかく、イアはそうではない。弱いわけでもないが、強いと断言できる程でもない。クラスの中での実力は大体真ん中かそれよりちょっと上くらいであった。

 普通に考えて、そんな実力しかないのであれば行ってきますとか言われて素直に見送るはずもない。それもあってイアは特に誰かに行先を伝えずに出かける事にしたのである。


 フィンノール学院へ行く方法は別に難しいものではない。

 何せ神の楔で行く事ができる。


 とはいえ、普段学園の生徒たちが自分たちであの学院に乗り込んであいつらボコボコにしてやろーぜ!! とならないのは、それでなくとも乗り込んできた連中の実力がそれなりに高くこちらの勝算はそこまで高いと言えない状況だったからだろう。なのに更に戦力が多いだろう相手の本拠地に乗り込むとか、死にに行くと思われても仕方がない。


 お互いに自由に行き来ができるように思えるが、実のところそうでもない。


 物語の勇者と魔王になぞらえている部分があるのか、行き来にはそれなりに制限がある。

 学院の生徒は思い付きでこちらの学園に来て戦いを吹っ掛ける事はできない。基本的には特殊授業だとか特別なイベント行事だとかの時にしか来る事を許されていなかった。

 物語というかゲームとして考えるなら、まぁ勇者がいきなりラスボスだろう魔王の居城に気軽に何度も足を運べるような事あってたまるかという話でもあるし、いつも授業を妨害されるような事になれば神前試合以前の話になってしまう。


 ゲームで言うなら中ボス戦だとか、何かの節目みたいなイベント行事で勇者側はこちらに乗り込む事を許されていると考えれば大体合っている。


 対するこちら側。

 こちらは特にそういった条件はなかった。

 だが、勇者たちの強襲などで被害を出したなら、わざわざ向こうに攻め入ろうと思う者が中々出なくてもおかしくはないし、仮に敵討ちに行くとして、狙った相手だけを倒してそのまま帰れるかとなると話は別だ。

 向こうだって同じ学院の生徒が殺されたなら殺した相手をそれ以上戦うつもりがないと言ったところでみすみす逃す気もないだろう。


 行って喧嘩売るならそれこそ無事に帰ってこれるだけの実力が求められるのである。


 何せ下手に乗り込むにしてもだ、向こうが来た時の戦力以上にいるのが確定しているし、学年だって上の、新入生よりも更に強いと思われる連中もいる。

 事前に相手の本拠地の戦力を調べて万全に準備を整えて、その上で不測の事態が起きてもどうにか対処できるくらいにならないと、生還は難しい。


 やるならそれこそ本当に相手がこちらが襲いに来たなんて思っていないうちに奇襲しかけてさっさと逃げるとかじゃないと、無事に戻ってこれる確率はとても低くなるだろう。



 そう考えると、イアが一人で学院に行くのはとても無謀に思えるのだが。


 だがしかし、イアはまぁ大丈夫だろと傍から見ればとても軽く考えてるような顔をして準備を開始する。

 学園の制服を着て行くのは自殺行為だ。自分の顔が向こうで知れ渡っている可能性はゼロではないけれど、正直学院の生徒と学外で遭遇したことはあまりないので向こうがこちらを認識できている可能性はゼロじゃないけど限りなくゼロに近いと思いたい。


 学園の生徒である事が知られなければ学院での安全はほぼ確保できたと思っていい。

 つまりは、制服じゃない服装で出かけなければならない。


 とはいえそこら辺は正直あまり気にしていなかった。

 何せ学院はこちらの学園と違って見学が可能となっているからだ。


 なので学院の生徒でもない人間が学院内部を歩いていても、あぁ見学に来たのか、と思われる事が多い。

 軽く調べたところ過去にそうやって油断させて相手を叩きのめそうとした学園の生徒がいたようだが、それは返り討ちにあったようだ。まぁ、ちょっとした奇襲程度でやられる程甘くはないというのは今更だ。


 いかにもそこら辺の町の子です、みたいな服を選んで鏡の前で確認してみる。

 ついでに少し前に購入した肩掛け鞄も出した。リングがあるなら使う事はないだろうと思ったのだが、シンプルでありながらもフォルムが可愛らしくてつい購入してしまった物だ。

 リングはちょっと考えた末に外して、かわりに足の指につけた。ここなら裸足にでもならない限り見つからないだろう。


 リングを持っているのは限られているので、ここから学園の生徒だとバレる可能性を考えればわかりやすいところにつけたままにするのは危険でしかない。

 鞄の中にしまっておいた方がいいだろうか、と一瞬悩んだが、これでうっかり鞄を引っ手繰られたりされたらリングもそのままオサラバである。鞄が盗まれたり壊されたりする事があるかもしれないと考えるとそれはそれで困るけれど、もっと困るのはその中にしまい込んだリングが手元から完全に離れた場合だ。

 そうなれば犯人をどこまでも追跡しなければならないし、取り返せなかったら自分の荷物全部を失う事になる。お小遣いもとなれば、流石にそれは避けたい。


 鏡の前で服装をチェックして、少し考えて髪をいじった。


「う~、おにいがいたら髪の毛やってもらったんだけどなぁ……」


 親指と人差し指で髪を軽く摘んで持ち上げてみるが、自分で髪型をいじろうとするとあまり凝った感じにはできない。だがしかし、普段の髪型でいるのもなんとなく気が引けた。

 普段から身に着けている靴や小物から変装しても同一人物であるとバレる事態がある、というのは前世で見た映画で履修している。ついでに髪型もちょっと変えれば案外気付かれにくいのだという事も。


 今回何事もなく学院に行って帰ってこれたとしても、その後別の場所で学院の生徒と自分が学園の制服を着ている時に遭遇しないとは言い切れない。その時に髪型だとかであの時の! とバレるのは避けたい。

 学院に行く事がそう何度もあってたまるかという話ではあるけれど、もしまた行くかもしれないのであれば学外で自分が学園の生徒だと学院側に知られるのはなるべく避けたいところだ。


 四苦八苦しながらも、どうにか髪を纏めてみる。

 気持ち的にはもうちょっとしっかり編み込んだりしたかったが、そこまで器用さを持ち合わせていないせいかなんとなく緩い感じになってしまった。


「うーん、何か思ってるのと違う……」


 ここに第三者がいるなら、その髪型も可愛いよと言ってくれたかもしれない。けれどもイアの思い描いた想像図と異なるせいで、なんとなく駄目な感じがするのだ。

 とりあえず二度程やり直してみたけれど、結果はあまり変わらなかったので諦めて簡単なメイクをする。

 といってもイアはそこまで化粧をした経験がない。

 前世ではそもそも必要がほとんどなかったのだ。それでもやってみたいとなればサポートデバイスが思い描いた通りのメイクができるようにしてくれたけれど、それでも日常的にメイクをする必要はなかったし、転生してからはメイクどころか日常生活に問題しかなかったわけで。


 ウェズンの家に引き取られてから機会はあったのかもしれないが、正直年齢的にもまだ早いかなぁ……と思ったりもしたのでイアは自分からお化粧がしてみたいと母に言う事もなかったのだ。


 それでも手元にメイク道具が揃っているのは、学外で見かけてつい買ってしまったからだ。まさかこんな感じで使う事になるとは思ってもいなかった。


 多少てこずりながらも気持ちほんのり程度のメイクを終わらせて、改めて鏡を見る。


「……うぅん……ギリ、どうにか、あたしだとバレ……ない、かな……?」


 自分では割と印象変わったと思える仕上がりだが、しかし自分以外の身近な相手がどう思うかは謎だ。かといって、今から島に行ってちょっとこれどうかな? と聞くわけにもいかない。

 ウェズンならまだしも、ヴァンがまともに答えてくれるかイアにはちょっとわからなかった。何か社交辞令で濁されるかズバッと切り捨てられるかのどっちかな気がしている。


 正直まだもうちょっとどうにかできるのではないか? と思わなくもないが、納得のいく出来になるまで粘るとなると、終わりが見えない。


「んぇえい、女は度胸!」


 もうこれでいっか! と自分に言い聞かせるようにしてイアは準備を終えた。

 万が一学院で逃げなきゃいけないような事になった場合を想定して、服は動きやすさを重視した。そのせいで今のイアは故郷からちょっと旅に出ました、みたいな旅人初心者みたいな見た目である。


 ちなみにこの時点で、イアが元々予定していた出発時間から二時間ほどが経過していた。

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