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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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楽観的になれやしない



 他にも必要な材料は沢山あるらしく、一度学園に戻ってきてからレイはまず現場監督状態になっているヴァンへと話を通したらしい。

 そういうの、普通、人連れて海に出る前にするものでは? と真っ先にやられたウェズンは思ったりもしたが、まぁ報連相一切無いままじゃないだけマシだと思う事にする。


 ウィルと出会ったあの後で、どうにか緑琥珀を集めて戻ってきてから忙しさは拍車をかけた。


 まずレイは常に必要な材料を調達に出かけたりしているし、それに付き合うメンバーも毎回異なっている。

 同じ相手を連れまわしていたら間違いなく過労死しそうなので、それはいい。むしろずっと連れまわされる事になるとしたら、その被害はウェズンに集中していた可能性がある。


 少々調達に行くには体力だとかが必要な所だとか、何かやたら魔物が多い地域だったりだとかでレイが連れていくのはもっぱら体力勝負な野郎どもが多いが、時折商品の買い付けに行く事もあってかそういう時は女子も連れてかれた。


 ちなみに、要塞建築に関してだが。


 ウェズンが思うような前世での土木工事からの建築という流れではなく、材料に魔法素材が含まれている事もあってか完全に想像していたのとは違った事だけは確かである。


 まず要塞を作るべき部分にそりゃもう細かすぎて精密なんて言葉じゃ言い表せないような魔法陣を描いていって、そこで魔法を発動。そして必要な材料をその魔法陣につぎ込むようにすれば、地面なのにまるで液体に沈むかのように消えていく材料。

 そうして少しずつ形を見せる要塞。


 僕の知ってる建築じゃない……! と驚愕してみせるべきだったかはわからないが、足場組んで上の方での作業とかそういうのをする必要はなさそうなので何よりである。

 とはいえ、材料がなければそれ以上形にならないものなので、現在は何か中途半端な形のままだ。作っている途中だけど、まるで取り壊されてる途中みたいな感じがある。


 建物を作るための体力勝負というのではなく、材料をかき集めるための体力勝負という事になってしまったが、まぁ、材料集めてから皆で一致団結して作るぞー! というよりはマシだと思う事にした。



 さて、そんな中、ウェズンは作業の合間を縫ってイアに声をかけた。


 暑い日の炎天下での作業。こまめな休憩をとる事は禁止されていないので、ある程度の作業をした者たちはなんだかんだ近くにいる誰かしらに声をかけて休憩をとるようにしている。

 イアは薬剤調合をしてそれらを材料に混ぜているところだったので、そこまで体力的にキツイ事はしていないようではあったが、そちらの作業も中々に集中力が必要とされるものなのでやはりこちらも適度に休憩をしなければ後からきついのは言うまでもない。


 休憩に誘いに来た兄を見て、イアは近くにいたクラスメイトに声をかけてからその場を離脱。


 そうして普段は島の適当な場所で休憩したりしていたのだが、今回は一度学園へ戻る事にした。

 正直周囲に聞かれて困る内容か、と言われるとそうでもないとは思うが、それでもなんとなくだった。



「で、どしたのおにい。わざわざこっちでご飯食べようとか言い出すなんて」


 学園の食堂はサマーホリデーであっても稼働中である。というか、サマーホリデーとか言っておきながら全然休みじゃないのでむしろやっててくれないと困るというのが正直な話だ。

 島で作業をしている者たちは基本ここでお弁当を注文して、リングに収納し休憩時間にそれを食べる、という感じだがそれでもたまにふらりとこちらに戻ってきて食堂で食べる者もいる。

 自分に割り当てられた作業が早めに終わっただとか、少し煮詰まって気分転換だとかで場所を変えたりだとか。


 ウェズンたちが食堂に足を踏み入れた時、食堂を利用していたのは本当に数える程度だった。

 座っている席もかなり離れた場所を選んでいるので、会話も周囲に聞こえたりはしないだろう。余程の大声でさえなければ。


 そんなわけでウェズンはつい先日遭遇したウィルと、レイについてイアに話す事にしたのである。



 ――話を聞いたイアは、あっ、それ最近何か思い出したやつだ! と危うく叫ぶところであった。


 そもそもメインキャラすら朧げだったイアだが、ふとした瞬間にちょこちょこと内容を思い出したりしていくうちに、そういやこの人メインキャラだったわ! というのが発覚した。


 真っ先にそうだと思いだしたのはルシアである。

 顔面がどう見ても美少女なのに性別は男、という時点で流石にそれがモブはなかろうと思っていたけれど、なんだかんだ一緒に行動するようになってなんとなくだが思い出してきたのである。

 とはいえ、細かな部分までは思い出せていないので原作の中で彼がどういうエピソードを披露していたかはあやふやなのだが。


 まぁ仮にばっちり思い出せたとしても果たしてその通りに事が進むかはわからない。

 何せ原作小説の中の主人公でもあるウェズン少年は、魔王養成学校にいながらにして勇者になりたいなんぞとのたまい周囲を敵に回すような存在だった。主人公には主人公なりの言い分があるとはいえ、わざわざ自ら完全アウェーな立場に突き進まんでも……と思うような状態からのスタート。

 そのうち仲間になるかもしれないメインキャラたちのウェズン少年に対する反応は、言うまでもなく最初はお世辞にもいいものとは言えなかった。


 もっと簡単に言うなら、人間関係がとてもギスギスしている。


 事あるごとに死ねとか殺すとかいう暴言が飛び交ってても別に何もおかしくないくらいの殺伐っぷり。


 だがしかし、そんな中でもウェズン少年は自分の意志を貫き通し、なんやかんやで周囲に認められるようになり、またウェズン少年も勇者ではなく魔王を目指そうとなっていくのだ。


 だが実際はどうだ。

 自分の兄であるウェズンは別に勇者を目指そうとはなっていない。それはイアが前世の記憶があるなどとカミングアウトしおにいが魔王にならないとこの世界滅ぶかもしれないの! なんて言ったから、というのもあるかもしれないが、初っ端から原作崩壊である。

 勇者になりたいなんぞとのたまう事もなかったウェズンは、クラスメイト達とは比較的良好な関係を築いている。というか、原作小説と比べると初っ端から好感度が高すぎて、えっ、ゲームだとしたら好感度引き継いでの強くてニューゲーム? とか言いたくなるレベル。


 好感度が最大まで上昇しきっているというわけでもないが、それでも圧倒的平和。

 授業中にムカつくあいつの足引っ張ってやろうぜ、みたいな嫌がらせもないし、偶然を装って学外授業での魔物退治で事故を狙おうともされていない。

 ウェズン少年はよくあの殺伐とした中で生き抜いてこれたものだな、と感心するレベル。むしろあれを乗り越えたから最終的に強くなった、とも言える。

 そう考えると、最初から割と和気藹々としている今のウェズンは果たして最終的にあれほどまでの強さを身に着ける事ができるだろうか、という懸念もあるが、イアから見てウェズンに慢心だとかはない。であれば、恐らくは大丈夫だと信じたい。



 ルシアも確か作中ではウェズン少年に対して何やら色々仕掛けていたけれど、兄とルシアの関係もこちらはとても良好に思える。

 少なくとも階段から突き落とされそうになったりだとか、隠し持っているナイフで刺し殺そうとされたりだとか、そういう危機一髪系イベントは発生していないのだろう。飲み物に毒を盛るとかそういうシーンもあったような気がするけれど、今のところルシアがウェズンに飲み物を差し出すような展開もない。


 まぁ今はルシアの事はいいや、とイアはひとまず彼の事はおいておくことにした。

 今ウェズンの口から出たのは、レイとウィルという少女である。

 最近思い出したエピソードで、ようやくレイもそういやメインキャラの一人だったなと自覚したイアだが、ウィルと出会った事はない。だがまぁ、ウェズンの話を聞く限り恐らくはイアが知るウィルとそう変わらないのだろう。エルフの少女。見た目は幼い姿だが、その実レイよりも百歳程お姉さんだ。


 人間年齢で換算したら百歳って結構な事だぞ、と思うがエルフの中での百年など大した時間でもない。それにこの世界の人間は人と言っておきながら様々な種族の血が流れていることもあって、長生きする奴は三桁年数平気で生きる。四桁年数までいくご長寿さんは中々いなかったと思うが、それでもゼロではない。

 イアの前世の人間の寿命はもっと短かった。下手をすれば数年でその命を終わらせられた者だっている。大半は同じだけの月日を生きていたけれど、それが果たして本当の寿命であったかまでは今のイアにはわかりようもなかった。


 原作小説の中ではそれなりに拗れていた二人の関係も、なんやかんやで最終的にはどうにかなった、とイアは記憶している。細かい部分は忘れたままだが、確かそこの話が終わった後はウィルはなんだかんだでウェズンたちの良き理解者ポジションに落ち着いていた気がする。

 確か、そうだったような……何か見た目幼いから、マスコットキャラみたいな感じで……

 あれ、それ別の子だったかな? 朧げな記憶のせいで、ハッキリと断言できないのが困りもの。


 なのでまぁ、別にこちらが何かをしなくとも、拗れているらしき二人の関係は最終的に拳で殴り合うみたいな形で終幕にたどり着くはずだ。

 ――と言いたいところであるが。


 それはこの世界の出来事があの小説の通りに展開していっている場合である。


 原作小説と異なるウェズン。

 この時点でもう破綻しているが、更に懸念材料を述べるのであれば。


 ゲーム版主人公たるイアの存在もそうであった。


 小説の通りに話が進むのであればともかく、もしゲーム版の内容が起きるとなるとこのまま放置していては間違いなく不味い。

 ゲーム版ではイアが主人公となり、ウェズンを魔王になるようにしつつも自分はパートナーを選び好感度を上げてエンディングを目指していくわけなのだが。


 レイを選んだ場合の最初の難関イベント。


 それが、ウィルの説得である。


 ちなみに難関とのたまったが、これは今までの話の展開次第では多少難易度が下がる……が、しかし。


(えっ、あたしウィルと遭遇してないって事は、間違いなく最難関ルートになっちゃうじゃん……!?)


 ふわっと思い出した程度なので細かなフラグまでは覚えていないけれど、それでもざっくり思い出せた範囲で語るならば。


 このイベントはウィルがレイに抱く憎しみをどうにか誤解であると気づかせるのが目的である。


 だがしかし、ウィルと事前にどこかで遭遇していなかった場合、まずはウィルと会わなければ話にならない。学外授業だとかで遭遇し、尚且つそこで友好的に接していて友人となっていればモノリスフィアで連絡を取る事ができるので、イベント難易度は低くなる。

 だがしかし、一度も遭遇していなければウィルからすればイアは知らない相手である。そんな相手からいきなりレイの事は誤解なんですと言われても信用できるか――否。普通に考えてお前はいきなり現れて何を言っているんだ? となる。下手をすればレイの手先か何かと思われて敵対する流れにだってなりかねない。


 いくら真実を紡ごうとも、そこそこ信用のある人間の言葉なら聞く耳持ってもらえるが、見知らぬ人間がいきなりそんな事を言ったとして、一体どれだけの人間がそれを信じるかという話だ。


 ウィルと面識のあるウェズンに任せれば……と一瞬考えもしたが、ゲーム版の、イアが本来やらなければならない事をウェズンにさせて、それで余計に拗れたりすれば。

 ただでさえ原作からずれてきているのだ。勿論最初から原作を壊してやろうとは思っていなかったけれど、これ以上崩壊して自分たちの手に負えない展開になってしまったら、流石に困る。

 どうにか軌道修正できるのならば、しておくに越したことはない。


 そうなれば、やはりゲーム版のイベントの通りこれはイアがやるべきなのだろう。


 とは言うものの……


(あたしがウィルと出会ってない場合、ウィルと会うために学院に潜入しないとなんだけど……)


 ゲームのイベントでは割とサクッとこなしていたけれど、実際にやれとなると正直大丈夫か? という気しかしない。

 選択肢をミスれば死んでバッドエンドになったはずだけど、余程ふざけた事をしなければ大丈夫だったはず。とはいえ、それはあくまでゲームの中の話。

 現実で大真面目にしたつもりがふざけた判定されてしまう可能性というのも考えられる。


 我が身可愛さから学院に潜入とかいうのは遠慮したいけれど、しかしこのイベントを放置した場合レイかウィルのどちらかが死ぬのでできるならば成功させるべきだろう。

 ゲーム版だと仲間になるキャラがあまりに死んだ場合、ラスボス戦で死ぬほど苦労するし。ステータス引き継いでも仲間になるキャラが死んだ時点でデバフがかかったはずだ。ここはゲームの中じゃないから、もしかしたらそんなデバフはかからないかもしれない……が、戦力が減るというのはどのみちデバフみたいなものなのでそれもできる事なら避けたい。


 となるとやはり。


(フィンノール学院……行くしかないか……)


 虎穴に入らずんば虎子を得ず、とかいう言葉もあった気がするし。


 ウェズンだって二人の事はどうにかした方がいいと思っているようだし。流石主人公、そういうの勘付くものなんだな……と少々見当違いな事を思いながらも、イアは覚悟を決めるべく。


「おにい、チョコパフェ頼んでも?」

「食べすぎんなよ」

「わかった、チョコパフェとラズベリーパフェだけにしとく」

「増えてるな??」


 とても真面目な表情で、自らの士気を上げるべくデザートを注文したのであった。

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