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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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その先の予想



「思うに両者の話をしっかり聞く必要があると思うの」


 白い部屋。


 テーブルとイスも白。それ以外に何かがあるようには見えない殺風景極まりない室内。

 向かいに座る女は、ほっそりとした足を組みなおして、それから静かにそう告げた。


「え……?」


 女の瞳には困惑しきりな顔をしている自分が映っている。

 そう理解したものの、それでも今の状況にさっぱりついていく事ができていなかった。


「聞いてる?」

「あ、はい。それは。でも、えっ? ちょっと待ってこれどういう状況!?」


 女の姿に見覚えはある。

 あるのだが、名も知らぬ彼女とこうして二人きりで向かい合って一つのテーブルを占拠するという状況がさっぱり理解できない。


 いや、それ以前に自分はどうしてここに?


 記憶を思い返そうとしても、なんだか靄がかかったようでハッキリしない。


「どう、も何も。ここなら邪魔は入らない。二人きりで話ができる。

 そう、例え世界が終わろうとも、ここなら邪魔は入らないのよ、ふふ……ふ、ふふふ」


 何というか、夏の日の中途半端に雨が降った日のような温度を感じさせる笑みであった。

 湿度も高けりゃ気温も高く、雨がちょっと降った程度では涼しさなど感じさせるどころか逆に余計じっとりするような不快な感覚。

 女もそういった笑みであると理解しているのか、最後の方はどこか自嘲気味だ。


「ちょっと待って下さいここは一体!?」


 世界が終わろうともここならずっと一緒にいられるね(ハァト)みたいなノリで言われても、バカップルのようなテンションでそうだねなんて相槌が打てるはずもない。

 自分は一体どこにいるのだ。いや、いつこんな場所に?

 考えれば考える程わけがわからず、ウェズンは思わず椅子を蹴って立ち上がっていた。

 つい今しがた自分が座っていた椅子が、勢いよく後ろへと倒れる。


「ここがどこか、なんて、そんなに重要?」


 しかし女はきょとんとした表情で、そんなウェズンを見上げた。


「じゅうよ……いや、そうでもないのか……?」


 わからない。

 どこかわからない場所にいるというのは中々に問題があるのではないかと思うのだが、それ以前に何故自分はこの人と一緒にいるんだ?

 知らない人ではないけれど、知っている事はとても少ない。知り合い、というよりは顔見知りという方がしっくりくる程度の間柄。

 過去に顔を合わせたのなんて二度ほどでしかないはずだ。

 こんな風に、どこかの一室で二人きりになって話をするような間柄か、と問われれば答えは否。


 学園の敷地内で、ふと出会った。

 そういうちょっとした偶然での邂逅。


 正直名前だって知らないし、連絡先なんてそもそもあるかも疑わしい。


 こんな風にまるで二人きりで会う事を想定したような場所にいる事が、そもそもおかしな話であった。


「わたしを認識しているアナタと、アナタを見ているわたし。深層心理の混じりあった場所。つまり、ここはそういう場所よ。アナタの本体は今頃ちゃんと寝室で眠っているわ」


 思った以上に狼狽えているのが面白かったのか、くすくすと笑いを滲ませ言う女に。


「つまり今、僕たちは夢の中にいる、と……?」

「そう捉えてもらって構わない。夢の世界に二人きりなんて言う程メルヘンでもないけれど」


 夢。は? 夢??


 ウェズンの心境としてはまさしくそれだった。

 えっ、夢なの? 明晰夢とは何か違う気するけど、そこんとこどうなんです?


 明晰夢ならもしかしたら、とちょっと自分の好きにできるのではないかと思ったものの、ちょっと念じたくらいでは目の前のテーブルにお茶も茶菓子も出てこなかった。

 まぁ出てきたところで夢の中での飲食など起きた時ロクに記憶に残っちゃいないだろうと思っているが。


 ちょっと待ってくれ、と何度目になるかもわからない制止の声を上げそうになったのは、本当にこれで……何度目だろうか?

 状況についていけてない。


 気付いた時にはここにいて、女がいきなりそんな風に話し出したとはいえ、何が何だか未だにさっぱりなのだ。これが夢だというのであれば、確か寝る前自分は何を……あぁそうだ、レイとウィルに関してちょっと考えていたはずだ。

 絶対あの二人何か拗れてる~~~~!! ちょっと落ち着いて話し合えば解決しそうな気しかしないのに、間違いなくその展開を片方が拒んでるせいで拗れに拗れてコジコジしてる~~~~!!

 とかそんな感じで考えていたはずだ。


 この先どうなるかは生憎ウェズンはイアが言う原作とやらを目にした事が無いので知る由もない。

 けれども、展開を想像するくらいはできる。前世、一体どれだけの娯楽に触れてきたと思っているんだ。好きな映画はなるべく初日に観に行ってたし、それでなくても弟や妹が布教活動に勤しんできたりしていたし、電車での通勤時間、空いた時間に雑誌だとかスマホだとかでちょこちょこ様々な物を見てきたのだ。

 友人のお勧めだってにべもなく切り捨てる事なく話は一応聞いてたし、世間の流行に乗っかったりもした。


 そうなれば流石に何となくこの先の展開とかにも予想はつく。当たるとは限らずとも。



 レイとウィルの戦いが避けられない場合、どちらかが勝った時点で負けた側は恐らく命を落とすのではないか。何せお互いの立場は勇者と魔王に分かれて将来的に神前試合とやらで戦う事になっている身である。神前試合に選ばれるかどうかはさておき、そういう名目で敵対し戦うし、既にその準備、事前練習みたいに学園に奇襲攻撃仕掛けにきている奴だっていた。

 これは遊びじゃなくれっきとした殺し合いなのだと学園も学院も示している。


 さて、ではその場合、お互いが戦いどちらかが死んだとして。


 レイが死んだ場合。

 まぁこちらの戦力ダウンである。

 ゲームだったら恐らくレイは素早さがそこそこあって攻撃力もあるアタッカー。魔術関連のステータスが低かろうとも物理においては中々に優秀な部類。クリティカルヒットを叩きだせるなら、間違いなく彼はア〇ーナ姫である。いやだなあんなゴツイ姫。自分で想像してウェズンは早々にその考えを打ち消した。もっと他に例えるにしてもマシなアタッカーを想像すべきだった。


 魔法だとかが必須なところではあまり役に立たないかもしれないが、物理攻撃が強いという事はMPだとかの消耗を気にせず通常攻撃だけでも役に立てるタイプ。防御力が紙装甲の魔術師タイプに攻撃されるよりも先に露払いをしてくれるだろう相手。

 相手の攻撃を引き受けてくれる盾役とは微妙に異なるが、それに近しい仕事もしてくれるはずだ。敵の攻撃? 来る前に相手倒せば済む話だろうが。ね? そう考えれば立派な盾役。

 脳内で適当にごり押し理論を繰り広げ、レイが死んでしまった場合の事を想定してみる。


 ウェズンが主人公である、故にウェズンが魔王に選ばれる、いや、選ばれなければならない、というイアの話を基準として考えるなら、ウェズンから見てレイはそういう意味ではメインメンバーに選んでるであろう。魔法や魔術でバフ山盛りにしようとすると、最初に真っ先に攻撃しちゃうタイプなのでバフが効果を発揮するのは二ターン目からであるけれど、それがデメリットになり得るか、と考えるとそこまでではない。

 規定ターン以内にどうにかしないといけない、みたいなミッション時はさておき。


 現時点で他に仲間になって一緒に神前試合に参加できそうなメンバーがとても少ないので、レイがいなくなった場合その穴を埋める相手がいるか? と問われると答えられない。それもあって、今レイに死なれるのはとても困る。



 では、どうにかしてレイには生き残ってもらうべく、ウィルを倒したとして。

 そこでウィルが死んだとして、レイのメンタルがどうなるかも不安である。

 仮にも友人。それなりの年数気にかけていたであろう相手を自らの手で仕留めるというのは、レイがウィルを殺したいくらい憎んでいるならまだしも、現状は逆だ。殺したいと思ってるのはウィルで、レイはそんなことを思っているわけでもない。

 仮にレイを生かしたとして、そこを精神的に乗り越えられなければやはり戦力ダウンは免れない。


 学園と学院という立場的に敵対してさえいなければウィルと殺しあう事もなかった、なんていう結論に至り、神を殺したいくらい憎んだとして、神前試合で万全の状態で挑めるか……復讐は一種のモチベーションであるけれど同時に怒りに我を忘れて自滅するパターンも前世の創作物ではたっぷりと存在していた。


 何だかそこら辺を考えると、これレイが負けて死ぬのが本来のシナリオなのでは……? という気がしてくるのでウェズンはその考えを振り払うようにそっと今考えていた事を打ち消すように別の方向性を考えてみる。



 仮にウィルが死んでもレイのメンタルが何にも影響を及ぼさなかった場合。


 仲間を殺された事で、勇者側がより一致団結して更なる強敵となる。

 有り得る。とても有り得る。

 ただでさえ厄介な敵が更なるパワーアップを遂げてしまうパターン。

 こちらにとってメリットらしいメリットは恐らくない。

 仮に強敵を倒したとしてEXPとか大量ゲットだぜ! とかいう事になったとしても、そもそもそれは本当にその苦労に見合うだけのものであるか、と聞かれると微妙な気がする。

 正直別の場所で何か適当に魔物一杯倒したらゲームならそれだけの経験値回収できるんじゃね? とかいう気分にさえなってくる。


 レイかウィル、どちらが死んだとしても、何というか今後の展開、自分たちにとって何一つ有利な事なんてないんじゃないか? そう思えてきた。

 戦いの場が神前試合で、どちらかが死ぬまで戦うしかない、というのであればここまで悩む必要もないのだが。だってそこまで行けばもうその先の事なんて考える余裕もないというかなんというか。



 ちら、と視線を女へ向ければ、女は最初からほぼ姿勢を動かさずにこりと微笑んでみせる。

 テーブルに手をついた状態で立ち上がっていたけれど、ウェズンは自分が立ち上がった時に蹴飛ばす形で倒してしまった椅子を戻して、それから座り直す。


「話し合いっていってもさ」


 どうしろと。


「さてね。けれど手段がないわけじゃない。自分一人の力で解決するのが難しいなら、それができそうな相手に相談するというのも手だよ」


 それは、確かに。


 納得はするものの、しかし誰にという話だ。


 レイとウィルの問題にあまり首を突っ込む人物を増やすのはよろしくない気がする。

 学園に来る以前の出来事。今は学園の生徒であるとはいえ、流石に勝手にテラなどに相談するわけにもいかないだろう。というかあの人は間違いなく、揉めてる相手が学院の生徒ならじゃあついでに倒しておけとか言いそう。



 どちらか、あるいは相打ちで両方死ぬような展開になると、なんというかとても困る気がする。

 それなら確かになるべくあの二人を穏便な方法で和解させた方がいい。死亡フラグがあるかどうかもわからないが、あるならそれをぶち折っておくべきだろう。


「相談か……」


 頼りになるかどうかはさておき、ウェズンの脳裏には約一名の存在が浮かんでいた。


「健闘を祈っているよ。きみのためにも、わたしのためにも」


 ウェズンのため、というのはわかるが自分のためというのはどういう事だろうか。

 そう思って問いかけようとして、ふと顔を上げれば女の姿は忽然と消えていた。


「は……?」


 同時に。

 白い部屋が更に真っ白になる感覚。目を閉じて、夢の中なのに目を閉じるってのもどうなんだろう? なんて思いながらも再び目を開ければそこは。



 紛う事なく自室だったのである。

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