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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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第三者曰く拗れている



 この場では完全に第三者の立場であるウェズンでも、何となく状況に想像はつく。


「無事だったんだな……」


 なんてどこか呆然とした口調で言うレイの様子から、かつてこの島ではぐれた友人とやらがウィルなんだな、という部分にたどり着くのは容易であったしウィルもウィルで、

「再会の場所がここだなんて皮肉なものだね」

 なんて言ってるし。


 これで先程レイが話していたこの島での思い出話一切無関係だったら流石にウェズンも「えぇ……」と軽く引く自信しかなかった。


 ウェズンがウィルと出会ったのは、学園での事だ。

 あれからそこそこの日数が経過しているとはいえ、まぁ忘れられるはずもない。

 何せ勇者側の連中が魔王側に攻撃を仕掛けてきた日でもあるのだから。

 とはいえ、ウィルはそこまで積極的に魔王側の生徒をぶち殺してやるッ!! というようなジェノサイド感あふれる気合はなかった。ただ、どうしても仕留めたい相手が学園にいるような事は言っていたし、あの日の襲撃イベントにそいつが参加しているかどうか、確証はなかったがとりあえず参加した、という感じであった。いなければそこそこに参加して、いたら確実に仕留める。

 結果としてウィルが探し求めていたターゲットは見つからなかったようなので、適当に数人仕留めて帰っていったわけだが。


 学院の生徒でもう一人、ファラムという少女とウェズンは知りあっていたが、そのファラムとウィルはそれなりに仲が良いようにも見えた。

 積極的に目についた相手を殺そうとしていたわけでもないウィルと、何が何だかわからんがまぁとにかく生き残るのを目標とする、という精神のウェズンとが出会ったとして、そこで殺し合いに発展しなかったのも大きい。ウィルもファラムも殺意みなぎるタイプではなかったからこそ、なんだかんだ前に出会った時に悪印象もなかったウェズンを見て、よし殺そ、とならなかったのだから。

 そうじゃなかったら多分あのままバトルに突入していたし、ましてやヴァンを殺されていた可能性もある。


 噂によれば積極的に学園の生徒を殺しにかかってくる学院の生徒もいるというし、そういうのと比べればファラムもウィルも穏健派と言えるだろう。ウェズンにとっては、という言葉が前置きにつくけれども。


 だがしかし、今回は恐らく話し合いでどうにかなる問題ではなさそうだとウェズンも早々に理解した。


 何せ前回会った時と異なり、ウィルの向ける眼差しは底冷えするかのような冷たさを放っている。先程ウェズンに挨拶した一瞬だけはその冷たさも消えていたが、レイを見る目は完全に敵を見る目そのものであった。

 先程ぶん投げた錫杖も、ちょっと相手の隙をついてビックリさせよう、とかそういうのではなく確実に狙いすました一撃だったのだろう。そう考えるとウィルから見ればウェズンも余計な事をした相手、という事で敵認定されそうなものなのだが……


「えぇと、知り合い?」


 けれどもその後の挨拶で、ウェズンは敵とまだみなされていない気がしたのでわかっていながらも二人に向けてそう声をかけた。

 放置しておけば勝手に二人だけでわかる会話を繰り広げて、そのまま戦いに発展すると思ったのだ。そうなったら、何が何だかわからないながらもウェズンとしてはレイに加勢する可能性が上がる。

 というか確実にレイに加勢する事になる。


 何故って、ここでレイに死なれたら困るからだ。


 要塞を作るにしても、設計図は入手した。だが、設計図があるからあとは大丈夫! と言えるかと言われるとまぁ無謀だろう。設計図に要塞を作るにあたって必要な材料だとかが書かれているわけでもなし。

 必要な材料だって恐らく全て把握できてるクラスメイトは少ない。ちなみにウェズンはこれっぽっちも把握していない。というか、そこら辺聞く前にレイにこの島に連れてこられた。

 船員たちが回収している海の底にある岩だかも使うらしいが、緑琥珀も必要。今のウェズンにわかっているのはそれだけだ。


 ここでレイが死んだとして、その後どうするかという話になるのは言うまでもない。

 他に何が必要なのか、ある程度把握しているメンバーがいればいいが、そうでなければどう足掻いても急ごしらえの代物しか作れずに交流会とやらはさぞ悲惨な事になるのが目に見える。

 そうなったら間違いなく今後の学園生活が大変な事になるだろうし、それだけは避けたい。他に避けるべき事はあるけれど、現状目先の話として考えるならばまずはこの交流会を乗り切らなければならないのだ。


 正直それがなければ二人の問題だし……とか言って放置したかもしれないが、今この場でレイの命を失うような展開になるというのであれば、流石にウェズンも放置はできなかった。


 そこは素直にレイが心配とかではないのか、と突っ込まれたとして、レイは一応仲間ではあるが正直まだそこに至るまでの感情はない。頼りになる仲間、という認識だけれど、彼が死んだら今後どうすればいいんだ!? となる程かと言われるとそうではないのだ。恐らくレイだってウェズンに向ける感情はその程度だろう。


 ただ、この場でどちらかが死ぬようなことになったとして、レイは交流会まで死なれては困るだろうし、ウェズンは……まぁ、死んでも他に代わりはいる、と言えなくもない。イアからすれば主人公死んだらアウトでしょ! となるかもしれないが、他のクラスメイトからすればそんなものだろう。


「さっき話した友人だな」

「へぇ、レイの中ではまだウィルはともだちだったんだね。本気で言ってる?」


 静かな口調で告げるレイと、同じく静かな口調ではあるもののとんでもなく棘のあるウィルと。


 一方的に視線から火花が飛び散りそうな勢いすら感じたが、レイの言葉にウェズンとしてはあぁやっぱりな、という感想しか出てこない。そして、対するウィルの刺々しさ。

 これ絶対何かどっかで拗れてるやつじゃないか。創作で履修したから知ってる。

 思わずそう言いたかったが、言ったところで理解を得られるとは思っていない。

 第三者からすればともかく、張本人である相手に言えば逆にそんな作り話と一緒にするなと怒られる案件ですらある。


 すっとウィルが右手を左から右へと薙ぎ払うように動かした。

 同時に、妙にトゲトゲした光の玉がいくつも浮かび上がる。

 見た目からして嫌な予感しかしない。

 ウィルの手が次に前方へ突き出すように向けられた。同時にこちらに向かってくるトゲトゲ玉。


「ぅおっ!?」

 レイを引っ張っていた手は既に離していたが、再度背中あたりの制服を引っ掴んで勢いと遠心力を利用するように身体を反転させつつ回避する。枝にぶちあたったトゲトゲ玉は爆発こそしなかったけれど、重たい音を立てて枝にめり込んだ。命中しなかったので正確な事は言えないが、それでもきっと、レンガなどで殴られるよりは痛いだろう事が窺えた。


 回避したはずなのに嫌な予感が消えなくて、ウェズンは咄嗟にレイを引っ掴んだまま風の魔術を発動させて更に上の枝へと跳んだ。と、同時に。

 トゲトゲ玉が急激に縦に伸び、トゲ部分も急成長しましたと言わんばかりに伸びる。

 遠目で見ればもしかしたら、葉のない木か何かだと思ったかもしれない。けれど近くで見るそれは普通に殺傷能力の高そうな代物であった。

 あのままだったら間違いなく刺さっていた事だろう。


「ウェズンはウィルの邪魔をするの!?」

「や、邪魔っていうか、今こいつ殺されると色々と困るから……!」

「困らなかったら殺すみたいな言い方だなオイ!?」

「えだって二人の問題でしょこれ」


 たまたま居合わせただけの第三者に何ができるというのか。

 そう言いだしてもおかしくないくらいの表情で、ウェズンはレイとウィルを交互に見た。


「いつなら邪魔しないの!?」

「えぇっと、今交流会に向けての準備中なんで……交流会入ってからなら……?」

「交流会……あぁ、あれ」


 ウィルも言われてあぁあれねと何度か頷いている。

 一応既に向こうでもそのお知らせはされているらしい。


「もしかしてウィルも参加する感じ?」

「レイがいるなら勿論」

「そう。当日は万全の状態で出迎えてみせるから、楽しみにしててよ」

「……いいよ。わかった。今日のところは見逃してあげる」


 ここで戦うのであればウェズンもレイに加勢する。それは免れないとウィルも理解したのかとてもしぶしぶな様子ではあったが、どうあれ今ここで戦う事はやめる事にしたらしい。

 内心で安堵の息を吐きそうになりながらも、しかしここであからさまにホッとした様子を見せるのはよろしくないと感じてどうにか表に出さないようにする。

 明らかにここでそんな様子を見せたら、相手の思い通りになったとウィルが思う事でやっぱり嫌がらせの一つでも……という心境にならないとも限らない。そうしてやっぱりここで仕留めるなんて言い出されたら、レイの身はタダでは済まないだろうし参戦するウェズンも怪我で済むかもわからない。


 ウィルの実力は未知数であるものの決して弱くはないだろうし、いくら数の上で有利であろうと無傷で勝利できるか、と聞かれれば自信はなかった。


 ウィルの手が何かを掴もうとしたかのような動きを見せたと思えば、先程突き刺さった錫杖がすっと音もなく浮かび上がる。そのままウィルの手に収まった錫杖が淡く輝いたかと思えば――


「今のうちに精々準備をしておくことだよ、レイ」


 そんな言葉を最後に、ウィルの姿が消える。


 神の楔で転移したという感じではない。

 魔法か魔術かはさておいて、ウィルはそれが使えるだけの実力があるという事か。

 やはり二人で戦う事にならなくて良かったのかもしれない……などと、ウェズンは改めて安堵の息を吐いていた。


 その直後、ぞわりと背筋に粟立つ感覚がして、ほとんど反射で障壁魔術を展開させていた。


 トゲトゲ玉が伸びて、殺傷力の高いオブジェみたいになっていたそれらが、バンッ! という破裂音と共に爆発したのは障壁を展開させたのと同時だった。

 弾けたそれらがウェズンやレイめがけて炸裂したが、障壁で防げたので二人とも無事である。だが、障壁がなければどうなっていたかはわからない。


 恐らく生きてはいるだろうけれど、かなりの大怪我は免れなかっただろう。


「あっ、ぶなああああああ!?」


 よし今回はどうにかやり過ごせたぞ、みたいに安心した直後にこれって、ちょっとウィルさん殺意が高すぎやしませんかね!? とか言いたかったが、言ったところで既にその本人はいない。


「なぁレイお前ホント何したの!? なんであんな殺意に満ち満ちてんの友人なんでしょ!? 僕前に一度会っただけだけど、あの子そんな悪い子じゃないはずですけど!?」


 そりゃまぁ、敵とみなした相手を殺せる程度に容赦のない相手ではあるけれど、しかし話が通じないタイプではなかったし、敵対関係になければ間違いなく交友関係は広く築けるだろうとも思える。


「何、故郷の森でも焼いた? それ黙って友人関係築いてた?」

 そうであれば、憎まれてもわからんでもない。

 けれどもレイはんなわけないだろ、と不貞腐れたように吐き捨てるだけだ。


「そんなの……俺が知りたい……!」


 ウェズンが引っ掴んでいたレイの制服を手離せば力を失くしたようにレイはその場に座り込んだ。

 その様子から、本当に心当たりがなさそうなので流石にちょっと言いすぎたかなとウェズンも思いはしたものの。


「交流会の修羅場度合が上がったよね、これ間違いなく」


 なるべく戦闘回避しようとした結果、事態を先延ばしにしただけになってしまったのは言うまでもないけれど。


 改めてそれを口にすると、なんだかとても気が重たくなってきたのを感じる。


 交流会と言う名のバトルイベントで、確実に一名のやる気をみなぎらせてしまった。

 他の参加者のモチベーションがどうかはわからないが、一人やる気のあるやつに感化されて大してやる気のなかった参加者が一斉にやる気になる、なんて展開がないわけではない。逆に一人だけ張り切って周囲が冷めきっている、なんてこともあるにはあるが、その可能性は正直薄いと考えるべきだ。


 なんだか自分で自分の首を絞めているような……そんな気がしたのは間違いなく気のせいではなかった。

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