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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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在りし日の思い出



 レイが罠を見つけたり解除したりするのがやたら得意だというのはイアから聞いていた。単純にそういう特技なんだろうな、と思っていたが、そりゃまぁ家が海賊と盗賊となれば本職じゃねーかとしか言いようがない。

 そういや泳ぎも得意って言ってたな……まぁ、そりゃ海賊やってたら何かの拍子に船から落ちたりすることもあるだろうし、その時に泳げなかったら死ぬもんなぁ……と思ったのでなんというか、何もかもに納得がいった瞬間であった。


 今の今まで名前を聞いただけでピンとこなかったのはウェズンの生活圏内でその盗賊団だとか海賊団だとかが幅を利かせていたわけではなかったからだ。だからまぁ、ウェズンから見たレイはやたら喧嘩が強い奴で、案外面倒見がいい奴、という認識であった。イアが何だかんだお世話になっていたので。


 だがしかし、思い返してみれば他クラスの生徒がたまにレイをちょっと怯えた様子で見ていたり、極力関わらないようにしようとしていたりしていた事はあった。

 てっきり喧嘩売って返り討ちにでもあったんだろうな、と思ってスルーしていたが、もしかしたらレイと地元がかぶっていた生徒だったのかもしれない。だとすれば、あの怖れようは理解できる。


 海賊だけなら暴れまわるのは海がメインだろうけど、盗賊は遺跡だとかそれ以外の陸地で財宝がありそうな場所であればどこであっても活動していそうなイメージ。

 つまり、陸と海でのアウトローが融合合体してしまい、海賊の行動範囲が無駄に増えた、と考えると平穏に暮らしている者からするとそれはまさしく脅威だっただろう。


 海賊だけなら精々たまに物資の補給で陸に来る、みたいな事はあっても大半は船の上だろうし。

 だがしかし、陸でも拠点を持っているようなら、その近隣は気が休まらないのではないか。別に自分に被害がこなかったとしても。


 今の今まで何の事件が起きてなかったとしても、自分の家のお隣さんがヤとかマのつく自由業の人だ、と知ったら何かの事件に巻き込まれたりするのではないか……? と危惧するようなものだ。

 自分とは別の世界で生きてる相手となれば、たまたま家を出た直後に遭遇して挨拶しただけでも相手の気分がイライラしていたりした場合、八つ当たりで殴られるのではないか、なんて勝手に恐れるような。

 関わらないようにしていても、露骨に目を逸らしたらそれはそれで相手の怒りを買いそうだとか。


 実際にどうだかわからなくても、悪い想像ばかりを考えてしまって、というのはあり得る。自分に関係のない遠い地での出来事ならそんなことをわざわざ考えたりもしないだろうけれど、身近にあるからこそ最悪の事態を想定してしまう。


 えー、初日にそんなのと殴り合ったのか僕……とは思ったものの、それだけだった。

 何故って別にその後ことあるごとに絡まれたり勝手なライバル宣言されて毎回喧嘩売られたりだとか、そういう事がなかったからというのもある。


 まぁでもそれはそれで、相手の本拠地みたいなところに連れてこられるとは思っていなかったけれど。

「おわぁ……」

「お前のその声は一体どういう感情なんだ」


 レイが呆れたように言うが、どういうも何も、というのが答えである。


 例えるならば仲良くなったお友達の家に遊びに行ったらご近所で近づいたら駄目って言われてたヤクザの本拠地だった、みたいな気持ちが近い。まぁウェズンの場合は自分から遊びに行ったわけではなく、気付いたら連れてこられていた、が正しい。

 というか今からこの場を離脱したくとも、船は既に大海原に出てしまっている。

 気付けば陸地が随分遠くなっていた。ここから泳いで戻るのは難しいだろうし、魔法や魔術を使って陸地に戻ろうとするにしても中々に疲れそうだ。

 というか寝起きで朝ごはんもまだな身である。多分今からいきなりそんな魔術だとかを使えば途中で力尽きそうだし、陸地についた時点でまずご飯食べなきゃ帰るに帰れない。リングの中に収納している食料はあくまでも保存食系なので、率先して食べようとは思わなかった。

 ちゃんとした料理とかもリングに収納できるのはわかっているが、やるとしても割とすぐに食べる事が確定しているお弁当くらいであった。

 いくらリングの中で時間が停まっているとはいえ、インスタントでもない三年前のスープとか飲めるか、となると気持ちの問題で遠慮したい部分があるからだ。

 三年で済めばいいが、下手したら何十年前のやつですかこれ……みたいなのもいずれは出てきてしまいそうで基本的には保存食をメインに入れる事にしてある。



「とりあえずメシ食いながら説明するわ。ついてこい」

 ウェズンのなんとも言えない声と表情が、起き抜け故の空腹である、という事だと勝手に自己完結したレイはウェズンの返事を待つでもなく移動する。

 流石に甲板に放置されたままだと困るので、ウェズンもしぶしぶではあるがレイのあとをついていった。そうじゃないと、少し離れた場所で未だ殴り合ってる野郎どもにそのうち巻き込まれるのではないかと思ったので。



 ――先程釣り上げたという魚を調理した物を出され、それをもぐもぐと食べていたウェズンに説明されたのは、要塞づくりに必要な素材集め。そのために現在それがある島へと向かっているのだとか。

 神の楔はとウェズンが問えば、前に行った時にはそんなものはなかったとの事。


 聞けば無人島のようだし、そんなところに神の楔など打ち下ろしたところで意味がないと神も判断したのかもしれない。無人島周辺から他の有人島だとか別の大陸へ行けそうだというのであればともかく、誰も住んでいない、行くには船くらいしかマトモな交通手段がない島、なんて場所結界で閉じ込めたところで意味がないとウェズンが神ならそう判断する。

 周辺は海ばかりで、万一そこに流れ着くような事になったら一生島から出られなくなるのでは……? と考えると割と絶望的ではあるが、誰も訪れないような島だからこそ、それなりに資源が豊富なのだとか。


 船で行くにしても他の土地へ行くついでに寄るような場所じゃないらしく、また恐らくではあるが瘴気濃度も大分低いと思われるとレイは言っていた。


「その島には偶然辿り着いたんだがな……」

「へぇ」


 そう説明するレイの表情は、しかしどこか暗い。


 嵐によって本来の航路から離れてしまった結果、漂流する形でその島にたどり着いたのだとか。もう何年も前の話で、まだレイが小さなこどもだった頃の話だ。

 島にたどり着いて、船の損傷具合を確認し、破損とまではいかずともある程度の修理は必要だと判断した結果、島には数日滞在する事になった。

 幸い島には果物だとかがあって、動物の姿はあまり見かけなかったが鳥などはそこそこいたので、肉に関してもどうにかなったし釣りで魚を確保する事もできていた。なのでそういう意味では食料の残り具合を気にして大急ぎで修理をする、なんて事もなく、まぁ皆気軽な感じで作業に移っていたのだとか。


 リングのような収納魔法だとか魔術が使える道具があればまだしも、当時のレイたちの船に乗ってる連中はそういった物は持ち合わせていなかったし、更にはそういった魔法や魔術も使えなかった。

 だからこそ、船の中に積み込んだ食料が命綱であったのは言うまでもない。

 途中で魚あたりならどうにか追加確保もできたけれど、やはり果物や野菜、肉といった物は中々そうもいかなかった。

 レイたちの船はそこらの船と比べれば大きさは段違いであったものの、だからといって畑だとかを作れるような余裕はなかったし、仮に作れたとしても場所は甲板に限られる。水に関しては魔術で出せる者がいたとはいえ、嵐に巻き込まれたり大波が船に流れ込んだりすれば作物なんてあっという間に枯れてしまうのは目に見えていた。塩水でも育つ植物ならともかく普通の植物はそうもいかない。


 けれども島には果物のほかにも食べられなくはない野菜が育っていたから、これなら大急ぎで作業しなくても大丈夫そうだな、なんてレイの父も言っていたのだ。


 その島は素材の宝庫と言っても過言ではなかった。


 ぐるっと島を一周する形で探索してきた他の船員たちの言葉では、食べ物はそれなり。木材に関しても大量にあるから困らない。それどころか、島には洞窟もあってそこにはいくつかの鉱石も見つけられたのだとか。

 魔物のような危険な存在はいないし、毒を持った生物もざっと確認した限りでは恐らくいない。


 余程生活能力が皆無でない限り、ここに漂流したとしても充分生きていけるだけの物はあったのだ。

 まぁ病気なんかになったら一発アウトだろうな、とウェズンは思うわけだが。


 当時、レイの船にはもう一人、レイの友人も乗っていた。

 だからこそ幼いレイはその友人と島の探検に乗り出したらしい。

 一日じゃとても終わりそうにない探検は続き、いつもならまだ早いからと参加させてくれないため待つだけだった修理だとかの時間は、レイにとってまだ終わらなくても構わないと思えるほどに楽しい時間になっていた。


「へぇ、で、その友人は今どうしてるの?」

「さぁな」

「えっ」


 そもそも必要な材料の調達に出てきたのだから、まずはそれについて聞くべきかなとも思ったのだがそんな物は島に到着すれば嫌でも聞く事になるだろうから、とウェズンは島について話してる途中から友人との思い出話に変わっていたそれに乗っかった。

 てっきり今もこの船に乗ってるだとか、別の町で船をおりて今はそこで暮らしてるだとか、なんだかんだで離れてはいるけど今でもそれなりに友人関係を築いているとか、そういう返答がくると思っていたのだ。

 ところがレイの反応はウェズンの予想とはこれっぽっちもかすりもしておらず、どころか本人ですらわかっていない口振りだった。


「あの島で、はぐれたんだ」

「えっ、もしかしてその島、何気に大きくて迷路みたいになってるとか……? 今の話だけだと危険そうな感じしなかったけど!? これ僕とレイだけで大丈夫? この船の人も手伝ったりしてくれるとかではないんでしょ!?」


 見たところこの船に乗ってる連中は皆ムッキムキの筋肉が眩しいマッスル共である。特技は荒事、三度の飯より喧嘩好き、そんな風に言われたら間違いなくウェズンは納得する。

 だからこそ、力仕事に関して手伝ってもらえるなら頼りになるだろうけれど、しかしこれは学校の行事だ。第三者の手を借りてはいけないとは言われていないけれど、ボランティアで付き合う程彼らも暇ではないだろう。


「あぁ、こいつらもあの島にある鉱石をいくつか回収したいっつってたからな。俺たちはそれに便乗して連れてってもらってるだけの立場だ。手伝ってはもらえない。向こうは自分たちに必要な物を、俺たちは俺たちで必要な物をそれぞれ確保したらあの島からはさっさと出るさ」


 正直それ、自分と二人だけとかおかしくない? と思わないでもなかったが、いくら船が大きかろうと積み荷だとかはあるだろうし、誰彼乗せて構わないというわけでもないのだろう。

 客船であれば乗船料は必須だし、レイの家の船と言う事でウェズンは何か知らんうちに乗せられてたとはいえ、交通費がかからない感じなわけで。

 クラス全員乗せてくれ、なんて言っていたら間違いなく却下されてるか、はたまた目的地に着くまではそのかわり労働力として働けとなっているか、そうでなくとも船賃にかわる何かは対価として差し出していたはずだ。



 というかこれ、今更言うまでもないけど海賊船なんですよね……と考えたらそりゃあレイのお友達とか学友だとかまぁ、クラスメイトだとかの言葉がついていようとも、気軽に誰でも乗っていけとは言えないだろうな、と嫌でも理解するしかない。

 レイの知り合いだから今のところ何事もない感じではあるけれど、もしそうでなく普通に何かの事件に巻き込まれてこの船に乗る形になっていたら、最悪どっかに売られてるとかあるんじゃなかろうか……だって海賊だし……とウェズンは目の前の男もそうだという事を分かった上で割と失礼な事を考えていた。

 人身売買に関しては本当にしているかはわからないけれど、前世知識によってそこら辺ナチュラルに組み込まれている。やってたとしても驚かない。そんな気持ちだけはたっぷりだった。覚悟を決める部分が間違っている。


「え、じゃあその島に行くと友人が……?」

「どうだろうな」


 レイの言葉からは希望だとか期待だとかそんなものはこれっぽっちもなかったし、更にはこちらを揶揄っている、というような感じもしなかった。


「え、えぇー……」


 どう足掻いても絶望の気配がする。目的地に行く前にそこに関わる絶望的な話とか、正直不吉な予感しかしなくなるからやめてほしいな……とは流石に言い出せなかった。

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