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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
序章 攻略本が来い

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恩恵があるかは別として



 授業に関してはとてもさらっと終わった。

 というかある種の確認で終わったと言ってもいい。


 この学園に通う生徒は世界各地から訪れている。

 一応学園入る前にいくつかの書類を提出したりしていたとはいえ、時としてその書類を本人ではなく親が代わりに、という事も過去あったらしい。

 そしていざ学園にやって来たその生徒は何と文字の読み書きも覚束なかったのだとか。


 そうなると実戦形式の授業はさておき座学は全滅である。

 口頭で教師と対面で、という形式ならともかく一人ずつそんな事をやっていたらいつまでたっても終わらない。知識として理解できているならともかく、理解した振りで実際これっぽっちも理解していなかった、なんていう生徒もいたし、魔法陣に関する授業などもあるのでそれに関してやはり文字が書けないと話にならない。

 しかし文字の読み書きもロクにできない生徒のために授業をそちらに寄せる余裕もない。いや、一応そういった相手に対して教える教師がいないわけではないのだが、そうなるとクラスを移動してもらう事になる。

 数日遅れで別の教室に移動した、となればその手の噂は生徒間で駆け巡り場合によっては面倒な事になるのだとか。


 具体的にはお前その年になるまで文字の読み書きもまともに教わってないのかよ、と煽り散らかす奴が出て喧嘩に発展する、というかした、と言われた。


 これが単なる子供の殴り合い程度ならまだしも、場合によっては武器まで持ち出しての殺し合いになりかねない。前世で暮らしていた国は平和だったのでそれを聞いたウェズンはマジかよ異世界おっそろしいな……と素直に思った。

 そもそも魔物がいる時点で物騒なのは言うまでもない。


 大体前世と比べて法もまともに機能しているかどうかも怪しい。


 そこで無駄に敵を作れば、何が起きてもおかしくはないのかもしれない。大体学校なんてある種のクローズドサークルみたいなものだし。

 一応転移門が存在しているからこの学園の外に出られないわけではないけれど、普段は寮と学園を往復するだけの状態だ。外に出るという意思がなければある意味で陸の孤島にいると言っても過言ではない。


 転移門でこの学園がある島へ来た時の事を思い出す。ほんの数日前なのになんだか随分と前の事のように感じた。


 学園があるここは、世界のほぼ中心に位置しているのだとか。ここに来る前に父に古い地図を見せられて教えられた。

 転移門があったのは学園よりも高い位置にある浮かんだ小島だった。

 そこから階段状に浮いている石の上を移動して地上へ降りる形でこの大陸へ。

 ゲームだったらグラフィック凝ってんなぁ、とか思ったのかもしれないけれど、いざ実際にそこを自分で移動しろとなると途中でうっかり足踏み外さないかと不安で不安で無駄に胃がキリキリしたのは確かだ。

 ゲームだったら落ちないようになっているかもしれないが、生憎ここにそんな親切設計は存在しない。


 浮かぶ石の上を歩いて周囲の景色を見ればとても幻想的ではあったけれど、あれ高所恐怖症の人間だったら間違いなくアウトだなとも思ったほどだ。


 学園と寮。基本はそこの往復だろうけれど、しかし少し上の方から見た限りでは森や川なんかもあったし、離れた場所に何やら建物めいたものも見えた気がする。余裕ができたらこの島を探索してみるのもいいかもしれない、とは思ったが果たしていつになる事やら。


 ともあれ、割と大きな島ではあるけれど、転移門でそれ以外の場所へ行くにしてもすぐに、というわけにはいかない。もしこの学園内で生徒全体を巻き込んだ殺し合いにでもなったら、脱出するだけでも相当苦労しそうだった。

 殺し合いまでいかずとも、下手に敵を作って乱闘騒ぎになったとしても厄介というか面倒事であるのは間違いない。


 テラも過去にそういった経験を何度もしたのだろう。いい加減うんざりだ、とでも言わんばかりの表情を浮かべている。



「そういうわけでな。本当に一応なんだが、お前らがきちんと読み書きできるかどうかのテストだけはさせてくれ。最初から読み書きもまだ覚えていなくて代理で親が書きました、とかわかってるならともかく、なんでか意図的にそこを伏せて入るやつも毎年困ったことにそれなりにいるんだ」


 毎年いるのか。


 そこはちょっと驚いた。


 何年かに一度、くらいならわからんでもないが、毎年……!?

 書類とかにそこら辺きちんと書くような部分はないのか、と思ったけれど、思い返してみれば書類の記入者とかサインするところあったなと思い出した。

 代理の人が記入した場合はその人の名前をこちらにサインしてください、みたいなのが確かにあった。

 そういうの役所で戸籍謄本とか印鑑証明とか申請する時に見た覚えはあったな前世で、なんて思ったのも思い出した。


 てっきり役所とかそういうところに提出するのかとも思ったけれど、あれはつまりそういう事だったのか。


 とりあえず配られた用紙に名前を書いて、いくつかの質問項目に記入するだけのテストと呼ぶほどでもない物が配られる。

 ちなみにこの世界、かつて異世界から訪れた人だとかによって様々な文字が乱立している。

 共通語はファンタジー漫画なんかでよく見かけるようなアルファベットをちょっと変えたようなものだが、古代文字扱いされているものの中には海外で見た事があるような言語だとか、はたまた日本語っぽいものも存在していた。そして、ウェズンが全く見た事のないような記号めいた文字も。象形文字かと思ったがどうにも違うそれは果たして一体どこの世界の言語だったのだろうか。


 もしかしたら、前世のイアと同じところから来た異邦人なんてのも……と思ったが、調べたところでどうなるものでもなし。

 そんな事を考えてるとは悟らせない表情のままウェズンは用紙に文字を書き連ねていった。


 その後は制服以外にも運動着だとかが支給されるとの事で、希望サイズを申請し、この後先程のテストもどきを確認次第教科書などが届けられるらしい。寮の自室に。


 正直それって昨日のうちにやっておいて良かったんじゃないか? と思えるようなものだったけれど、生徒に対して教師の数はそう多いわけでもなく、仕事があるので全部を一度に纏めてやる事はできないのだとか。

 大人の事情ってやつだ、と言い切られてしまえばどうしようもない。


 ついでに授業が始まってからはお前らも結構大変な事になるから、今のうちに同じクラスの連中とだけでも多少親睦深めとけ、なんて言われてしまえば、余計何も言えなかった。


 えっ、授業内容どんだけハードになる予定なんです?

 休み時間に話をする気力もなくなるって事ですか?


 そんな不安がそこかしこで飛び交った。


 そう言われたからはいわかりました、で周囲の連中と話しをする雰囲気では全くなかったのは言うまでもない。


 何名か、小声でぽしょぽしょと会話はしていたようだが、仲良くなれるかと問われれば……とても微妙なところだ。ウェズンが何となく周囲を見回した時も、ほとんどは「そんな事言われましても」と言いそうな感じであった。中にはそんな事言われたところで仲良しごっこなんぞ誰がするかよ、みたいな態度の者も数名いた。


 和気藹々というにはほど遠いが、だからといってギスギスしているわけでもない。全員が全員、そこはかとなく距離を取っているとでも言おうか。いい感じの距離感だと思える相手からすれば居心地はいいかもしれないが、そうでなければ息苦しいクラスだろう、なんて思う。

 大体初日に殴り合いしてるんだから、それで何事もなく仲良くできるか、という思いもあるのだろう。

 それはもう微妙な空気が漂っていた。


 そうしてとても微妙な時間が過ぎ去って、学園の食堂で昼食を済ませた後ウェズンは寮の自室へと戻る。


「ただい、ま……」


 ドアを開けて最初に見たのは何だったか。

「あれ?」

 てっきり部屋を間違えたかとも思ったが、許可をされていない限り他人の部屋に入れるはずはない。仮に許可されていないまま侵入できたとしても、セキュリティとして部屋の主が選んだ世話係が迎撃するはずだ。けれどもそういう感じはない。

 一度部屋の外へ戻って部屋番号が記されているプレートを見るが、間違いなくウェズンの自室である。


「お帰りナサイ坊ちゃん!」

「あぁうん、ただいま。それでその、この部屋は、一体……?」

「ちょっと頑張ってみまシタ!」

 えっへん! とばかりに胸を張るナビだが、何をどう頑張ったらこうなるのだろう。


 殺風景極まりなかったはずの室内は、一体どこのホテルのスイートだと言いたくなるほどに見違えていた。



 ウェズンは知る由もない事ではあったのだが。

 イアの知る限りでのゲームでこのゴーレムが部屋の管理人になるのには条件がある。

 二周目以降である事。そして、ある特定のエンディングを見ている事。

 最短で一周目にそのエンディングを見る事ができていれば、二周目の最初の時点でゴーレムを選択可能になる。なるのだが、一周目でそのエンディングを迎えるのはそこそこ難易度が高く、イアは前世で四周目あたりでゴーレムを選択できるようになった。


 ちなみにそのエンディングは原作同様ウェズンを魔王にするのは言うまでもなく、また彼以外の人物との仲もある程度深めなくてはならない。キャラとの好感度上げばかりにかまけていれば肝心のステータスは上がらず、そうなると学園での成績は底辺を這いずる事にもなる。そうするとウェズンとのエンディングを迎える事も難しくなるので、二周目以降のパラメータ引継ぎを駆使しつつ目指した方が楽ではある。


 隠しキャラならともかく、何で部屋の管理を任せるマスコット的ポジションのキャラがそんな苦労する条件つくんだ、と思われそうだが、このゴーレム、部屋の管理人になると本来部屋のカスタマイズをする際に自分の魔力をコストとして消費するのだが、それを無視してゴーレム自身の魔力を使い部屋を住みやすい感じに整えてくれる。


 ゲーム内では序盤はさておき、後半になると寝具がしょぼいままだと回復量も心許なくしかし装備やアイテムに金を使い果たした後家具にまで手を回す余裕がないプレイヤーもいたために、最速でこのゴーレムを管理人にするのが必須、なんて言われてもいたのだ。

 あくまでもイアの前世での話である。


 イアもそこまで細かく覚えてはいなかったので、そこら辺の説明はしていなかった。

 だからこそ、部屋に戻ってきたウェズンが驚くのも無理はない話で。


「えぇと……この家具は……?」

「ご安心ください正規の手段で入手してマス!」

 ビシィッ! と敬礼するかのような動作と共に言われる。


 殺風景極まりない室内と比べると、今度は豪華すぎて落ち着かない気もするけれど。

 けれどもそこを気にしなければ住み心地は良さそうな感じだったので。


「そっか、ありがとうな」


 特に問題がないならまぁいいか、とウェズンは受け流す事にしたのであった。事なかれ主義と言われてしまえばそれまでである。

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