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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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言葉ばかりの夏休み



 時間の流れというものは案外早かったりする。

 気付けばサマーホリデーに突入していた。

 というか、交流会に向けてお前らの担当はここな、と島を見物しに来た三日後には既にサマーホリデーだった。


 ウェズンとしては前世ならこういうイベント行事ってお知らせプリント配布されるものだよな……などと思っていたが、異世界にそんな親切心を求めるだけ無駄だろう。下手したら神様がノリノリで世界崩壊まであと〇〇日、みたいな天啓降らせてくる可能性はあるけれども。そう考えるととても嫌な世界である。


 さて、サマーホリデーに突入したけれど、流石にクラスの生徒全員が作業に出られるか、となると微妙なところもあったので、一応期限を定めた上で各自で行動する事になった。

 まずウェズンたちクラスに割り振られた区画は更地にしなければならないし、次に要塞建築である。

 どう考えても学生がやるイベントの内容ではない。

 これが模擬店で看板用の板とかにペンキだとかで色塗るとかならまだウェズンも理解できるのだが。


 要塞建築に関しては、設計図をレイが調達してくる事になった。伝手があるらしい。

 むしろ伝手があるという事実を聞かされて思わず白目を向きそうになった。一体どんな伝手を持ったらそんな知り合いができるんです……?


 建築家が知り合いにいるにしたって、要塞は流石にない。

 その建築のための資材だとかを調達するグループなどもいるが、まずはそれらのグループも総出で担当区画の木だとかを切り倒して木材加工したりする事にしたらしい。


 とりあえずレイが設計図を持ってこない事には更地にして資材を用意したとしてもどうにもならないので、木を切り倒したりしている生徒たちも初っ端から切羽詰まったりはしていなかった。

 ちなみにクラス全員がいるわけでもない。ちょっと家族に連絡を取りたいなんていう生徒たちも数名いたので、何名かごとに分かれて実家に戻ったりもしている。

 人によっては自分の家族に、ではなく友人の家族に友人の死亡を報せに、なんていう重たいお知らせを届けに行ってくる……なんてのもいて、流石に学園で元気にやってるだろうと思ってる我が子が死んでたとかそういうお知らせを行くなとは言えない。

 むしろそういうの、学園で連絡しないんだ……とウェズンは思っていた。


 場合によっては学園から連絡する事もあるのかもしれないけれど、そこら辺はよくわからなかった。


 そういったお知らせならまだしも、もしかしたら自分も何かの拍子に死ぬ可能性あるから……というある意味で現実的に前向きにネガティブ拗らせた感じで実家に戻って行った奴も複数名いる。

 学外授業の時に自分の実家が近いならついでにちょっと立ち寄る、というのもできるかもしれないけれど、そうじゃなければ中々家に帰る事などない。学園の授業が休みの日に外出届提出した上で行く事はできるけれど、手続きがそこそこ面倒だし、休みが一日しかなければロクに休んだ気もしないうちに休日が終了してしまう。正直もう家に帰りたい……なんて思っている生徒はそこそこいるが、実際に帰った生徒はその中でも本当に数える程度には少数であった。


 なのでまぁ、ある意味で今がチャンス、みたいなものなのだろう。気持ちはわからなくもない。


 とはいえ、ウェズンもイアももしかしたら自分たちも何かの拍子に死ぬかもしれないし、今のうちに一回くらい家に帰ってみようか、とは思わなかったが。

 死にそうな目に遭った事はある。むしろ学外授業の時はそうだが、学園での授業の時も座学じゃない時は割と死にそうな気がする事は多々あった。


 けれども、それで家に帰ったからとて、あの両親がどういう反応をするだろうか。

 貴方たちなら大丈夫よ、と軽く言ってのける母。

 生きてるならまだ大丈夫だろ、と断言する父。

 実際言われてないけど脳内再生余裕であった。

 何せ、直接本人の口から語られてはいないけれど、あの二人、特に父は歴代の魔王の中でも最強扱いされてて、神前試合も神からお前もう出禁な、とか言われてるような奴である。

 強すぎて逆に見てておもんない、とか実際言ったかはわからないが、まぁともかくこの先何かがあって学園の生徒が全滅したとしても、また父が引っ張り出される事はない。

 他に誰か引っ張り出せそうな人がいるのかについては、ウェズンとしても歴代の魔王だった相手の事など把握しているわけではないし、そもそも他の魔王やった人生きてる? という感想しか出てこないのでもしこの学園が学院の手によって根絶やしにされたら……その時は果たしてどうなるのだろうか?

 他の学校からそれっぽい相手を連れてくる、という可能性が高いが、務まるかとなると話は別な気がする。


 ともあれ、仮に今ウェズンとイアが故郷でもあるあの家に帰ったとしても、埋められない溝とか超えられない壁とかよくわからないけど謎の距離感だとかを感じるに違いないのだ。


 何なら稽古つけてやろうか、とか言われて地獄を見る可能性すら出てきている。

 いや、強くなれるから悪い事ではないのだろうけれど、家を出てそこそこ経過しているから、両親の中での自分たちの強さが果たしてどの程度設定されているかによって地獄度合がシャレにならない変化を遂げる。

 家にいて、まだ学園に行く前は父も我が子の実力を見誤ったりはしなかったと思うが、学園で何かとんでもない進化を遂げて帰って来たとか思われると死ぬ。


 学園に入学する前と比べればそりゃあ多少は強くなったかもしれないけれど、劇的に変わったかと問われるとウェズンはそっと首を横に振るしかできそうになかった。

 少年漫画のバトル物じゃないんだから、ちょっと修行したくらいでとんでもパワーアップはしません。というかできません。割と本心からの言い分である。



 なのでウェズンもイアも残留組として初日から作業に勤しんでいたというわけだ。


 とりあえず担当区画がここからここまで、と言われたもののいざ作業するぞとなったら案外呆気なく境界がわからなくなりそう、という事もあってあらかじめ目印を置いたりわかりやすい印をつけたりした事で、今のところ知らず隣の区画に迷い込むなどといった事はない。

 魔法でマーカーを設置しておいた結果、境界線部分はうっすらと光が立ち上がっている。傍から見ると結界でもあるのか、と勘繰ってしまいそうだが普通に色がついてるだけの立体的な境界線であった。光に触れても特に警報がなるとかそういう事はない。


 切り倒した木に関しては枝葉を取り除いて木材加工。

 砂浜の方でも漂着物などの回収をするべく定期的に見回ったりする者もいれば、砂浜に落ちてる石なども拾い上げて初日はどちらかというと担当区画を更地にするというよりは、さながらボランティア清掃のような状態であった。

 木を切り倒した後の切り株も撤去しないといけないので、いくら魔法や魔術があるとはいえ結構な重労働である。


 朝から根を詰めて作業していた面々は昼くらいには流石に集中力も続かなくなり、ぽつぽつと寮へ戻っていく者が増え始めた。

 休憩した後また戻ってくるだろうけれど、作業人数が減った事で作業するのも全体的にゆっくりめに変化していく。


 ちなみに総監督はレイではなくヴァンがする事になった。

 要塞作るとか言い出した張本人が現場監督もするものでは、という突っ込みに関しては、

「いやでも俺、現場で動いてた方がよくね?」

 の一言でクラス全員の納得をかっさらっていった。

 体力仕事だとか腕力が必要な作業とか、とにかくそういうのに関してクラスの中でもトップクラスで使える人材だ。場合によっては材料調達に現地へ赴く、なんてこともするだろうし、そうなると総監督という立場にレイを置くのはなんとも勿体ない。


 必要な物を調達するにしても、各地を移動するという事ならあまり役に立てそうにないから、という理由で総監督はヴァンの役目となった。


 クラス全員が知っているわけでもないが、ヴァンの瘴気耐性が低い事を知っている者からすれば、確かにこの島に常駐して指示を出してくれる相手と考えると最適である。

 下手に学外にお使いに行かせて、ウェズンたちが訪れた漁村のように突然瘴気汚染度が上昇したら帰ってこれなくなりそうだし。

 だがしかしこの島は学園の近くにあるために、瘴気汚染度はほぼゼロに近い。

 汚染度が上昇しても最大で10%いくかどうかだろう。他の区画の生徒たちが魔術だとかを失敗させまくらなければ問題はない。


 設計図に伝手がある、といって初日から早々出ていったレイが戻って来たのは同日の夜であった。

 流石に休みなしでぶっ通しで作業をするつもりはないので、その頃にはほとんどが撤収し寮へと戻っていた。


 なのでレイが戻って来たというのを知ったのはモノリスフィアのメッセージアプリによる連絡である。


 クラスメイト全員で一つのグループになってるトークルームに設計図入手してきた、の一言がピコンと表示される。

 それに対して詳しくは明日見せてもらう、だとか、マジで持ってきちゃったよ……なんていう感想めいたコメントが次々に表示されていった。


 設計図が入手できたからと言っても、それで要塞が完成するわけではない。これから資材などを集めて要塞を作り、ついでにその中にも罠などを設置していかなければならない。

 担当区画全部を使って要塞を作るわけじゃないので、要塞の外になる場所にもあれこれ仕掛けを作らないといけない。


 思った以上にやる事が多かった。


「終わんのかなこれ……」


 学園祭の模擬店作るのとはワケが違いすぎる。

 前世の夏休みと比べれば日数が大分多いから余裕がありそうに見えるけれど、果たして本当にそれだけの余裕があるのだろうか……

 考えれば考える程、不安しか湧いてこない。


 まぁ、どうにかするしかないんだろうなぁ……と無理矢理納得させて、疲れ果てたウェズンは早々にベッドの中に潜り込んだ。


 ちなみに、直後にモノリスフィアに表示されていたレイからの、

『明日ちょっと必要な道具回収しに行くから、ウェズン付き合えよな』

 というコメントに気付くには、ちょっとばかり遅かったのである。

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