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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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溶けたオブラート



 十年に一度の神前試合。

 決着をつけるのは確かにその場であるのだが、実のところ神前試合が終わり次の神前試合までの間も戦いは続いているといっても過言ではない。


 テラがその事実に気付いたのは、勿論学生時代である。周囲は結構気軽に構えてる奴もいたけれど、その事実に気付いていたならあんな風にのんびりしてはいられなかっただろう。

 テラは当時己の実力に絶対的な自信を持っていた。地元じゃテラに勝てる奴なんていなかったし、学園に入ってからも戦闘に関して彼の右に出る者はいなかった。だからこそ次の神前試合には自分が選ばれる。

 そう信じていたわけだ。


 とはいえ、自分一人で勇者側の人間を全て倒せるか、と問われればそれは即答できなかった。

 自分に勝てる者なんていない。今まではそうだった。学園に来てからもそれは変わらない。

 だからここで、自分こそが世界で一番強いのだ、と思い込む事は簡単な事だったのだが。


 けれど、とてもそうは思えなかったのだ。


 以前の神前試合のデータはある程度残っている。だからこそ、閲覧しようと思えばできなくもない。

 とはいえ、次の試合に出る参加者が同じというわけではないのだから、見ても意味があるか、となると微妙なところではあるのだが。


 しかしそこに映っていたたった一人で勇者側全員倒してみせたその男の強さは、見る価値があったとテラに言わしめるだけのものがあった。

 試合をする場所は、勇者たちがかつての交流会などで集めたコインを使用し自分たちに若干有利に仕立て上げていたはずなのに。人数の差もあってどう足掻いても不利であるその状況で。


 彼はたった一人でそんなものハンデにもならないとばかりに一掃したのである。


 自分じゃ勝てない。

 テラは素直にそう思った。

 自分があの場にいて、たった一人であいつら相手にしたとして。

 果たして、あんな風に勝てただろうか?

 ――否。勝てない。頑張っても一人か二人は残るだろうし、全員倒すとなればそれこそこちらが刺し違えてでも……なんて覚悟の上で動いたとしても難しいかもしれなかった。

 仮に勝てても満身創痍。

 あんな風に、無傷で勝利できるなどとは思えなかった。


 次の試合、つまり一つ前の試合でまたしてもまともにここの生徒が育たなかったからか、奴は参加する事になっていた。しかも今回は前回参加していなかった、かつての仲間としてもう一人連れてきたのだ。

 その女はとても強そうに見える感じではなかったけれど、あの男が選んだだけあって強かった。

 前回の試合の結果を考慮して、今まで出し惜しんでいたコインを利用し今回の舞台も彼らに有利な状況であったはずなのに、あの二人の前では形無しだった。


 前回の記録を見て、アイツ一人で充分だろなんて思っていたけれど二人そろえば更に完璧に思える程で。

 同時に、あんな風にはなれないと自覚した。


 次の試合、つまりはテラが参加するつもりでいた試合には、勿論テラが選ばれた。

 だがしかし他には誰も選ばれず、そしてテラ一人だけでの参加では戦力不足であると判断された。屈辱であったが、圧倒的強者を見てしまえば反論などできるはずがない。

 三度みたび、あの男が参加する事になり、そしてその妻も参戦し、自分はそのオマケという立ち位置での参加であった。


 テラ以外の生徒が選ばれなかったのは単純に、学院側の生徒が本気出しすぎてこちらの生徒たちとの戦闘を繰り広げたからである。神前試合が始まる前に、邪魔な芽は潰してしまおうという算段によるものであった。

 確かにそれは効率的ではある。強者を放置した場合、更に強くなる可能性もあるし、今のうちならまだ……というのもあっただろう。実際テラだって学外で何度か学院側の生徒と遭遇した時に戦っている。全て返り討ちにしてきたけれど、そうではなかった生徒なんて沢山いたのだ。


 交流会などで集めたコインを利用すれば、試合の場で多少なりとも有利に事が運べる状態になれるとはいえ、コインの数には限りがある。そして前回そのコインを大量に使ったのだから、そうなれば次にできる事といえばコインを使わず妨害してくる方法になるというのも、ある意味で道理であった。


 同じ試合に参加する事もあって、何度か手合わせしたり連携を上手くできるようにと共に行動したりもしたけれど。


 あぁ、こいつと一緒にいても自分は引き立て役にしかならないし、勇者側からしても自分は突ける隙でしかないな。


 そう判断する事になったのは、割と早い段階からであった。


 まぁ、だからこそ神前試合当日自分は好きに動く事ができたのだが。

 開幕早々相手数名巻き込んでの自爆技。そういうのは最後の最後でやると相場が決まっているからか、まさか向こうもいきなり初手でかましてくるとは思っていなかったらしく盛大に巻き込まれてくれた。

 その中には、何度かテラと学外で遭遇し戦いを挑んできた者もいて。


 驚いたように目を丸くして、それでいて血塗れになっていたそいつを見て、薄れゆく意識の中テラはそれでも盛大に嘲ってみせたのだ。

 お前らがした工作なんざ意味がなかったんだよ、と言えれば良かったが流石にそこまでは無理だった。


 全員巻き込むのはできなかったけれど、それでも残った奴らを片付けるくらいあの二人なら余裕だろう。


 自分が死んでも負けはない。

 そう思えたからこそ、あんな思い切った真似ができた。


 まぁ、死んだと思っていたけれど、なんだかんだ死の淵から生還を果たしてしまったわけだが。



 神直々にあの男の参加を拒否されてしまったから、次の試合は学院側も勝ちが見えたと思ったのだろう。

 だが、こちらの戦力を減らしにかかるというのは止めなかった。

 コインを使えば多少の有利を得る事はできても、それでも限りはある。学外で遭遇した際に、はたまた特別授業と称した強襲戦などで、機会があればこちらを倒すとばかりに息巻いて、そうして多くの犠牲が出た。

 勿論向こうも無傷で済んだわけじゃない。向こうだって盛大にやられた事もあった。


 だがそれでも、神前試合以前での争いを止めるなんて事、そもそも選択肢にはなかったのだ。



 その事実に、レイはとっくに気付いていたらしい。

 教えてやればこの生徒たちもそれなりに気を引き締めるくらいはしただろう。けれども、言われたからそこで常に学外で学院の生徒と遭遇したら気を張って意識を引き締め続けられるか、となると恐らく無理だ。というか、それ以前に言われずとも自力で気付いてもらわなければ困る、というのも本音である。


 神前試合なんて言葉で飾ってはいるが、やってる事は殺し合いなのだから。

 死なない場合もあるけれど、生き残る方が難しい。代表なんて言葉で誤魔化しているが要するに生贄なのだから。

 学園の生徒も学院の生徒も、果たしてそれをどこまで理解できているのかはテラにはわからない。

 ただ、誰かに世界の命運も自分の運命も何もかもを丸投げにする事を良しと思えなかったから、テラは自分が選ばれるために最善を尽くした。


 中には奇跡のように敵対しあいながらも友人として関係を育む者もいたけれど、そういうのは稀だ。いずれ殺しあわなければならなくなった時、そこで躊躇えば死ぬのは明らかなのだから。


 だったら最初から倒すべき敵として認識した方が楽ではある。



 少々感傷に浸ってしまったのは否めないが、しかしそれでもテラはそこに気付くに至った生徒が既にいたという事実に笑いを隠しきれなかった。

 それがたとえ神の思惑通りだったとしても、後から言われて気付くのと自力で気付くのとではワケが違う。

 そして一人が気付いて、その一人の言葉で気付かされた生徒たちも、ようやくその事実を飲み込んだのだろう。交流会なんて可愛らしい表現であるそれが、その実ただの殺し合いでしかない事に。

 とはいえ、こちら側は交流会に関してはそれこそ罠だけ張り巡らせて高みの見物をする、という方法を選んでしまえば結果がどうあれ死亡者は出ない。まぁ、罠にかかった相手の数次第では後々の敵になる相手が更なる力をつけて別の場所で遭遇、なんてこともあるのでその選択が本当に正しいかと言われると何とも言えなくなってくるが。



「他の学校関係の施設についてはなんとも言えないけれども、ことこの学園と向こうの学院とで行われる行事に関してなら、ほぼ殺し合いだと思ってくれて間違ってないぜ」


 もしかしたらまだ希望に縋ろうとしている生徒が中にはいたかもしれない。

 けれども、折角気付いた奴がいるのだ。


 だからこそ、テラはそんな希望なんて端から存在しないのだとばかりに。


 誰が見ても完璧だと言えるようなアルカイックスマイルを浮かべてそう告げた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] テラ先生、実に男の子してた。まあだからって初手だいばくはつはどうかと思わなくもないけど。 てかこれ、ダディのせいで試合前の暗闘激化したまであるな。 [気になる点] これが殺し合いだなんて最…
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