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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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間引きあう



 島を全面改造する、となれば正直サマーホリデー期間内で時間が足りるはずもないが、一部分だけであるならばどうにかなるだろう。最悪どうにもならなかったとしても、他のクラスの皆の頑張りに期待――という、なんとも他力本願極まりない方向にウェズンは現実逃避を始めていた。


 そういやコインの隠し場所はどうするんだ? というある意味もっともな疑問は、かなり遅れてからやってきた。

 最初に隠す場所を決めてから罠を設置するならまだしも、テラの説明にはそんな話これっぽっちも出てこなかった。

 なので今更だけど……と遅れてから質問すれば、それは最後に決めるのだとか。


 なんでも最初に決めてその周辺をガチガチに罠で固めて、それ以外の部分が若干甘い感じになるとすぐに勘付かれるとの事。言われてみればわからなくもない。

 重要な物を置いておく場所のセキュリティは万全にするけれど、そうじゃないところまでガチガチにセキュリティを固めておけるか、となると案外そういった事は少ないからだ。


 例えば家の中で貴重品を金庫にしまっておくにしても。

 金庫丸ごと盗まれたら流石に困るけれど、例えば火事などからは守れるので金庫に入れるのは無駄な事ではない。

 だが、それ以外の貴重品じゃない物をわざわざ金庫を新たに購入してそこに収納するか……となると大抵はやらないだろう。むしろそれやるならもっと他の方法を選ぶと思われる。

 仮にそれができるだけの財力があったとしてもだ。

 家の中金庫まみれとかインテリア的にどうかと思う。


 島中に罠を仕掛けるのは言うまでもないとしても、そこでここら辺だけやたら罠が多いし威力も高いのばかりだな……なんて思われたら、まぁ普通に近くに何か重要な場所か物があるものだと思うだろう。

 それを逆手にとって……という方法もないわけじゃないが、特に罠も仕掛けてないような、仕掛けていてもそこまで威力の高い罠だとかではなく、大したものではないような罠の近くにコインを隠したとして。


 何らかの拍子にラッキーイベントが発生してするっと発見する相手が出ないとも限らない。

 そうなったら、今までの努力が水の泡である。

 下手な守りに入るより、確実に相手の戦力を減らしていった方が確実である。

 つまりは、攻撃は最大の防御。これに尽きる。


 相手がただの害獣ならもっと他にやりようはあるかもしれないが、相手は自分たちと同等、もしくはそれ以上の頭脳や能力を持った相手だ。下手に油断などできるはずもないし、想定に想定を重ねて圧倒的な格上を相手にするくらいの気持ちでいかなければ勝敗はあっという間についてしまうだろう。


 さらっと聞いたところ、他のクラスが担当する区画でも、地形を活かして罠を仕掛ける事にしたところや、逆にある程度手をいれてちょっと形を変えたりする、なんてところもそれなりにあるらしい。

 多少形を変えるといっても、例えば生い茂ってる木を切り倒して新たなスペースを作るだとか、大きな穴を掘ってそこに水を流しいれて人工池を作るだとかの、話を聞いていてもまだ理解できる範疇である。

 流石に島の形半分以上吹っ飛ばして更に小さくして、とかは認められるはずもなかった。


 むしろ小さくしたらした分、捜索範囲も必然的に狭まるのでそれならまだ、別の所からでっかい岩とか持ってきてちょっと海側に新しく場所を作るだとかした方がいいくらいだ。



「で、結局僕たちのクラスは何をどうするつもりなんだ?」


 レイが戻って来たのもあって、ようやく作戦会議である。

 そもそも罠に関してぬるいとか言い出した張本人だ。さぞ、何かすっごい案があるのだろうとは思う。


「それなんだが。要塞を作る」

「は?」


 意味を理解するよりも先に、口からは何言ってるんですお前? というような声が一音漏れた。

 要塞? 要塞ってなんだっけ……? いや、言葉はわかるんだけど、生憎前世も今も要塞という代物とは全く縁遠きものだったので、何というか理解が追い付かない。


 前世でだってそもそも要塞なんて、ゲームとか映画の中でしか出てこなかったし、しかもそこがメインの舞台かと言えばそうでもない。ゲームならダンジョンの一つみたいな扱いで入口から最奥のボスがいるところまで突き進んだ事もあるけれど、正直言ってしまえばあれは要塞と言う名のただのダンジョンである。人工物タイプの。


 映画でだって例えば戦争しているだとかで、敵対してる奴のところに乗り込んで……だとかでそこが要塞だったりする事もあったけれど、映画にはいかんせん尺というものが存在するのでわざわざ丁寧に最初から最後まで道のりを撮影したりはしない。それに大体この手の話のオチは爆発してそこから逃げ出そうとする主人公になりがちなので、要塞の構造だとかをじっくり見るような感じになるはずもない。

 主人公と一緒に逃げる仲間がいたりすることもあるが、大抵は敵に捕まっていたヒロインみたいなのを引きつれての逃走だったりする。爆発する要塞の中を駆け抜ける二人、まぁラストは助かって最後にキスシーンぶちかまして終わるんだろうなという風に脳内ははいはいわかってるわかってるとなるものの、それでも派手な爆発シーンに意識が向いてしまうし、今後の展開が見えたとしてもやはり周囲の作り込みに目が行く事はあまりない。というか、仮にそっちを注視してもシーン的に一瞬すぎて見てもわからないままなんて事もある。


 それならまだ、ホラーハウスを作る、と言われた方がウェズンには理解できた。

 そっちなら何度か脱出系ホラーゲームとかでもやった事あるから、多少のノウハウみたいなものはある。

 むしろ日常から非日常がじわじわ迫ってくるタイプなら任せろと言いたい。いかにもな作り物では萎えるが、明らかに少し前まで誰かがここで生活していましたよという生活感が出るだけで恐怖にも大分違いが出てくると思っている。


「だからまぁ、担当区画はまず全体的に更地にする」

「は?」


 ウェズンが要塞に関してあれこれ考えているほんの一瞬の間に、レイは更に何事もなかったように言葉の続きを口にしていた。

 そしてまたもや反射的に何言ってるんだお前? というような一音がウェズンの口から出る。


 更地。


 いや、要塞よりはわかりやすい。

 えっ、ここら辺の木ほとんど切り倒すって事か……? と周囲を見回した生徒たちもいたが、木を切るだけならまだ、魔法だとか魔術でどうにでもなる。これが魔法を使わずに、だとかならとんでもない重労働が確定するので他の連中も間違いなく「は?」とかなり圧が強めな声が出ていた事だろう。

 木を切るだけではなく更地。

 だがしかしそこで終わりじゃないのはわかりきっていた。何せ要塞を作るとかのたまっているのだから。


 建築とか詳しい奴、このクラスにいるっけ……?


 何となく他のクラスメイト達の顔へ視線を移動させていくけれど、実家が大工だなんていう話が出た相手は少なくとも存在していなかったはずだし、将来的に建築家になりたいとかのたまう奴もいなかったはず。


 そうなると素人集団ばかりの中で、要塞を作るというのは何気にとんでもない難易度なのではなかろうか。

 初めてのクラフトにしてはちょっとレベルが高すぎませんかねぇ……


 初めての裁縫で雑巾縫うとかならまだしも、いきなり服を作りましょうねとか言ってるくらいの無茶振りを感じる。


「正直終わるの? それ。期間内に。ってか、作るだけで終わんない? あと、意味ある?」


 眉間にしわを寄せながら言うイルミナに付き従うように数名がそうだそうだとばかりに頷いていた。

 真面目にやらなきゃいけない事は薄々わかっていたけれど、しかしかける労力をだからといってどこまでも増やしたいわけではない。むしろ構想ばかりが壮大すぎてしまえば、いざ手をつけたとしても最後の方で時間も道具も何もかもが足りなくなって手を抜きたくなんてないけどそうするしかありませんでした……なんて事になりうる。

 下手すれば中途半端な状態で期限がやってきて、何てことも普通に考えられた。


 新築の家を建てようとなって、期間内に工事が終わらず中途半端な家の形をしたものを引き渡される……なんて事件が前世であった気がするな……とウェズンはうすぼんやりとした記憶を思い起こしていた。

 自分の身に起きた出来事じゃないからふわっとしているけれど、これが当事者だったらそりゃもう色々大変な事になっていただろう。

 家の場合はその後裁判だとか何だとかで泥沼だった気がするけれど、こちらは特に誰から訴えられるとかはないと思う。新居作るわけじゃないから。ただ、中途半端なクオリティの罠もまともに用意できないような状態であったなら。

 コインがどこに隠すかはまだ決められていないとはいえ、それでも明らかにここにはねぇな、とわかるような雑な感じで学院の生徒たちがスルーしていくとなると。


 交流会が終わった後、他のクラスの反応が怖い。

 俺ら真面目にやったのにあのクラスだけ適当かましやがって、とかそういう方向でのヘイトは容易に稼げそうだった。


 コインがなくとも、それでもここにあるかもしれないと思わせて数名の足を止めるくらいできればまだしも、それすらできなかったら。

 次の神前試合までの期間、ウェズンたちが卒業するまでの期間、事あるごとに他クラスからはこのネタでいじられ続けるのではないだろうか。割と容易に想像できてしまうのが恐ろしい。


「終わるの? じゃないやるんだよ。罠も仕掛ける。当然だろ。意味はある。コインがあろうとなかろうと、いかにもな要塞があったらコイン以外の何かがあるかもしれないと勘繰る奴は出てくるし、コインがなくともいかにもな重要施設っぽい場所なら素通りはできねぇだろ。数名足止めできれば他の区画の探索もその分人が減るし、要塞に足を踏み入れた奴らを上手く仕留められたら、場合によってはこっちにまた人が駆り出される事もある。

 コインの有無はともかく、ここにあるかもしれないと思わせられたらそれだけで他の区画担当する奴らだってやってくる人数減る分対応しやすくなるだろ」


 何となくかっこいいから作ろうぜ、みたいなノリで言ってる可能性もあったからイルミナとしては乗り気ではなかったのだが、レイはレイでかなり真面目に考えていたらしい。

 実際そう言われてイルミナは確かにそうね……と考えを改めた。


 学院側からどれくらいの人数がこの島に来るかはわからないけれど、圧倒的な数でもって一区画ごと丁寧に探索されたら攻略されるのなんてあっという間だろう。流石に全員一塊になって、なんて事はしないと思うが、それでもこの島は学園から近い位置にある。つまり、モノリスフィアでの連絡が取れる。

 島に上陸した別動隊に連絡をとって、コインがありそうな場所を早急に割り出して、なんてことをやられたらあっという間にコインを回収されるかもしれない。

 逆にこちらもモノリスフィアでの連絡はとれるだろうから、相手の動向を探って隙を見つけたら攻撃を仕掛けるなんてのもできるわけだが、もたもたしていたらモノリスフィアで応援を要請されて他の区画から仲間がやってくる、なんて事だって当たり前にあるのだろう。


「最初からここには絶対何かある、と思わせてかなりの数引き寄せて一網打尽にできたら、後々楽だよな」


 言われてみればそうではある。あるのだが、それはできたら、という前提である。

 できなければ早々に要塞を攻略されてしまうわけだが。


「いいかお前ら、神前試合は三年後だが、正直そのための戦いはもうとっくに始まってんだ。いい加減腹くくれよ」

 レイのその言葉に。


 ただテラだけが愉快そうに笑っていた。

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