社会ってそういうもの
交流会に関してテラの話を聞けば、まず場所はこの学園でもなければこちらが学院に出向くわけでもないらしい。
まぁ、準備するって言ってるこっちが学院に出向くのはおかしいのはさておき、学園で準備をするでもないというのであれば、一体どこでやるというのか。
その疑問に関してテラはサクサクと答えていく。
学園付近にある島を使うのだとか。
最初にこの学園にきた時、上にある浮いてる島から学園一帯を見下ろしたけれど、少なくともそこから見える範囲にはその島はないらしかった。
神の楔での移動は可能だが、仮に小舟などで移動するとなるとそこそこ時間がかかる程度には距離があるのだとか。
学園近辺にある島なので、瘴気汚染度は低い。
なのでまぁ、場合によっては夏、海遊びだとかできなくはないそうだ。作業の途中、気晴らしだとかの休憩で泳ぐくらいはできるぞ、と言われたけれど正直心はあまり弾まなかった。
そこで浮かれる事が出来る程、まだ情報がなんにも出そろっていないのだ。下手に浮かれて喜んだとして、後になってからいや無理じゃん!? なんて感じにならないとも限らない。
遊ぶ準備にキャッキャできる余裕があるかどうかもわからないうちから、目の前にイマジナリーにんじんぶら下げられましても……という気持ちである。
島は三つ程使うそうで、今年度に入った生徒たちと二年三年の学年の生徒、それ以上の期間在籍している生徒たち、で大まかに分かれるのだとか。
神前試合は十年に一度のペースで行われているが、学園や学院にいる生徒たちは十年間びっちり在籍している生徒、というのは案外少ないので学年ごとに分けてしまうと最悪一人で作業をしないといけない学年が出る事もあるのでこういう分け方になったのだとか。
まだ何をやらされるか聞いていないが、最悪一人で作業しないといけないというのは無理な気しかしない。それでもごり押しでやれ、と言われず他の学年の生徒たちとやれとなるなら、まだそれなりに何とかなりそうに思える。
四年生以上の生徒の数にもよるのだけれど。下手をすればそれでも一人しかいませんでした、とかいう事もあるのでは。
生徒の残り具合によっては二年と三年を分けた上で、三年とそれ以上の生徒たち、という組み合わせになる事もあるらしいのだが、今回のウェズンたちには関係のない話だ。
島を三つも使っての交流会とはなんぞや? と思えるが、どうやらその島に様々な罠を仕掛けるらしい。
交流会、とは……?
いや、逆に何か安心した、みたいな気持ちにもなったのだけれど。
島のあちこちに罠を仕掛け、その中にとあるアイテムを一つ隠す。
罠を掻い潜りその隠されたアイテムを発見するのが学院側の生徒たちで、学園の生徒たちは隠し場所から罠の設置までを行うのだとか。
要は宝さがしゲームである。
そこだけ聞くととても微笑ましく聞こえるが、生半可な罠を仕掛けて早々にアイテムを発見されたらこちらの負けとなるので本気でやれよと言われてしまう。
「ちなみに隠すのはコインだ。王冠が刻まれたコインと、剣が刻まれたコイン、それから盾のコイン。一つの島に一つのコインを隠すことになってるから、隠し場所を決めるのは一か所だけでいい」
ちなみにコインの種類に関してはこちらは特に気にする必要がないらしい。
島の規模を聞けばそれなりに大きい気がするが、そこに一枚だけコインを隠すとか普通に考えたら見つかるか? という気がするのだが、まぁ、見つかるのだろう。どういう手段を使っているかは知らないけれど。
魔法とかで探しものを見つけるやつとかあれば、隠した所で意味あるか? それ、と思うし。
仮にそういった魔法があるとしても、恐らく制限されているとは思う。もしくは制限されていないからそこにたどり着けないように罠を仕掛けるのか。
そんなウェズンの疑問にこたえるようにテラは、
「ま、魔法で見つける事は可能だが、浄化魔法みたいにアレは人によって精度が違う。離れた場所でも見つける事が出来る奴もいれば、近くにないとわからないなんてのもいる。そして浄化魔法と違い覚える事を必須とされていないから、覚えてる奴は案外少ない。だからといって油断はできんがな」
なんてさらっと言う。
「だからこそ、魔法で場所を特定されてもそこに行く前に仕留められるような罠を仕掛ける必要が出てくる」
「なんつーか、その言い方だと罠で殺してもオッケーみたいな感じだな」
「おう」
「マジか」
レイが眉を顰めながら言った言葉に、テラはとてもあっさりと頷いた。いやまぁ、向こうもこちらを殺しに来てるというのにこちらは殺すような罠仕掛けちゃいけませんよ、というのは不公平というか理不尽さを感じるからむしろその答えに安心したようなしないような……なんとも複雑な気持ちになりつつも、周囲に視線を向ければ半分くらいの生徒は困惑していた。
罠を仕掛けるにしても、どこにどういう罠を仕掛けるべきか、だとかどれくらいの威力の物を使っていいのか、だとかそれ以前にまず罠ってどんな種類があるのか、とかの基本的な部分だとか。
大体仕掛けるにしたって、島全体だ。仕掛け方が下手だと別の罠と同時に発動した途端それらが相殺しあって罠だけ自滅して本来ひっかけたかった相手は無傷、なんてオチだって有り得る。
周囲を吹き飛ばす罠を仕掛けたとして、それが他の罠も吹っ飛ばしてその後巻き込まれなかった相手が悠々とその場を通り過ぎるような事になったら意味がない。
実はこれとんでもなく綿密な計算しないといけないやつでは……? と薄々イアは思っていたし、ウェズンに至っては成程殺傷力の高いピタゴラスイッチか、と納得し始める始末である。
「学院側も全員参加というわけじゃない。あくまでも希望者だけだ。そして学年ごとに探索する島は決まっている」
新入生はこちらの新入生が仕掛けた罠のある島といった感じで罠を仕掛ける側と学年がリンクしているとの事。まぁ、新入生が仕掛けた罠のある島に何度も参加している上級生が来たら何となく不公平感があるので、そこに関して文句は特にない。
「罠に関しては物理と魔法罠、使える物は全て駆使して構わない。基本は罠で仕留める感じだが、自分たちが手掛けた罠のある島に限りこちらも参戦可能だ。囮になって罠のある場所まで誘導するもよし、その場で戦闘して直接仕留めるもよし。ま、戦闘になると最悪こっちも死ぬ可能性が高くなるからそこら辺は臨機応変に作戦に組み込まないといけないんだけどな」
相手が強いとなると、確かに戦っても返り討ちにあう可能性が高い。なのに最初から戦う事を作戦に盛り込んだら、その戦いに出た相手は死ぬのが確定すると言ってもいい。
戦うにしても、まずは罠に仕掛けて弱らせるなりして後はトドメを刺すだけ、という状態にした方がいいのだろう。
「こちらは基本的に罠を仕掛けたりする作業に関して全員参加だ。が、クラスごとに担当区画が存在する。なのでまぁ、その周辺の区画の担当クラスの連中と多少連携することはあるな。後日、島に案内する。それまでに一応罠に関して多少なりとも学習しておけよ。中途半端な罠仕掛けてあっさりコイン回収されたら後々こちらが不利な事になりかねないからな」
話は大体終わりかな、と思ったもののなんだか不穏な一言があったからか、ヴァンがどういう事ですか、と問いかけた。ヴァンが言わなければ他の誰かが言っていただろう。
「十年間でとられたコインの枚数によって、神前試合で多少な……」
「それはハンデがつくとかですか?」
「ステージギミックがちょっと面倒な事になったりする」
「それはどういう」
「悪いが、これに関しては詳しく話す事を禁じられている。やらかした場合神が次は何をしでかすかもわからない。これ以上事態を悪化させないためにこの件に関しては聞くな」
そう言われると、突っ込む事もできなくなる。
この世界は今現在、神の機嫌によって成り立っているので。
だがしかし、生徒たちは納得するしかなかった。
サマーホリデーとは名ばかりの休みですらないそれは、確かに授業と同時進行で作業しろと言われたらきっとロクな物にならない。それでなくとも今年入学したばかりだ。勝手が何もわかっていないのに、いきなりやれと言われてもできるはずもない。
交流会がサマーホリデー前であったなら、きっと何も準備できないうちにあっさりとこちらが負けて終わっていたに違いないのだ。
そういう意味では確かに授業と同時進行で、というものじゃないだけ慈悲なのだろう。
正直慈悲ってなんだっけ? と言いたくなるものではあったけれど。
まぁ、言うだけ無駄な事というのは世の中沢山あるので。
生徒たちはこれからやってくる理不尽に対して、早々に受け入れるしかなかったのである。




