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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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サマーホリデーとは名ばかりの



「えー、そろそろサマーホリデーが間近に迫ってるわけですが」


 サマーホリデー。

 つまりは夏休み。


 えっ、そんなのあるんだ!? と思ったウェズンは一瞬だけ目を見開いたけれど、しかしテラの様子を見て浮かれてられそうな感じはしないなと即座に判断した。


「ぶっちゃけ名ばかりのホリデーなので、まぁ、率直に言うと休みは無い」


 ウェズンが判断した一秒後にはその事実を突きつけられたので、ウェズンとしてはガッカリする事もなかったが、他の生徒は違ったらしく一部からブーイングの声が上がっている。だがしかし、生徒のそんな声にたじろいだりするような教師ではない。


「あ? 言っとくけどこれかなり寛大な措置だかんな。なんなら休み期間完全排除して授業と同時進行にしてやってもいいんだぜ?」


 その言葉に、何やら嫌な予感がした。

 休み期間排除、はわかる。つまりは夏休み完全終了のお知らせ。

 だが、授業と同時進行、とは……? まるで何かしらの作業をその期間内にやらなければならないような言い方ではないか。

 サマーホリデーと言いながら休みはないが、しかし授業はその間やらないような言い方。だがしかし休みはない。


 どういう事だ? と思い少し離れた席のイアを眺めてみたが、イアの反応もまた首を傾げてわけがわかっていないようだった。

 ……展開を思い出せていない。もしくは、原作やゲームの中ではサクッとスキップされた期間。

 つまりは、オリジナル展開。いやオリジナルも何も……という話ではあるのだが。


 それ言っちゃうと毎日がオリジナルだろ、と脳内で斜に構えた自分が突っ込みを入れてくる。

 そうだねマジで未来がわからない状態すぎてとにもかくにも毎日を必死に生きなければならないわけだよね、と同じく脳内で無駄に悟りを開きかけてる自分が頷いているのも感じていた。


「さて、お前ら流石に忘れてないとは思うが、ここがどこだかわかってるよな? 次の神前試合で勇者側と死闘繰り広げなきゃならん魔王陣営、それがこの学園だ。この基本中の基本を忘れてる奴がいたら前に出ろ。念の為ぶっ叩いてお前らの記憶を完全に飛ばすか逆に活性化させてやる」


 突然の暴力宣言に、じゃあ行きます、と前に出る生徒はいるはずがなかった。当たり前である。

 記憶が完全に飛ぶか痛みで謎の覚醒をするレベルで叩くとのたまってる男に殴られに行く奴は余程のドMでしかない。軽度のMはいるかもしれないが、流石にテラのDV通り越した代物を甘んじて受けに行くような奴はこのクラスにはいなかった。


 いたら逆にそいつとの付き合いは避ける事になっていたけれども。


「更に忘れてないとは思うが、勇者側を育成してる――フィンノール学院とは基本敵対してるってのも理解できてるな?

 勿論学外授業で向こうとかち合った時に、お互い戦う意思がないなら問題ないが、こっちか向こうに戦う意思があれば戦いは避けられない。

 今まで上手く会わずに済んでいた奴がいたとしても、何の被害にも遭ってない奴はいない。この学園に乗り込んで攻撃を仕掛けた時に友人を失っただとかの被害くらいはあるだろうからな」


 テラの言葉に、先程まで休みがないという言葉にブーイングしていた生徒たちの表情もどんどん深刻なものへと変わっていく。


 まぁそうだ。向こう側の新入生が初めてこの学園にやってきたのは記憶に新しい。こちらには特に何も知らされる事なくうっかり外に出ていたが故に突然の強襲。それで命を落とした生徒だって結構いた。

 ウェズンもうっかり外に出て、危うく死にかけた一人である。

 死にかけた、という言い方は大袈裟かもしれないが一歩間違っていたら死んでいたのは事実だ。生き残ったのは運が良かっただけに過ぎない。

 自分が勝てない相手に無理矢理突撃かけたりしていたら、まぁ死んでた。


 その後、学外で学院の生徒と遭遇する事はあったけれどお互い戦う意思がなかったから平和的に終わったに過ぎない。もしあの時、自分の友人か妹が殺されていたならどうなっていただろうか。学院の生徒は皆敵とみなして向こうに戦う意思がなくともこちらが攻撃を仕掛けていたかもしれないし、逆にこちらは戦うつもりがなくとも学院の生徒がその気なら戦わなければならなかった。降りかかる火の粉を払う事なくただ浴びるような真似をすれば、間違いなく死ぬのだから。


 けれども、いずれは学外で出会ったとして戦わなければならなくなる事態が待ち受けているかもしれない。こちらにそのつもりがなくとも、向こうの授業で遭遇した学園の生徒を殺せみたいなのが無いとも限らないし。


 実際別のクラスの生徒数名が学院の生徒と戦って死んだとかいう噂を耳にしているので、可能性としてあるものだと思っておくべきだろう。


 そういったあれこれを思い返すと、学院の話題が出たなら流石に浮かれた気分など消失するのも仕方がない。次はこっちが奴らを根絶やしにしてやりますよぉ! と言える程血の気の多い発言ができる程実力に自信があるでもなし。


「さて、そんなどう足掻いても手に手を取りあえるような感じじゃないフィンノール学院ですが。

 何と秋頃に一度交流会があります」


 その言葉にクラス中がざわつくのは当然の事だった。

 どう足掻いてもギスギスしてそう。えっ、その交流会って殺し合いとか書いてそう読ませるやつだったりします!? と誰かが呟くのが聞こえた。

 そんな呟きに誰も否定の言葉をかけられなかった。考えすぎだよ、とか言えないし、正直和やかムードで交流できる気がしない。

 人選次第では自分の友人を殺した相手がやってくる可能性すらあるのだ。こちらが何もかもを投げうってでも仇を討ってやる! と思う程の熱量がないにしても、あいつは〇〇を殺した奴だ……! 程度の憎しみがあるなら仲良くなれるはずもない。


 そんな中でお互い殺しあわずに手を組む流れなんて、精々少年漫画にありがちな第三勢力のやべぇ敵が出てきて共闘しないと勝ち目がないとかくらいなものだろう。

 お前のことは気に食わないが、今は一時休戦だ。

 とかそういう感じで一時的に相手のしたことを水に流しつつお互い共に行動していくうちに、相手にも然るべき事情があったんだな……とかで絆されて以前のような殺意を抱けなくなるか、はたまたそれとこれとは別でこの件が終わったら改めて決着をつけようとなるかはさておき。


 ウェズンの口からも何となく引きつった笑いが漏れた。

 いや、何かを言おうとしたつもりではないけれど、この学園と学院の生徒の交流会とやらを脳内で想像したらどう足掻いても殺伐としてるし一触即発状態だしそれむしろもう全面戦争とかにならんか? という気しかしないしで、なんだこのお知らせは命日までのカウントダウンか? という気にしかならない。

 そりゃあ乾いた笑いだとか引きつった声だとかが出たっておかしくないだろう。


 周囲がざわつくのだって、無理もない。何を言うべきかわからずとも、内心の不安をそのまま押し込めて黙って話が聞ける精神状態でないのは確かだ。


 パン! とテラの両手が叩かれて思った以上の音が響いたのは、それからきっかり一分後の事だ。


「そろそろいいか? まぁ交流会つってもおてて繋いで仲良しこよししろって話じゃないからそこは安心しろ。あ、いや、そっちの方が平和的でむしろ望んでる事なのか? まぁそうはならない。

 交流会とはいえ、多分お前らが想像するようなやつじゃないのは確かだ」


 でしょうね。


 割と一斉にそんな言葉がそこかしこから出る。ウェズンも思わず口からその言葉を出したし、イアもだよねぇ、と言っていた。ここで、えっ、そうなの? とか驚くような生徒は一人もいない。


「サマーホリデー期間に、その交流会に関しての準備を行う。だからこそ、遊んでる暇はない。ま、どうしても出かけたいっていうなら申請出せ。もしかしたらもうこの後死ぬかもしれんっていうの察知してるとかなら、最後に家族に挨拶とか行くくらいは、ほら、慈悲の心がないわけでもないし……遺書書いて届けておくとかさ」


 先程までの口調と打って変わって歯切れ悪く言われると、なんだか本当にそうなりそうな嫌な予感がするのでやめてほしい。

 もしかしたら、これが最後かもしれないだろ。だからさ……みたいな空気を出すな。

 ウェズンの脳内でふと前世で弟がプレイしていたゲームの一幕が思い起こされて、思わず顔をくしゃっとさせてしまった。

 オープニングで仲間たちと焚火かこんで話とかしてるけどそれが実はラスボス手前で、そこから主人公の思い出語りのように話の序盤が始まってラスボス手前のところにやって来た時点でようやく時系列がつながる的な感じのやつだ。


 割とよくある手法だとは思うけど、下手するとそこに至るまでのプレイ時間次第で「あ、そうだ。今までの長い回想シーンだったわ」ってなって若干気が削がれるやつ。


 だがしかし生憎これは現実なので、今から過去の回想シーンをやる余裕なんてものはない。大体どこまで遡れという話だ。


「あの、サマーホリデーの期間ってどれくらいあるんですか……?」


 生徒の一人がおずおずと声を上げる。

 交流会は秋頃と言っていた。まだサマーホリデーにはなっていないが、その期間に交流会の準備をするとなると、一体どれだけ大掛かりな事になるのか……

 そもそもテラの言い方からして普通の交流会と違うだろう事は明白だし、なら、会場をセッティングして椅子やテーブル並べてお茶と茶菓子の準備、などといった温い事はしないのだろう。


「大体ひと夏まるっとだな。ちなみに学年ごとに分かれて作業する事になるので、クラスが同じであっても担当する場所が異なるなんて事もある。ま、このクラスは全員同じ学年なのでそういった面倒はなさそうだけどな」


 ひと夏まるっと、という言葉にウェズンは結構あるな……? と余計に困惑した。


 こちらの世界は前世と比べると一年の日数が多い。一か月が大体三十日程度だった前世と比べるとこちらの一か月は五十日から六十日とほぼ倍に近い時もあれば、長い月は七十日程ある事もある。


 こちらの世界で一番日数が短い月でも五十日あるのだ。

 前世で閏年でもない二月の二十八日までしかないやつと比べると、より長く感じてしまう。

 前世のそのノリで一か月三十日分の予定組んでたけど考えたら今月二十八日までしかなかったー! なんて事にはこちらではならない。それどころか三十日計算で予定組んでたらそれより二十日程余裕が出る事もある。

 まぁ、じゃあ時間に余裕が常にあるかと問われれば、正直全然そんな気はしないのだけれども。


 ともあれ、交流会とやらの準備にそれだけの時間をかける、と言われれば困惑もするし何か嫌な予感もするのは言うまでもない事であった。

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