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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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悪いニュースしかない



「それで、ブツは手に入れられなかった、と」

「そうですね。というか手に入れられなくても仕方ないと思いますよ」


 あの後。


 どうにかこうにか魔物を倒したウェズンとイアはへとへとになりながらも学園に戻ってくる事ができた。


 とはいえ、相当に大変だったのだ。

 まずイアは死んだと思っていたが衝撃が大きすぎただけで五体満足で生きていた。ウェズンは危うく死んだか!? と思ったものの、この世界の人間はそれなりに頑丈らしく無事であった。

 ウェズンの前世基準の人間だったらイアはぐちゃぐちゃの肉だった何か、になっていたに違いない。イアの前世基準の人であったとしても、間違いなく死んでるレベル。


 色んな種族の血が混じりあった結果のデミヒューマンもこうやって考えると悪い事ではないのかもしれない。他に何かメリットやデメリットがあったか? と問われると別に何もないのだが。


 どうにか倒した後、怪我を治したり浄化魔法である程度自分たちを浄化したりしつつお互い別行動していた時に何があったかも話し合った。

 結果、ウェズンが竜だと思っていたものがトカゲであったと知ったわけだが、まぁそこはどうでもいい。瘴気を取り込んで急成長した結果がああなる、と無駄な知識を得た事もどうでもいい事であった。


 あの魔物を倒した後で確認した瘴気汚染度は30%まで減っていた。

 80%だった頃と比べると大分浄化されたと思えるが、しかしあの魔物が相当な強さになっていたので魔物に瘴気を取り込ませて倒すという方法は時と場合に大きくよるのだ、と学ぶ結果にもなった。

 どうにか勝利できたけれど、かなりギリギリの戦いであったのだ。


 とりあえずイアの糸で動きを制限させて自由に動き回れなくした後で、別の糸にウェズンが浄化魔法を纏わせて目だとか口を狙って動きを止めた後、大きく開けた口の中に魔術をぶち込んで終了させた。

 と、言えば簡単に倒せたように聞こえるが実際ウェズンは途中で三回程死んだかもしれん……と思ったしイアは五回くらい死ぬ! と思った。魔法や魔術で怪我を治せる程度で済んだとはいえ、それでも五体満足で良かったと思えるくらいのギリギリ具合であった。


 汚染度合がある程度下がったので、そこから更にウェズンとイアが浄化魔法をありったけ使い、そうして学園に戻ってくる事ができたのだが。


 お使いに行ったというのに目当ての品は手に入らず。

 イアが跳ねトビウオというのが実は魚ではなく山にいるウサギであると教えてくれたものの、もう一刻も早く帰りたい二人は自力でそれらを獲りにいく、という考えにはならなかった。

 疲れ果てた状態で学園に戻って来た二人は早々にテラの所へ行き、事情を説明し――今に至るというわけである。


 過去、生徒がこの手の依頼で適当な嘘をでっちあげた事があったのでテラとしては最初から最後まで全部信じるという事はしなかったし、かといって全部が嘘であると断じるつもりもなかった。


 お使いに行く前に渡されていた資金と物資は一つも手を付けていない状態で返されたので、過去にやらかした生徒のように一部をちょろまかした結果、という事でもない。

 取引先を怒らせて追い返された、というわけでもなさそうだ。


 ふむ、と小さく頷いてテラはどうしたものかと考えた。

 あの漁村が既に誰もいないところだというのは、まぁ、確かめようと思えばできる。

 なので嘘だと断じるのは早計だ。

 お使いが面倒でやりたくないが故に村を一つ滅ぼして、それを瘴気汚染からの異形化でお互いに殺しあって全滅しました、というのは言い訳にしてはお粗末だし、どうせ嘘をつくならもう少しマシな嘘を吐くだろう。

 例えば、最近じわじわと瘴気汚染度が上昇していたらしくて、村を捨てて出て行ったらしく行った時には既に無人だった……とか。もしくは最後の村人にそう言われてその村人もこちらが呼び止める間もなく言うだけ言ってさっさと別の所へ行ってしまった、だとか。

 そっちの方がまだありそうな話だ。

 というか実際にあった事なので、それならまだ理解できる。


 それに。


 村に訪れていたというリィトという男の存在。


 嘘をつくならそういった人物を出す必要がない。

 いや、謎の人物を登場させるにしても名前まで、とはならないだろう。


 本当にその名前の人物がいる場合。はたまた偽名である可能性。そういうのを考えれば名前をわざわざ口に出す必要はないと思える。まぁ、実際本当にその人物がいて、しかも無関係である、なんて事になると余計話が拗れるので。


 ただ、テラはその男に心当たりがあった。なので余計に嘘をついている場合、この二人は自分で自分たちの首を絞めてる状況になってしまうわけだ。名前のみならず外見的特徴もテラが知るかの人物と一致しているので。


 イアが言ったもしかしたら精霊とかそれに関係ある感じの人かも……という言葉も拍車をかけた。


 確かに精霊の目はほとんどが金色で構成されている。これはまだ授業でやっていない情報でもあった。勿論金色の目をしているから精霊であるというわけではない。人の形をとった精霊がたまたま他の人間と交わって生まれた純精霊ではない存在にも金色の目を持つ者は存在しているし、遥か過去にそういった精霊の血が流れている場合先祖返りで、なんてこともある。


 話としては突拍子もない。だが、意外性を狙うあまり矛盾が発生しているというわけでもないのだ。


 そもそも事実は小説より奇なりという言葉もあるしな……とテラは思う。

 自分の周囲で起きた事のない出来事であっても、自分以外にとってはそれが日常的である、なんて事もザラにあるわけだし。


 浄化魔法を使ってどうにか学園に戻って来た二人であるが、調べてみると確かに結構な瘴気汚染に晒されていた痕跡があるのも嘘と一蹴できない理由であった。

 とりあえずお使いに行く前に渡してあった資金と物資を回収して、今回の事に関してはそれで済ませる事にした。やりたくないから適当かます、という不真面目な生徒も中にはいるが、この二人は基本的に普段の態度も悪い方ではない。これで実は嘘でした、となればそれはもう騙されたテラの落ち度である。

 騙されたとわかった時点でボコるからまぁいいか、とテラは二人が知れば悲鳴を上げそうな事を考えつつ、とりあえず今日はもう休めと二人を寮へ返した。



「…………杖、増幅器……いや、まて、まさか」


 二人の話の中に出ていた瘴気汚染の原因と思しきアイテムについて、ふと引っかかるものを感じテラは何度か口の中で呟くように繰り返し、そうしてそこで引っかかっていた部分に思い至る。

 そこからはほとんど無意識だった。

 咄嗟に部屋を飛び出し駆けだして、生徒が立ち入る事のない区画へと突入する。本来ならば教師もここに入るにはそれなりの手順が必要になるのだが、そんな悠長な事は言っていられなかった。

 中に入るとそのまま躊躇う事なく部屋の中央へと進む。一見するとただの広い部屋。特に何があるでもない殺風景極まりない室内。だがしかし、中央へテラが歩みを進めると、突如足元に魔法陣が浮かび上がる。


 突然発動した魔法に驚くでもなくテラはそのまま身をゆだねる。そうすれば次の瞬間には目的とした場所へ移動しているので。


 一瞬意識が空白に満たされる感覚がして、しかし次の瞬間にはその感覚も消える。

 そうして辿り着いたそこは、この学園を統べる相手がいるはずの部屋であった。


「メルト! いるか!?」


 声を張り上げる。恐らくそう大声を出さずともいるなら聞こえているだろう。しかし万が一、いない場合というのも考えられる。まぁ、滅多にそんな事はないのだが。

 以前、ウェズンたちを旧寮に送り込んだ時にモニターで彼らの様子を見ていた時は普通にテラと一緒に見ていたし、何かの興味を持った時だけふらっと外に出ていく事だってある。


 しかし今回は普通に在室していたらしく、テラが声を張り上げてからきっかり五秒後にふわっとテラの目の前に彼女は現れた。


「呼んだ? 何かあった?」


 もしかしてこれから出かけるつもりだったのだろうか。普段はかぶらない帽子をかぶり現れたメルトは、その背から生えている白い羽をパサリと軽く羽ばたかせた。


 淡い金色の髪は本日はきっちりと結わえられている。出かける予定も何もする気がなかったりする時は無造作に遊ばせているが、今日は緩めではあるが編み込みにされている。空の色のような目がきょとんとしたままテラを見下ろしている。


 メルトは女性ではあるがその身長はかなり高い。テラは常に見上げなければ目を合わせられないし、メルトだって意識して下を見ないとテラと目が合う事はない。テラの身近な人物の中で誰と同じくらいの身長だと聞かれれば、レイと同じくらいと答えるだろう。


「何かあった、どころじゃない。お前あの杖。あれ、どうなった?」

「あの杖? どの杖? あ、んーと……アレか。え、ちゃんと保管してあるけど?」

「本当にか?」

「えっ、何で疑われてるの? あるよ、なんなら確認しに行く? 保管室にあるからさ」


 あるならいい、とは言えなかった。

 一度芽生えた不安はそんな言葉だけで簡単に拭い去れるものではなかったからだ。確認していいというのなら、自分の目で確認した方が余程安心できる。


 だからこそテラはメルトをせっついて保管室へ向かう事にする。

 学園所有の魔法道具だとか、おいそれと外に出すには危険な物だとか。

 まぁ色々と保管されている場所ではあるが、そこに増幅器と呼ばれる杖もあった。


 いや、あるはずだった。


「あれっ? 無い!?」

「やはりな……」

「えっ、何か知ってる?」

「話によればリィトが持ってるらしいぞ」

「えっ!? 何で!? っていうかどうやって!?」


「知るかよ。方法なんて考えたらいくらでもあるんだろ、きっと。あっち側のあいつがそそのかした、とかではないよな?」

「クロナはそんな事しないよ。するはずがない」

「じゃ、あいつの周囲にいる誰かしらの企みだろ。一枚岩って感じじゃなさそうだったもんな」

「……そんな」


 表情のみならず、その背の羽もぺそっ、と音がしそうなくらいへたれているのを見てからテラは保管庫の中を見回した。

 他に何かが無くなっている様子はない。持ち去られたら面倒な事になりそうな物は複数あるが、あくまでも杖だけが無くなっている。

 他にも色々持ち去られていたら、きっともっと早く気付いた可能性もあった。けれど、そうではない。あくまでも目的の物一つだけをそっと持ち去った、となればまぁ、それらをこちらがすぐに使う機会でもない限り気付くことはないだろう。


「どうしよ……クロナに連絡」

「してもいいけど、杖が戻ってくる可能性は低いし何なら持ち去った奴がクロナを始末しようと考える可能性もあるぞ」

「それは困る!」

「連絡するにしても、あの増幅器については気付いていない振りでもしてもらって盗んだやつの隙を突くしかない。あいつ単独で犯人と対峙するような事になったら流石に不味い」

「う、うーん、確かにそうだけど……まって、今持ってるの誰!?」

「リィトだとよ」

「……うわ」


 しれっと答えたテラに、メルトは露骨に引きつった声を出した。

 あー、やりそう。そんな風に納得してしまったのである。というかさっきも一度聞いてるはずなのに突然の事すぎてすぽんとその一部分が記憶から抜け落ちていた。


「連絡するのはいいけど、極限まで気を付けてやれよ。じゃないと色々厄介な事になる」

「わかってる……後回しにしたら大変な事になりそうだから、ちょっと行ってくる」

「おう。今後の話し合いについては戻ってきてからだな」

「よりにもよってリィトの手に渡るとか……考えるだけで頭が痛くなってきた」


 言いながらも、それでもやるべきことの優先順位はハッキリしているらしい。力なく羽をパサパサ動かしながらも、メルトはトボトボとした足取りで移動し始める。


 そうして数歩歩いたあたりで、パッとその姿は消える。

 ほんの一秒前までメルトがいた場所を何とはなしに眺めて、

「これ今年でこの学園の生徒根絶やしにされるんじゃねーの……?」

 有り得そうな最悪の未来を、テラは思わず呟いていた。

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