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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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不確定事項



 どうしようこの状況詰んでる……!? と思っていたイアではあったが、それでも頭を悩ませうんうん唸りつつどうにかするべく考えを巡らせてはいた。

 とはいえそれなりに浄化魔法を使ってみても焼け石に水状態で、浄化魔法でなんとかする、というのはアテにならないと早々に判断したわけだが。

 浄化魔法でどうにかするには魔力が足りない。何度も何度も繰り返し使えば多少マシになるとはいえ、自分の浄化能力が突然急上昇して一度の魔法でここいら一帯を浄化出来たら事態は解決するけれどそう都合よくいくわけがないのはわかっている。

 ありもしない奇跡に縋ってどうにかなるなら、もっと早い段階でどうにかなっているのだから。


 では、次に自分ができる事は?


 カドルクが死んでしまった以上、もうこの村にいても意味がない。もっと早くに彼を連れて学園へ向かう方法を考えるべきだった……そう思っても後の祭り。

 そもそも、彼が生きているうちに学園へ連れていく算段をたてたとして、そしてどうにかしようとしていたとしても果たしてそれがまともにできたかは疑わしい。


 できたかもしれない。

 だがしかし既に現実は手遅れだ。


 あり得たかもしれない可能性を今更考察したところで意味がない。わかっている。だが、他に何を考えるにも名案が浮かばないが故に、半ば現実逃避のように未練のようにその考えがちらついている。


 この村からせめてもう少し離れてみて、そして瘴気汚染度が少しでも低くなっているのなら。

 そうしたらそこから……いや、駄目だ。

 思い浮かんだ考えをすぐさま首を横に振って却下する。


 そこで汚染度を下げたとして、それから神の楔で学園に戻るにしても。


 神の楔がある位置が問題である。

 何せ村の入口。そこの汚染度は今更言うまでもなく高い。

 洞窟と比べれば低いけれど精々5%程度。普段であればそれくらい誤差の範囲だとか言えたかもしれない。しかし現状でそれを誤差、大したことがない、とは言えなかった。

 もう少し村から離れていれば……と思わなくもない。

 ちょっと離れたところで汚染度を下げたとして、村の入口で神の楔を使う頃には……


 では、他の場所に神の楔がないかを探すべきだろう。本当にあるかはわからない。だが、一縷の望みを持つしかない。これでなければ完全に詰む。

 カドルクにあれこれ尋ねたものの、跳ねトビウオについてだとかを聞くよりも他にこの辺りに神の楔がないかを聞くべきだった……!

 その後悔も今更である。


 とにもかくにも、出来る事からやるしかない。

 食料はリングに多少なりとも入っている。水もどうにか。

 あとは体力と魔力勝負だ。


 イアはまず村を出て洞窟に背を向けるように反対側へ移動する事にした。見晴らしがいいので神の楔らしきものがあれば見えるだろうけれど、そういった物が見える範囲にないのは明らか。

 けれども、遠くの方にいくつか木が生えているのが見えたし、そちら側にもしかしたら……という望みはあった。遠目で見て多分森まではいかない程度の規模。望みは薄い。けれども、可能性をゼロと断じるには早い。


 そう思っていざ! と足を進めようとした矢先。


「おや、もう一人いたんですね」

「ひょわっ!?」


 声は、背後から聞こえた。


 ぬっ、という音がしていてもおかしくないくらいに唐突に男の声がして、口から愉快な悲鳴を上げつつもイアは反射的に振り返っていた。至近距離、それこそちょっと腕を伸ばせば普通に触れるくらい近くに男がいる。洞窟側に行こうとしていたならきっとイアの頭上から影が落ちてもっと早くに気付けたかもしれない。けれどそうではなかった。

 だがそれにしたってここまで接近されるまで気付けなかった、というのもおかしい。


 ある程度距離があるならともかく、こうまで接近されていて気付けないはずは……


「もう一人?」


 そこで男の言葉が気になった。ここいら一帯で誰かと先程まで会っていたかのような物言いである。

 しかし漁村の人たちは異形化し死に絶え、今現在この辺りにいる人間は、となればイアかウェズンくらいである。他に誰かがいる可能性はあるけれど、だがしかしその可能性はとても低いものだった。


「えぇ、似たような服を着ていましたね。お知り合いでしたか?」

「っ!? おにいに何したの!?」

「何も。彼は海に落ちて、流されていきました。運が良ければどこかに漂着するんじゃないでしょうか」


 男の口調がなんだかどこかの教会にでもいそうな、聖職者じみた感じがしたがしかしそれがあまりにも胡散臭く感じてイアはそっと距離を取るべく足をじりじりと擦るようにしながら下がる。正直男に背を向けて全力で駆けて逃げたかったが、それをやろうとして背を向けようとした途端危険な気がしたのだ。


 余程相手の意表を突かなければ、多分足の長さ的な意味であっという間に捕まってしまうだろう。


「……おにいが勝手に海に落ちるなんてヘマするはずない。あ、あな、あなた、本当に何もしてないの……!?

 あと、その禍々しい杖なに……!?」


 明らかに危険である、と感じられる杖を手にしている男。

 敵か味方か、どちらだと聞かれたらイアは間違いなく彼は敵だと答えるだろう。


 というか本当に誰だこの男。

 知らない。こんな奴知らない。

 小説にもゲームにも少なくともこんな見た目の奴はいなかった……と思う。全部を覚えているわけじゃないから、もしかしたらいたかもしれない。けれども、褐色肌の銀髪キャラなんてカラーリングからしてもそれなりに記憶に残りそうなものなのに、これっぽっちも覚えがないのだ。

 小説の挿絵にちらっとでもいたか? 記憶にない。

 ゲームの隅の方にモブとしてでもいただろうか……? いいや、色合いからしてモブ配色なはずがない。


 けれども、そんな自分の知らない相手が、知らぬ間に脅威となりつつある現状に。


 恐怖を抱かないはずもない。


 少しでも何かこう……記憶の片隅に引っかかるような何かがあればまだ良かった。けれども本当に何も引っかからないのだ。


 金色の目、という点からもしかしてこの人精霊か何かか? と思わなくもないけれど、精霊の目に金色が多いとはいえ、金色だからといって必ずしも精霊とも限らない。それ以前に精霊がそんないかにも禍々しいアイテム手にしてるとか、ちょっとどころじゃなくおかしすぎる。

 では、多分精霊の血あたりが紛れた人間だとは思うけれど、もしそうならどこかで絶対原作で触れられてそう。思考は最終的にそこに行きつくが、何の解決にもならなかった。


 イアがその杖なに、と問いかけた事で男の視線が自らの手にしている杖に移る。その隙に逃げ出したくなる衝動に駆られるが、困ったことに男の動作にこれっぽっちの隙も見つけられなかった。きっとここで逃げてもすぐに捕まるな、というのがわかる。距離を取りたい。けれど、下手に動くと自分の命が危ない。そういう警告じみた何かが本能的に訴えている。


「これですか。ただの増幅器ですよ。例えばほら、こんな風に」


 男は無造作に杖を手にしていない方の手から何かを放り投げた。片手に収まる程度の小さな丸いそれは、ウェズンが見たならばカプセルトイのケースか何かで? と言いそうな見た目をしていた。

 男はそれを無造作に放り投げる。遠くに、というよりは足元に落とすような感じで。

 その衝撃で簡単に開いて中身が露出する。


「まっ……」


 それは紛う事なく魔物であった。形状を述べろ、と言われればトカゲに似ているとイアは答えただろう。カプセルに入るような小さなサイズなので、強くはないと思う。

 いや、それ以前に、そもそもそういった入れ物に魔物を閉じ込めておく、というのをイアは信じられない目で見ていた。


 入れ物から出たばかりのトカゲは最初動く様子もなかったので、もしかして死んでる……? と一瞬ではあるがイアは思ったのだ。けれどもすぐにそれは違うと思い直す。死んでいるならとっくに形など残っているはずもない。消滅していないとおかしいのだ。

 その通り、とばかりに少し遅れてからトカゲの身体がのそりと動き始める。


「っ!」

「おっと。せっかちだな」


 咄嗟にイアが糸を射出して小さな魔物を貫こうとしたが、それは直前で男の手で止められてしまった。

 せっかちだとか、そういう問題じゃない。叫びたかったが男のイアの腕を掴む力が思った以上に強すぎて、声を出すよりも先に呻き声が漏れる。


 そうこうしていくうちに、トカゲの身体が一回り程大きくなった。


 瘴気を取り込んだのだ、と理解するまでに時間はかからなかった。


 魔物は瘴気を取り込み力をつける。

 魔物を倒せば取り込んだ瘴気もまた浄化されるから、たっぷり瘴気を取り込んだ魔物を倒す事ができれば周辺は浄化される。それはイアの中でも既に常識として理解できていた。だが、逆に言うと取り込んだ瘴気によって強化された魔物を倒せなければ、何かの拍子にその魔物が瘴気をまき散らすかもしれない。そうなれば、浄化どころか更なる汚染に見舞われてしまう。


 今、ここいら一帯の瘴気汚染度はとんでもなく高い。

 だからこそ、最初はいかに小さく弱い魔物であっても油断などできるはずがないのだ。成長するための糧はそれこそたっぷりあるのだから。


 イアの不安を肯定するように、トカゲは周囲の瘴気を取り込んでいるのかぐんぐん育っていく。どうにか男の手を離して逃れようと暴れてみたが、困ったことにビクともしない。そうこうしているうちに、もう入れ物にも入らないくらい大きく――それこそイアよりも大きくなってしまったトカゲはそれでもまだ満足していないと言わんばかりに瘴気を取り込んでいく。


 ここら辺の瘴気を全て取り込んだとして。

 だとしたら一体どれくらいこの魔物は強くなってしまうのだろうか……


 最初の頃はイアの出した糸で簡単に貫けそうな見た目だったのに、今は鱗がこれでもかと自己主張するように硬く盛り上がって生半可な武器では傷をつける事もできないのではないか……イアの武器であっても、果たして傷をつけられるかどうか……そんな風に思えるくらいになってしまっていた。


 ぐんぐん大きくなっていく魔物は、やがて形状も若干変化したらしく地を這うように動いていたのが今は上半身が持ち上がり、かすかに浮いている。二足歩行のような動きはしないが、蛇のようにするすると砂地を滑るように移動して、そうして上半身を勢いよく振り下ろすかのような動きで――


「おっと」

 男がそこでなんてことのないような声で、イアを突き飛ばした。咄嗟の事すぎて受け身をとる事もないままその場に尻もちをついたが、あのままだったら魔物の上半身がイアと男に叩きつけられていただろうから、ある意味で助かったと言える。


「成長促進度合は中々……うん、いいね。使えそう」


 先程までイアの行動を阻止しようとしていた男は、今ではイアに目もくれず納得したように呟いて。


「えっ!?」


 そして消えた。


 本当に一瞬すぎて、今まで本当にそこに男がいたのかすら疑問に思えてくる。いや、確かにいたはずだ。掴まれた腕にはうっすらと跡がついているし、幻想だとかのはずがない。

 けれども、まだこの辺りの瘴気汚染度はかなり高いはずだ。元は小さなトカゲ程度の魔物が瘴気を取り込んだとはいえ。

 思わずモノリスフィアで確認してみるが、未だ50%を超えている。神の楔での転移は恐らくまだ難しいだろう。だが、男はそんな物に頼らず魔法か魔術で転移した。

 神の楔を使わずとも、瘴気汚染されているなら結界が阻むはずだが男はもうこの場にいない。


 いるのはイアと魔物だけである。


 そしてそこで気付く。


 汚染度が50%以上まだあるという事は、この魔物はまだまだ瘴気を取り込んで強くなる事ができるのだと。



 魔物の狙いはイアに定められているらしく、ちょっとの動きでもその目は捉えているようだ。駄目元で攻撃を仕掛けてみるが、不意打ちのように射出した糸はキンという音とともに鱗に弾かれてしまった。


 魔術を、と思ってもイアが何かしようとするのを察知したのか今度は魔物が攻撃を仕掛けてきた。

 あ、間に合わない――

 そう思うよりも先に、衝撃が身体にやってくる。


 ドォン、と地の底から響くような音と、もしかして全身バラバラになってない……? と言いたくなるような痛み。


 それから少し遅れて――


「イア!!」


 兄の声が聞こえた気がした。

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