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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
三章 習うより慣れろ

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滅びた漁村



「着衣水泳とかどうかしてるぜ……!」


 リィトの攻撃を回避した結果まんまと海にどぼんしたウェズンは、思った以上に速い潮の流れに乗ってしまってあっという間に流されてしまっていた。

 正直「あ、落ちた」と理解した直後は目も開ける余裕がなかったし、そのせいでどこをどう流されたかもわかっていなかったけれど、いよいよこのままでは海の藻屑となってしまう……! と覚悟を決めて目を開けてどうにか海上へ移動してみれば、思った以上に流されていた。息が続いていたのがまさに奇跡だと思える程度には。


 沈んだ直後に目を開けていたら、もしかしたら異形化した村人たちの成れの果てのようなものを見る事になっていたかもしれないが、あれだけ潮の流れが速ければ落ちた時点でもうとっくに流れ流され下手すれば魚の餌とかになってないか……? とも思う。なんにせよその仲間入りをしなかっただけマシだろう。


 どうにか海上へ顔を出して息をすれば、幸いな事に近くに小さな島があった。とはいえ、そこで生活しろと言われたら無茶言うなと反論するしかないくらいに本当に小さなものだ。大分沖の方に出たらしく、ウェズンが流されてきたらしき洞窟があった場所は遠目にかろうじて見えるかな、といった程度だ。

 ともあれ、小さかろうと陸は陸。どうにか海から脱出して最初にやったのは、魔術で水を出す事だった。海の中で目を開けた事で、とても目が痛い。涙だって塩水みたいなものだろ、とか言われても濃度が違いすぎる。

 洗い流して目の痛みが引いたあたりで乾燥魔法を使い制服を乾かし、これでどうにかマトモに行動できるかな、といった程度だ。


 とはいえ、ここからどうするとなれば勿論まずは戻らなければならない。

 一応目的地が見えてるとはいえ、しかしここまで流される間結構な流されっぷりだった事を考えると、泳いでいくのは現実的ではない。

 あれ離岸流とかいうやつだったりする? とか思ってもその疑問に答えてくれる誰かがいるわけでもない。離岸流ならその流れから横に移動してまずはそこから抜ける事で戻る事も可能と言われているが、そうでなかった場合――それこそ普通の潮の流れであったなら、戻るために泳ぐにしても体力の消耗は果たしてどれくらいになってしまう事か……考えただけでうんざりする。


 泳がずに戻るなら、水面を凍らせてその上を移動するのが無難だろうか。魔力を消耗するのは確かだけれど、しかしそちらの方が泳ぐよりはマシに思えてくる。

 生憎と泳ぐのはそこまで上手な方ではない。下手くそとまではいかないが、まぁ概ね普通としか言いようがなかった。その状態で泳いで戻ろうなんてしたら、途中で溺れたり流されたりして余計に戻れなくなるのではあるまいか。そうとしか思えなかった。


 だがしかし、水面を凍らせてその上を移動する方法も躊躇われた。

 というのも、リィトの存在である。

 彼は既にあの洞窟にはいないだろう。目的はあの杖の回収だったらしいし。

 だが、洞窟から出た後でどこで何をしているのか、さっぱりわからない。

 ウェズンが洞窟に向かってからそれなりに時間が経過している事もあって、多分イアは大人しく待ってはいないだろう。行動に移るにしても、果たして無事に学園に戻れたかどうかは疑問である。

 何せ瘴気汚染の度合いが酷い。

 ありったけ浄化魔法を使ってどうにか戻れ、とは言ったけれど戻れないという可能性もあるのだ。


 もしリィトが村の方へ移動していた場合。

 それならウェズンが悠々と海面を凍らせてその上を移動して戻るまでに邪魔は入らないかもしれないが、イアが無事かはわからない。カドルクもいるとはいえ彼が戦力になるか、と問われると微妙な気がする。何せ漁師たちの中に混じって生活しているにしても、あまりにもひょろっとしているのだ。腕力も体力もあまりないが故に、彼は村での立ち位置が低く村の隅に追いやられていたも同然なのだ。

 故に戦力として期待はしない方がいい。


 だが、かといって見捨てるわけにもいかない。万一リィトとイアたちが遭遇して戦う流れになったなら、村唯一の生き残りでもあるのだ。事情を説明できるなら学園に連れていって彼の口から説明させた方が余程説得力があるとも思える。

 ならば、極力生きていてもらわないと困る。


 しかしイアが誰かを守りながら戦うとなると、正直かなり厳しいのではないか。そう思うのもまた事実だった。

 ウェズンから見てイアはどちらかと言えば自衛程度ならどうにかなると思っているが、率先して誰かと戦って勝利を収めるというのは難しい気がしたので。


 だがしかし、リィトという存在を恐れてここから動かないという選択肢も存在していなかった。

 あの杖を回収して、目的は果たしたとばかりにさっさとどこかに行ってくれるのがこちらとしても助かるが、それはそれで頭の痛い展開が待ち受けていそうなのも否定できない。


 どちらにしても今どうなっているかなんてウェズンにわかりようもないのだ。ならばさっさと戻るしかない。


「……凍らせた上を移動するよりは、風で浮かせて海面を走る感じで行った方がいいか……?」


 足場がしっかりしている方が安定していて安心はできるけれど、しかし氷なので滑る可能性もある。

 滑って転ばない程度に気を付けて移動するとなると時間もかかるし、それなら水面すれすれを駆け抜けた方がいいのではないか。

 やったことはないけれど、まぁイケる気がする。

 そう思ったので早速ウェズンはそちらの方法を選択した。



 ――途中何度かバランスを崩して盛大に海の中に転んで突入しそうになったけれど、どうにかなった。


 思っていたよりも早くに戻れたので、そのまま急いで村へと向かう。

 移動しながら確認したモノリスフィアの瘴気汚染度は80%で、最初に見た時と同じまでに戻ってはいた。とはいえ、これでは神の楔がマトモに機能するか疑わしい。

 イアが学園に戻っている可能性はかなり低い。となると、まだ村にいるか、別の場所に移動した可能性もある。最悪ウェズンが戻ってこない事で、イアも洞窟へ向かった可能性もあった。そうなった場合、リィトと遭遇していてもおかしくはない。洞窟を確認してから村へ移動するべきか迷ったが、いかんせんウェズンが海の上を突っ走って戻って来た時点で村の方が近かった。それもあってまずは村へ移動して、カドルクあたりにどうなったか聞いてから行動に移ればいい。


 そう、思っていたのだが。


 元々来た時点で人の気配なんてない村だった。

 本来ならばそこそこ活気のある漁村だったはずなのに、しかし誰もいないせいで活気なんてものとは程遠い。村の外れの方にひっそりと存在していたカドルクの家まで行けば、いるだろうと思っていたはずのカドルクの姿もない。


 イアがいないのはわかる。

 ウェズンが戻ってこなければいつまでも待たずにどうにか学園へ戻るように告げてあったし、戻れないにしても戻るためにどうにか手段を講じるだろう。

 あれでイアだって物事を考えているのだから、瘴気汚染が酷すぎて帰れないにしても、なら少しでもマシな場所を見つけてそこでどうにか体内の瘴気を浄化して大急ぎで神の楔へ駆け込むだとか、力技が過ぎる方法であっても試しはするはずだ。

 村周辺の瘴気濃度だけが高いのであれば、低い場所へ移動してそこで浄化して村に近づかず他の神の楔を探してそちらから帰る、という事だってできるはずだ。神の楔が他にある事が前提になってしまうけれど。


 なのでモノリスフィア片手に村を出て周辺を探索している可能性はある。

 ある、けれどカドルクもそちらへ着いて行ったと考えていいのだろうか……?


 まぁ、瘴気汚染が酷いところにいつまでもいる方が危険なのだ。イアと一緒に行動していてもおかしくはない。

 誰もいないカドルクの家を後にして、では洞窟とは反対側へ移動したと考えた方がいいだろうな、と思ったところで。


 最初、村に来て誰かいないだろうかと探していた時には見なかった物を発見してしまった。


 砂浜に、ちょっとだけ山のように盛られた砂。そしてそこには木の棒が無造作に突き立てられている。

 大きさこそ違うがウェズンはそれを見て、庭の片隅に死んだ金魚を埋めてお墓にしていた前世のクラスメイトの事を思い出した。メダカだったかもしれない。まぁ今はそこはどうでもいい。


 庭の片隅に埋めて、そうして卒塔婆のかわりか知らないけれどアイスの棒だとかを突き刺していた小学校の頃のクラスメイト。元々飼っていた数が少ないから、全部死んだとしてもそこまでではなかったけれど、遠目でみるとなんであの一画アイスの棒突き刺さってんだろ……と幼いながらに疑問に思ったことまで思い出してしまう。聞けばあっさりと答えてくれて、謎はすぐさま解けたけれど。


 近くに行って見れば、アイスの棒にそっと金魚の墓だとかメダカの墓だとか書かれていたような気がする。控えめな文字なので、本当に近づいて見なければわからなかった。


 ウェズンの目に映っているそれは、その墓にとてもよく似ていた。ただ、金魚やメダカの墓とするには大きすぎる。

 漁村なので、小さな子が食事に出た魚などの骨だとかを埋めて墓を作った、と言われたらまぁ、信じたかもしれない。砂浜に埋められたら何かの拍子に――それこそ風の強い日に砂が飛んでいって――骨が、なんて事になったりするかもしれないから、ちょっと危ないんじゃないかなぁ、と思えるもののお魚のお墓と言われればきっとウェズンはそうなんだ、で受け流したとは思う。


 だがそれは、最初にこの村に来た時点でこれがあった場合だ。

 間違いなく最初に来た時、こんなものはなかった。


 なんだか嫌な予感がしてそっとその墓めいた何かに近づいてみる。


 木の棒は一体どこから見つけたのか。恐らくは海辺に流れ着いたやつなのではないか。棒というよりは太い枝みたいに見えるそれは、よく見ると小さな文字が彫られていた。


 カドルクさん


 彫るというより削ったと言われた方がしっくりくる気がするが、確かにそう書かれていた。


「……イア、だよな」


 誰がやったか、と考えるまでもない。

 村の人は既にカドルク以外いないし、今この村にいておかしくない人物はウェズンとイアとリィトくらいだ。そしてウェズンは今戻って来たばかりなので、これをやったのはイアかリィト。しかしリィトがやるか? となると恐らくはやらないだろう。そもそも村の人間の名前を把握しているかどうかも謎だ。

 カドルクの話に出ていた旅人とやらがリィトであるなら知っていてもおかしくはないけれど。


 カドルクが死んだ、という事実を受け止めるにはまだ心の準備ができていないが、しかし考えれば有り得た事だ。既に一度瘴気汚染から異形化しかけていたのだから、ウェズンが浄化魔法でどうにかしたとはいえ瘴気汚染の酷いところにいつまでもいたのだ。洞窟から離れたといえ、村の汚染度合だって大分高い。カドルク本人が瘴気耐性はそれなりにある、と言っていたが、それで安心してはいけなかったのだ……


 村で待機させるのではなく、もっと汚染度の低い場所を探してそちらに移動させるべきだった。

 とはいえ、本当にそんな場所があるかもわからないし今更である。


「……イアは一体どこに……」


 これをやったのがイアだというのなら、まだ彼女は学園に戻っていないはずだ。

 戻っていると考えるには楽観的な気がした。


 洞窟から離れるように移動したのであれば、この先……

 そう思って視線を上げて遠くを見ようとした矢先に――



 ドォン!


 地の底から響くような音と共に一瞬地面が揺れた。地震かと思ったが、揺れは一瞬で終わりウェズンが今しがた見渡そうと思っていた前方で大きく砂が舞い上がっている。もうもうと舞う砂塵の向こう側で、何やら大きな影が見えた。

 最初、見間違いだと思った。

 それくらい突拍子のないものだったからだ。

 だがしかし、見間違いなどではないのだと嘲笑うように、舞い上がっていた砂が落ち着く頃にはそいつの姿もハッキリと見えるようになる。


「うわぁ」


 それは巨大な竜だった。一体どこから現れたのか、だとかの疑問はあるが、そんな事よりも――


「イア!!」


 そいつの近くに倒れている小さな影は、紛れもなく。


 ウェズンの妹であったのだ。

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