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僕が将来魔王にならないとどうやら世界は滅亡するようです  作者: 猫宮蒼
序章 攻略本が来い

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部分的に二周目



 ところでこの学園には食堂が二か所ある。

 具体的には三か所なのだがウェズンが行ける食堂は二か所だけだ。


 一つは学園内部にある食堂。

 もう一つは寮内にある食堂。


 三つ目、と言っているのは女子寮の食堂なのでウェズンがそちらへ行く事はないだろう。


 そもそも昨日だって殴り合いして戻った後、疲れ果てて食事なんてする気にはならなかったけど食堂があったからどうにかなったようなものだ。

 これで自炊だったら間違いなく面倒くさくなってそのままベッドに倒れ込んで寝た挙句次の日空腹を訴え面倒な事になっていただろう。


 食堂がなければ自炊できない者たちはどうなっていた事やら。


 とはいえ、食堂に足を運んだ時間帯が早かったのかそれとも遅すぎたのか、ウェズンが行った時はほぼ無人であった。料理を作っているのはゴーレムらしく、注文をすればすぐさま料理を出してくれたけれど、他に生徒らしき姿を見る事は食べ始めてから食べ終わるまで一切無く。

 同学年、という言い方はともかく新入生として入った連中と会わなかったのはある意味タイミングの問題だったのかもしれないけれど、既にこの学園にいる先輩と呼べる人たちと会わなかった理由は先程部屋のセキュリティなどを担ってもらうべく指名したゴーレムからの話を聞いて理解した。


 なんでもわざわざ食堂に向かわずとも、部屋に直接運んでもらう事ができるらしい。

 とはいえ食堂のゴーレムの数には限りがあるので、食事を運んだり食べ終わった後の食器を返しにいくのは部屋の世話係になるらしいのだが。


 それを聞いて、ラビぽよとかバニぽよにまともに食事というか物の持ち運びができるのか!? と思ったのは言うまでもない。

 けれども、どうやらできるらしい。一度くらいその光景を見る事はできるだろうか、と思ったもののどうやら食堂には転移魔法陣があるらしく食事を受け取った時点でそこからそれぞれの自室へワープできるらしい。つまり、廊下を食器運んで移動するラビぽよもバニぽよも見られない。それを知って正直ちょっとだけウェズンは落ち込んだ。


 自室の管理人みたいなポジションにはしたくないけれど、一切関わりたくないというわけでもない。距離感的には近所でたまに見かける野良猫程度には関わりたかった。


 とはいえあれらは女性に好まれそうな見た目であったので、どのみち男子寮で見かける事はなさそうだ。そう考えればさくっと諦めもついた。


 そういうわけでこれからの食事は大体自室に運んでもらう事になりそうだ。

 ちなみにゴーレムだが。

 それを名前として呼ぶにはちょっとどうかなと思ったので確認してみれば、製造番号らしき数字をつらつらと述べられたので申し訳ないが途中で中断した。円周率聞いてる気分になったのは秘密である。


 元は案内人のような事をしていたようなので、安直ではあるがナビと呼ぶ事にした。

「ソンナ……名前まで頂けるなんて、感無量でゴザイマス~!」

 とまたもぶわっと涙のような液体を零していたが、このゴーレムあまりにも幸せのハードルが低い気がする。あからさまな迫害や虐待を受けていたわけではないはずだが、それでも今まで部屋の案内人というか管理人的立場に一切選ばれる事がなかったのが相当きているようだ。


 やる気に満ちているのはいいが、あまり用事を言いつける事はないんじゃないかなぁ……と思っているのでそこは少し申し訳なさを感じるも、ナビは流石にそれ以上望むのは過ぎたモノかと! なんて言っているので必要以上に気にするのはやめた。口ではそう言ってるが内心ちょっとは期待してる可能性もあるので、たまに用事をどうにか作れたら作ろう、とは思っている。



 さて、そんなこんなで翌日。


 朝起きて朝食をナビに運んでもらい、身支度を整えてあとは登校するだけだ。


「それじゃ行ってくる。あとは頼んだよ、ナビ」


 普段は部屋の亜空間にいて姿を見せないようにしていますノデ! と言っていたが、呼べばすぐに姿を見せるという事は声は聞こえているのだろう。だからこそ部屋を出る前にそう告げてから出発した。


 ウェズンは知らない。


 本人は何気なく、普段家族に向けるような気軽さで言ったに過ぎないその言葉がナビにとってはとんでもなく重大なものになっていた事を。

 彼がそれを知るのは本日の授業が終わり部屋に戻ってくる時である。


 教室に入れば話題は昨日部屋の世話係にどれを選んだか、というのがほとんどだった。

 男子生徒はそこまで盛り上がっている様子はないが、女子生徒はいくつかのグループに分かれてキャッキャと盛り上がっている。

 聞こえてくる言葉から、ラビぽよと少女の姿をした妖精あたりが人気らしい。ラビぽよと同じくらいバニぽよの名前も聞こえてくる。


 ラビぽよを選んだ生徒の中では早速ラビちゃんと呼ぶようになった者もいるようだが、同じ呼び方を他の生徒もしていると知って、やっぱ呼び名としては安直だったか……なんてお互いに苦笑していた。


「おはようおにい」

「あぁ、おはよう。寝坊はしなかったんだな」

「早速お世話係がお仕事してくれたからね」

「そうか。お前は誰を選んだんだ?」

「一番温和で口調が柔らかい子、って頼んだら羽トカゲが来た」

「……見た目からは絶対選ばない感じの奴が来たわけか」

「うん。でも見た目が可愛くても口調がきつかったりすると、これからずっと一緒のお部屋でしょ? 仲良くできないのは困るから」


 そこまで言うとイアは声を潜め、なんとなく周囲をさっと見回す。


「途中で別の子と交換はできないはずなの。ゲームだとね」


 イアが主役だという方のゲームの内容はイア本人がほとんど覚えていないのもあって内容を聞きようもないのだが、それでも昨日の部屋での世話係選びのやりとりで何となく思い出したらしい。

 ゲームでは基本キャラとの好感度を上げて、自分のパラメーターを上げていくのだという。それだけ聞けばとてもよくあるタイプのゲームだ。

 小説が原作であるわけだし、ゲームはどちらかといえば公式的な二次創作みたいなものか。

 なら、キャラと仲良くなって恋愛なり友情なりでのキャラエンドがあるタイプと考えて大体間違いではないだろう。


 基本は原作キャラと関わっていくわけだが、ゲーム内オリジナルキャラというのも当然存在していて、その中の一つが部屋の管理人なのだという。

 選んだキャラによってそれぞれにイベントがあるのだとか。

 とはいえ、口調がキツイタイプはイアからすると少しばかり苦手だったらしい。


 ふわっと程度にしか思い出していないので、どれがそのキャラか、までは思い出せず、だからこそ見た目で選ばず性格と口調を伝えて選んだとの事。

 ゲームであれば選択肢の中からしか選べないが、生憎二人にとってここはゲームの中ではなく現実だ。だからこそ、その選び方ができたと言えよう。

「世話係とも仲良くなっておくと時々だけど手助けしたりしてくれるから、親しくなって損はないよおにい」

「手伝い目当てとかまた打算塗れだな」

「そう言われると否定できない」


 それで、とこれからが本題ですよみたいな顔をしたイアに、ウェズンは他に何かあっただろうかと考える。


「おにいは誰選んだの? ぽよ? 妖精?」

「いや、ゴーレム」

「いた? そんなの」

「最初に説明してたやつ。世話係この中から選べって言われたけどそれじゃあお前でって言って」

 あと家でもよく見かけてたから馴染みがあったし、と言えばおにいらしいと納得された。


「そっか、ゴーレムか…………えっ!?」

「なんだよ」

「いや、えっ? ほんとに? ホントにゴーレム?」

「そうだが」


「今思い出したんだけどね。

 二周目以降、特殊な条件を満たしていないと選べないはずなんだよねゴーレム」

「生憎時間がループしてやり直してるだとかはないな」

「おにいの適応力の高さ……あとその理解力。ホントに人生二周目とか三周目とかじゃないの?」

「仮に今の人生が二周目なら一周目の僕は魔王になり損ねたって事か」

「……それもそっか」


 実際ウェズンも転生しているので人生二度目というのは当てはまっているが、ウェズンとしてもう一度人生をやり直している感覚はない。前世のおっさんはあくまでも前の人生であって、今の人生をもう一度繰り返しているという自覚などあるはずもない。ウェズンとして生まれてからのこの人生は一度目だ。

 もし本当に今の人生がウェズンとしての二周目以降であったなら、以前の自分の失敗を覚えてもいないまま再びチャレンジしているという事になりかねない。流石にそれはちょっと……と思う部分もあるのでイアはすぐさま浮かんだその考えを却下した。


 一応声を潜めているので周囲に聞かれてはいないようだが、流石にこれ以上は不味いかもしれないと思ってイアはその話題を打ち切った。昨日の自己紹介で家名が同じという部分で兄妹であると知られてはいるし、だからこそ一緒にいてもそこまで揶揄われるような事もないとは思うがあまりにもべったりしているように見えれば面倒な事に巻き込まれかねないからだ。


 確かゲームのイベントでも他のキャラとロクに話もせずずっとウェズンと行動し続けていると、お兄ちゃん以外にお友達いないんですか? なんて感じで絡んで来る悪役みたいなのがいたような記憶がある。


 兄との会話を終わらせて、とりあえず席につく。


(おにい以外とのおともだち、できるかなぁ……?)


 いかんせん、イアの前世は友達だとかそういったものと縁がなく、また転生した今も友人と呼べるような人物はいない。かつて暮らしていた集落では自分のあまりの出来損ないっぷりに友達になってくれる子すらいなかったのだから。

 昔と比べれば今の自分はそれなりにできるようになったけれど、それでも話しかけて、相手にされなかったらと考えると少しばかり躊躇ってしまう。


 あの時はロクに喋る事ができなかったけれど、それでも言葉の意味は理解できていたのだ。


 お前といるとイライラする。

 一緒にいても楽しくない。


 本心からの言葉だった。だろうな、と思う。けれども、本当の事だとわかっていても傷つかないわけじゃない。


(とりあえず、まずは一人。おにい以外でそこそこ話ができるお友達を作ろう)


 そんな決意をイアがしたそのタイミングで、テラが教室に入ってきた。

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