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お出迎え

よろしくお願いいたします。


「一孝くん、ありがとね。美鳥の面倒見てもらって」

「美桜さん、違うよ」


 俺は苦笑い。確かに小さかった時は俺が美鳥のお守りはしていたけど。


「今日は、俺が勉強を見てもらってたんですよ」

「ママ、ひどぉいよお」


 美鳥の母親の美桜さんが大型1box車で駐車スペースに入ってくるのが1階の共用スペースの窓から見えた。

 だから、2人でエントランスを抜けて、外に出たんだ。車に近づいていくと運転席のウィンドウが下がって、亜麻色の髪をショートボブにした女性の顔が見えた。

 思わず、俺の後ろについて外に出た美鳥の顔を振り返り見てしまう。

 今日一日、気温が高く熱くてロングヘアを後ろでまとめてポニーテールにしているから顔立ちがはっきり見える美鳥と同じ顔が見える。正にそっくり、瓜二つの形容詞が当てはまる。

 先日も、もう1人の娘である美華姉と3人でイベントに出たんだ。誰しも三つ子として怪しまなかった。そんな美魔女の美桜さんが、


「ごめんね。美鳥」


 ちろっと下唇に舌を重ねて、微笑んでいる。絶対謝ってないって。


「こうなったら、ひとつお願い聞いてよねママ」

「ハイハイ。なんだって聞いちゃおう」


 美桜さん、安請け合いだけど、大丈夫だろうか。

美鳥は車を回り込んで助手席のドアを開けて乗り込む。


「じゃあ一孝さん、おやすみなさい」

「おやすみ。今日はありがとな」


 運転席側のドアの近くに立ってい俺に、車の室内から美鳥が声をかけてくれる。


「私越しにお惚気」


 美桜さんがニコニコと俺たち2人の顔を振り返り振り返り見てる。


「次はウチで勉強会しても良いからね。そのまま、しっぽりと2人でも」

「ははは………?!」


 俺は、笑って誤魔化しながら、目を瞬かせた。

 美桜さんと奥に座っている美鳥の間に、もう1人の姿が見えた。亜麻色の髪をおかっぱにした小さい子。ニヘラッて笑っていた。


 「コトリ?」


 思わず呟いてしまう。目を擦って、もう一度車の中を見るといない。


「一孝くん、なんか言ったかな? どうかした?」

「いえ、なんでも無いです。勉強しすぎてゆく目が疲れたかな。ははは」 

「あまり、根を詰めちゃダメよ。タオルをあっためて目に当ててみてね」

「そうします」


 そうして車は俺の住むマンションを出て行った。

 美鳥が車の中から、俺に手をふててくれていた。嬉しいものだね。俺も小さくではあるけど、手を振ってみた。みてくれてるかな。



 そうして、俺は自分の部屋に帰った。ドアを開ける。


「ただいま」


 学生の下宿マンションなんだから、返事が返ってくるはずはないのだか、


「お、おかえり。お兄ぃ」


 声からして小さい女の子の声で返事があった。

 灯りの灯されていない薄暗い三和土に亜麻色のおかっぱ頭の子だ。10歳くらいかな。美鳥の小さい頃に瓜二つ。


 「コトリ、元気ないみたいだけど、どうした?」


 俺は、玄関スペースの灯りのスイッチをおしつつ、その子に前にしゃがみ込んで、目線を合わせてあげる。


「あのね、頭の中で言葉がいっぱいなの。吹きまくってしょうがないの」


 コトリは頭を傾けて、上側に向いた顳をトントンと自分の手で叩いている。耳に入った水を出しているみたいに。


「で、何してのかな」

「こうすれば、変な言葉が耳から溢れるかなって」

「プッ」


 思わず吹いてしまった。


「コッ、コトリさん。ちなみになんて言葉がかな」

「うーん、えーとねえ、モル…とか、シントウアツ…とか、デオキシリリボカクサン…とかだよ」


 えっ、それってさっきまで美鳥と突き合わせていた生物のノートの中身だよ。美鳥の頭の中もそんな文字が氾濫していたんだね。

 己れ、天野先生。コトリまで侵食するとは、許すまじ。

 コトリは、トントン叩くのを止めないでいる。よく見ると、叩いている拳や、スカートから伸びている足先が透けて見えている。コトリは人ならざるものらしい。幽霊か何かなのか知らん。

 どうやら、美鳥とコトリは、意思で繋がっているようで、お互いの感じたものを共有していたりする。

 そしてコトリが分かるのは俺と美鳥と、先日から美華姉だけ。

見えるんだからしょうがないと開き直っているのが実情。


「もうちょっと我慢してみて」

「うん、わかった」


 美鳥は目をギュッ瞑り、口をへの字にして食いしばり、拳を胸前で強く握って耐えている。


 しばらく経って、強張っていた顔も解れてきた。物理的に美鳥が自宅に帰って行くのだから、距離が離れて、感覚が薄くなっているんだろう。


「おっ」


 コトリが俺をみて、口を開けたり閉じたりしている。話すかどうか迷っているみたいだ。


「おっ?」


 俺は、催促してみた。


「お兄ぃ、あのね。さっきね」

「うんうん」

「なんかママが側にいてくれる感じがしたの。いないのに、そう感じたの」

「えっ」


 じゃあさっきのは、見間違いじゃないってことか。

 コトリは、俺の部屋から出られないんじゃないのか。今までは、出ようとしてももがいても外に出られなかったんだ。


「コトリは、ママに会いたいか?」

「会いたいよう。美鳥お姉ちゃん越しじゃなくて」


 美鳥の姉の美華さんには、なし崩し的に会わせて話をして納得させた。いずれは美桜さんにも話をしないといけないかな。


「コトリが良い子にしてたら会えるよ。きっと」

「うん」


 ちなみに、今日、美鳥と俺の部屋でなくて、一階の共用スペースで勉強会をしたのは訳がある。

 この部屋にいるとコトリが かまって 遊んでよー って戯れてくるんだ。勉強してるからって言って我慢してと言ってもダメでトコトコと近づいてきて手をパタパタ振って抗議してくるんだ。勉強どころじゃなくなるんだよ。

 でも、部屋を出られるとなると困ったな。

 

 隠れて美鳥と♡できないよ










ありがとうございました

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