添い寝
84話85話 同時投稿です
美鳥は、俺の言う通りにひら座りになってくれた。
「これで良いですか?」
「ありがとう。こっちの方が、やりやすそうだ」
長い髪を包むナイトキャップは、前に回してもらう。
少し丸まった背中が俺の前に晒される。なんか小さい。広げた手のひらで背中を全て掴めそうだ。
こんな小さな背中で、今日一日中、動き回っていたんだね。感心してしまう。尊敬してしまうよ。
「一孝さん」
「ごめん、ごめん。ついでに、ごめん」
俺は美鳥の後ろに座って胡座をかく。手を伸ばして、ツボを探るために脇腹に手を当てる。肋骨を探すんだ。
「アヒャー」
美鳥に身じろぎするけど、聞かないことにした。肋骨の1番下のがわかったんで指先を背骨まで動かしていく。
「くすぐったい」
「美鳥さんは、背中が敏感とみました」
「もう、ふざけないでください」
背骨から指2本の場所っと。更に探ってみる。
ここかな。
少し固くなっているポイントか見つかったんで、左右同時に親指をすっと押し込んでいく。
いち、にー、さん。
「アー」
美鳥の口から艶声が漏れた。
「一孝さん、そこそこ」
指を押し込んだまま、
いち、にー、さん。
「ウゥーン。なんか、効いてます」
そして喜声が出てきた。
最後に、ゆっくりと指先の力を抜いて、引いて行く。
「ふぅー」
吐息だね。
美鳥は肩越しに振り返って、
「よかったですゥ。背中の硬いところ、凝りっていうのですか、それがほぐれていって気
持ちよかったです。もう一度お願いして良いですか」
「何なりとお申し付けくださいね」
俺は親指をツボへ押していく。ほんの少しだけ強めにして、
いち、にー、さん。
「グアァー! キッキクゥー、効きます」
獣のような唸り声まで上げている。
「美鳥、ニットケースはお腹に当ててるか?」
「ヒャい」
グズグズになってるなぁ。
彼女の背中から指を外すと
「ハゥァー、ンヒュン」
美鳥は悦楽の溜息を漏らした。
一息ついてから、
「一孝さん、幸せですぅ。膝上のツボ押された時は痛くて、どうしようもなかったんですけど、その後からお腹の奥がポカポカしまして」
俺に振り返り、美鳥はトロンとした流し目を見せてくる。
「お腹の外からカイロの熱も伝わってきたんです。それで背中が押されて、凝りというか、疲れというか、何かが崩れて解けちゃうんですよ……アファ」
そして俺は、ベッドの上にある、もうひとつのニットカバーを取り上げてお尻の上あたりに当てた。
「イィっ」
「後ろからも………だ、ダメェ。と け ルゥ」
彼女は小刻みに震えながら、取り止めのない言葉を囁いている。
「アファー………」
その内に首筋の筋肉が緊張し、弛緩していく。その頻度も早くなっていってる。
俺からは見えないけど、欠伸を噛み殺しているんじゃないかな。
「美鳥、もう眠くなっているんじゃないか?」
「ヒャいい」
カクンと頭が落ちる。
ツボ押しとかで、疲れがどっと出たんだろう。頭が船漕ぎ出している。
「いいから、横になりな」
「うん」
「背中は俺に向けてねカイロの当てないといけない」
「ん」
そして、
コロン
美鳥は俺に背を向けで横になってくれた。
そこへ、
ピッピン
美華姉のメールが来た。
彼女の背中にカイロを当てながら、片手でポチッと画面操作をして、メーラーを起動。読んでいく。
……………………<携帯>
明日(美鳥)のために その幾つだっけ?
まあ、いいだろ。
でっ、どうだ。ご褒美だったろう。
ところでな、
いい雰囲気になるとお前らなら、すぐエッチとかになるだろ。
絶対そうだ。
でもな、
女はな、横に寄り添って貰うだけでも、満足になるんだ。
あれも結構負担なんだ。
今回は仕方ないと思って、床をひとつにして寄り添って寝てくれないか?
美鳥のために頼むよ。
手なんか繋いでくれたら、更にいいもんだ。
お前が
美鳥と添い遂げるつもりなら、ずっとしてくれよ。
お前も満ち足りていくことになるよ。
心がつながる。ひとつになっていくんだ
美鳥のこと、頼むよ。
姉より
なんという愛だろう。目が潤んできた。
俺は、美鳥をみる。いつの間にか美鳥は横臥した体を捻り、仰向けになっていた。そして俺を仰ぎ見てくる。暫く目を合わせたままにした。
でも、
「それじゃ、背中にカイロを当てられないよ」
「カイロを貸してください。背中の下に轢いちゃいます。それより貴方の顔を見てい
「わかった」
ニットケースを美鳥に手渡す。美鳥は腰を浮かせて、ベッドとの間にそれを挟んだ。
そうしている間に、俺も体を横たえる。美鳥に寄り添った。頭だけを横に向けて美鳥を見るんだ。
「俺も疲れが出たのかな。眠くなってきた。寝ていいかな」
欠伸を噛み殺す仕草もした。
「ふふ、一緒に寝ちゃいましょう。でも私は一孝さんの顔を暫く見ててよいですか?」
「はは、俺も美鳥の可愛い顔を見ていたいよ」
お互いを見続けるんだけど、不思議と顔が近づいていった。そして、
♡
時間が止まった。
「ほう」
先に唇を離したのは美鳥。目を閉じて寝息になっている。寝落ちだね。幸せそうな寝顔が見られたよ。
俺は、美鳥が起きないように体を捻り、ヘッドボードにあるコンロールパネルを操作して照明を落とした。
すると、寝言かどうかわからないけど、
「おにいぃ、手」
俺の腰あたりで何かが、サワサワと動いている。
美鳥の手が何かを探している。俺が手を差し伸べてあげると、それを握り、
「えへっ」
静かになった。後は、美鳥の寝息が聞こえるだけ。
常夜灯が足元からペッドの縁を微かに照らすなか、俺も目を閉じた。一日の疲れがどっと出て意識がすぐ沈んだ。
でも、微睡んだ意識のなか、スマホからメールの着信音………
いってくるの文字は翌朝、起きてから読んだよ。いってらっしゃい美華姉。
ありがとうございました 第2章もあと1話の予定です。




