ツインブーストアップ
マゼンタに頼まれて運んでいるバックには、ストラップがつていた。左右両側のバックをストラップを襷掛けにして、ニュートラムの駅へと上がるために登っている。
首の怪我もあり、上り階段は苦手だ。人が降ってきそうでフラッシュバックがありそうだ。
先に登っていたライムが立ちどまって振り返る。
「一孝さん、鞄が重いのですか? 手伝いますか?」
と気遣ってくれた。
「ありがとう。大丈夫。意外と軽いんだ」
ライムは俺の方に降りてくる。そしてバックを見て、
「お姉ちゃん、なにを持っていくんだろ?」
それから、俺の顔を覗き込んできた。
「顔が白っぽいですよ。体調すぐれないんですか?」
心配そうに更に近づいてくる。近い!近い!
「大丈夫だって、階段はちょっと苦手でね。色々あったから」
「ごめんなさい。気づかなくって」
ライムがしまったと言う顔になってしまった。
「だから、もう大丈夫なんだよ。心配させたね。ごめん。ごめん」
顔がお互い接近していたから、茶目っ気を出して、
「そんなに顔近づけて、キスでもしようか?」
にっこりと口に出してみる。
「もう、一孝さん。心配してあげてるのに」
プンスカしながら顔を離してくれた。
するとライムは階段を更に下に降りて、俺の背後に回り込む。あろうことか、お尻を押し出したんだ。
「ちょっと、ちょっとライムさん」
「急がないと、お姉ちゃんたちに置いてけぼりにされます。押してあげます」
グイグイと押してくれるの良いのだけれど、以外に脚の動きの妨げになって登りづらい。
でもライムの優しさが嬉しいから、そのまま押されるまま兄た。
そのうちに背中というか、腰のあたりに、何か押し付けられた感触があった。
ポフっ
「一孝さん、キ、キスなんて、人気のないところ囁いてほしいな。キャッ」
自分の頬が熱くなった。額をつけた美鳥の頬も多分、真っ赤だと思いたい。背中越しは、顔が見えなくて、惜しい。悔しい。
そんな、こんなで階段を上り切り、改札口まで行くと、
「遅い、遅〜い!何やってるの? 電車来ちゃうよ」
こちらはマゼンタさんが腰に手を当ててプンスカして仁王立ち。買っておいてくれたのであろう切符を渡された。併せてお小言ひとつも、もらった。
「これでハーバープレイス入り口駅で降りてね、本当に何ちんたらしてるの?」
「お姉ちゃんが、嵩張る荷物持たせるからだよね」
俺の代わりに美鳥が援護してくれる。
「今日、一孝はアシスタントなんだから、荷物ぐらいも、持ってくれなキャ」
「ババのアシスタントなんだから、お姉ちゃんが使っていい道理ないよ」
「なんだと」
「何よ」
なんか喧嘩腰の話になってきた。俺は、2人の間に割り込み、美鳥に話をしていく。
「アシスタントなのは確かだけど、奏也さんだけじゃなくて美鳥もそうだし、みんなのお手伝いをやってもいいと思ってるから、いいんだよ」
「一孝さん、優しすぎる」
「ほら見ろ」
俺の後ろから美華さんの声が割り込む。
「お姉ちゃんは、黙ってて」
仕方がないな。俺は美鳥の肩を持って、顔を凝視する。
「美鳥、怒ってくれてありがとう。俺にとって大事な美鳥のお姉ちゃんなんだから、荷物持ちぐらいなんでもないよ」
「一孝さん」
美鳥は、わかってくれたのか、はにかんでくれた。
「チェ、やってられねぇ、和也〜、早くお前とのとこ行きたいよぉ〜」
美華さんのつぶやきが聞こえてきた。
俺たちは改札を抜けて、ホームまで登る階段を再び登っていく。
「あれっ、美鳥? 美華さん? どこ?」
いきなり、視界から二人が消えた。
「おろっ! おおおおっ」
そして再び、お尻を押された。無理矢理、階段を登らされて行く。
「どうだ? 少しは楽になったかぁ?」
と右の耳から聞こえた。
「もう時期。電車がきますから、二人で一孝さんを押すことにしたんです」
と左の耳から聞こえた。
声が一緒でも話し方とかが違うから、何とか左後ろにいるのが美鳥だと判った。
そうやって押されるがままに、階段を登り切ってホームに着くと同時に列車も滑り込んできたんだ。




