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モーニンクアタック 3

「喉、乾きませんか?、美鳥が来る間にお茶でもどうですか?」


俺からの伝言を聞いて、立ち続けている美華姉へ声をかける。彼女を俺の部屋へ案内をして座ってもらった。

俺はキッチンスペースに立ってお湯を沸かす準備を始める。ちらっと美華姉をみると頭を巡らして部屋の中を吟味しているように見える。

おかげ様で、たまに美鳥も立ち寄るようになったんで、まめに片付けていたのか幸いした。


「あんまり見ないでください。アラがわかっちゃいますから」


恥ずかしいので牽制しておくと、


「ふふっ、大丈夫。美鳥より主婦向きかもね」


お褒めに聞こえるお言葉をいただいた。


お湯が沸いたので保温ポットへ注ぎ、緑茶用のティーパックへアッサムとジャワの銘柄の紅茶葉を合わせて入れたものをポットへ投入。少し長めに蒸らしていく。


「えっ、そうなんですか? でもあいつ、頑張る方だから覚えりゃ、しっかりやれますよ」


美鳥がこの部屋に来てくれた時はコトリと2人(?)で片付けてくれているのをみてるし、琴守家で食べたカレーフォンデュの付け合わせも美味しかった。


「なんだぁ、ちゃんと見てくれてるのね。あの子を頼むわ。違う、ごめん昔から頼みっぱなしだよね」


美華姉が美鳥の仮面を取り去って、お姉ちゃんの顔で言ってくれる。

目分量であるけど、ポッドから温めてあったカップへ紅茶を注ぐ。馥郁とした茶葉の香りが部屋へ広がっていく。あらかじめ用意した苺とブルーベリーのジャムを小皿にとりわけ。


「コトリ、側から摘まない」


割と食いしん坊なコトリが側からジャムを取ろうとしてるのを制しながら、美華姉が座るテーブルへ香りと共に届けていく。


「良い香り」

「ありがとうございます。いちごとブルーベリーのジャムがありますんで、それをスプーンでちびちびしながら紅茶で流し込んでください、濃い目に入れてあります」

「ロシアンティーね。意外に凝る方なのね。私なんか直接カップに入れちゃうよ」


流石に美華姉、見知があります。でも、飲み方はいろいろ、


「東欧では、そんなふうに飲むそうですよ」


 美華姉はティースプーンで掬ったジャムを口につけながら紅茶を飲んでいる。綻んだ顔で、うまくお茶を出せたことに安堵する。

ただ、紅茶と一緒にコトリもつけてしまった。美華姉の背に被さり、横に座ってジャムをつまみ、膝に頭を乗せて甘えている。


「お姉ちゃん」

「美華お姉ちゃん」

「美華姉」


と、話しかけているのだが、美華姉は反応しない、聴こえていない。 そのうちにコトリは涙を堪えた顔で俺を見出した。


「ねぇ、一孝くん、この部屋、なんか虫いない? 音しないんだけど、煩わしいっちゃ煩わしいのよね」


美華姉が喋った途端、コトリが泣き出した。


「うわぁー、うわぁーん、お姉ちゃんコトリのコトみてくれない。いやだよぉー」


大きな眼からボロボロと涙を流している。


あちゃー


こんな返事を返すくらいしかできなかった。


「蝿とかいないと思いますけど、今度バルサンでも炊いてみます。すいません」

「別にいいのだけれど、ごめーん」

「コトリ、ハエじゃない」


泣き声が大きくなってしまった。

美華姉には罪はない。俺が悪いんです。


   カシャン


 鍵が開く音がした。

 美鳥が来たんだと思う。エントランスの暗証番号も教えてある。合鍵も渡してあった。


あれ、美華姉の笑みが深くなってる。


 駆けつけて1番


「一孝さん、ごめんね。迷惑かけて」


俺は首肯する。


「スマホで話した通りにやってみよう」


美鳥も首肯する。


「美華姉さん、手を貸して」

「いきなり、何?」


 美鳥は美華姉の手を取る。

 

「本当は、ゆっくり話すつもりだったけど、落ち着いてみててね」


 美鳥は簡潔に話した。美華姉はあっけに取られている。

 俺は泣いているコトリの手を取って美鳥に握らせてあげた。反対の手は俺が握る。全員が繋がった。体の中に不思議な流れが起き出した。

 コットンに以前聞いておいたんだ。もし、コトリを他の人に紹介する方法を、美華姉はもちろん美桜さんに見せる時がくるはずだからと。

 

 美華姉の目が見開かれた。俺と美鳥の間にコトリが立っているのがわかったんだろう。


「ちょっとなにぃ?」


 驚きの声が上がる。


「ミカネェー」


 コトリの声が美華姉の声を掻き消す。

美華姉の顔が疑念に変わったが、すぐに、コトリと美鳥を交互に見て、


「美鳥なの?」


コトリが話す。


「ミカネェーチャン、きこえる?」


美華姉は、もちろんと首肯する。


「やっとお話できるよぉ〜」


 コトリは美華姉に抱きついた。手足の先が透けてる小さい美鳥に抱きつかれても動じたように見えない美華姉は流石。


「美鳥、この子も美鳥だよね」

「うん」

「コトリねぇ、お姉さんとお話ししたかったけど、さっきまで出来なかったのね」

「もうお話しできるね」

「そっ、そうね」


 2人(?)の抱擁を見ながら、美鳥に話しかける。


「コットンの言う通りだね。これでパスが通ったんだ」

「さっきまで鳴き声がワンワン頭の中にして大変だったんだよ」


美鳥は美華姉に近づき、


「美華お姉さん、現実だけ受け入れて、話せるし触れるの、私なの、後は察して。私たちもよくわかんないの」

「支離滅裂なのはわかってる?」

「うんわかってる」


(俺もわからないけど受け入れるしかなかったんだ)


「私もヘンテコな世界の住人になったのかしら。でも状況は受け入れよう」


タフなお人だよ。さすがお姉ちゃんだ。


 ここで美鳥が


「で、悪いんだけど早く家に帰ろう。タクシー待たせてるし、ママが待ってる」 


 美華姉を急かしていく。


「だね、ママに頼まれたことあるしね」


 美華姉は立ち上がった。


「コトリ、今度ゆっくり話しよう。お姉ちゃんやることあるんだ」


コトリも美鳥から話が伝わっているのだろう、素直に


「うん、わかってる。今度ね」


美鳥はというと、


「では一孝さん、美華姉さんを連れて行きます。打ち合わせ通りに、しばらくしたら来てくださいね」


と優しく話してくれた。けど、近づいて耳元で


「抱きつかれたり、キスしようとしたこと、後、サイズのゴニョゴニョ、じっくりと聞かせてくださいね」


力のこもったお言葉をもらいました。


「美鳥〜、『一孝さん』ヒューヒュー」

「お姉ちゃん、恥ずいよう」


と会話しながら部屋を出ていった。


「よかったなコトリ。美華姉とこれからもお話しできるよ」

「うん、よかった」


とジャムのついたスプーンを舐めながら答えているコトリだった。






 ドアを出ると同じ階の同居人の方が歩いてきた。珍しいものを見ちゃったという視線をかんじる。私も美華姉も同じ髪型、顔立ちをしている双子に見えたのだろう。


「おはようございます」


 どなたか知らないけど笑顔で挨拶はする。乙女10箇条です。


「おはよう」


 相手は顔を紅潮さて挨拶を返してくる。ドギマギしてるのも感じた。


 美華姉が大学入学を期に家を出てから久しぶりに見たとはいえ、姉妹なんだけど、よく似ている。


「あれっ美華姉さん。この前会った時は髪を短くしてなかったっけ?」

「あぁ、これウィッグだから。いい色でしょ」


 私は呆れる。


「いい色だからって、一孝さんを騙すようなことしなくても」

「美鳥〜、むふぅ『一孝さん』ムフフフ」

「美華姉さん、なんか笑いがきしょい」


   チン


 コールしていたエレベーターがきた。ゲートが開く。誰もいなことに安堵しつつ、乗り込んでいく。


「妹のことが大好きで心配症な姉に教えて? どこまでいったとの?」

「単なるデバガメでしょ」

「おー、博識だねぇ」

「茶化さないでもらえるぅ、こっちも悩んでいるんだから、もう」

「おー、妹のことをいじりたくて疼いている姉に話してくれる?」


 エレベーターの中、私は1歩足踏みする。


「さっきということちがぁーう。……コトリのことわかるよね」

「あの常識外で理不尽なものだね」


 私は頬を膨らまして姉を見る。


「お姉ちゃんの意地悪! 私も混乱してたんだからね」


 片手で拝み返してくれながら、


「ごめん、ごめんね。…でっ、コトリが何?」


「一孝さんと一緒にいると'かまって' と寄ってくるの」

「ふむふむ」


 美華姉は合槌を打つ。


「一孝さんの部屋で2人きりになれないのよね。ウチもママが聞き耳立ててるでしょ」

「確かに、私も困ってた。……結局、和也とは彼の家で」


 美華姉は、ぼっと音が出そうに頬を染めて、暴露してくれた。


「何、言わせるの。もう!」


「もし、いいアイデア教えてくれたら、今日のことは聞かない。何があったかは聞かない」


   チン


 エレベーターが一階に到着した。幸いにもエントランスまでのフロアには休日ということもあり、人気はなかった。


「考えとく。それでいいでしょ」

「お願い」


 エントランスを出て、待っていてもらったタクシーに乗り込んだ。そして走り出す。


「話変わるけど、美鳥。あんたサイズいくつ?」

「いきなりね。…どこの?」


 美華姉は手を服の上から胸に被せる。

 思わず、私もそれを真似てしまった。


「この前、Dになったよ。買い直しに出費がかかって、お小遣いピンチ」


 キャミワンピの上から胸を支えるように腕を組みました。少しは強調できたかな。


「割り増しなしのうDだからね。私も暴露したんだから、美華姉もだよ」

「くっ、B+だよ。割り増しでC」

「へへーん、さすが一孝さんのH感覚だねぇ」


 タクシーの運転手さん、多少は察しているかもしれませんが、乙女の秘密です。忘れてください。聞かたかったことにしてください。沈黙は金ですよ。


「一孝くんには生でさわってもらってるの?」


 私も赤面した。ボンと音が鳴りそうに頬を染めた。


「できないから相談してるのに」

「わかってるよ。お返しぃ」

「もう!」


 美華姉は手を伸ばして、私の胸を触ろうとしている。それを遮ろうと手で応戦。しばらくじゃれつきが続いた。


「育胸体操はやってるんだけどなぁ。美鳥、あんた、他にもやってるの?」

「多分、一緒だよ。肩甲骨はよく動かしているよ。後、食事かなぁ」

「食事? 食べ物?」

「そう、豆腐とか納豆。これタンパク質ね。タッカンマリとか参鶏湯。韓国料理でコラーゲンたっぷりなの」


 美華姉に見せびらかすように腕を動かして胸を揺らしながら話していく。


「こっ、このやろ。…着いたら、ママに聞こう?」



 タクシーは、まもなく琴守家に到着した。


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