幸せに降りて行く足取り
「なあ、美鳥」
「なんですか、一孝さん」
一孝は美鳥をおぶり階段を降りて行く。今、1番大事なものを預かっているのだ。一段一段慎重に降りて行く。
「おまえ、もう少し食べた方が良いよ」
「太れってこと! 乙女には禁句だよ」
ポカッ
美鳥は一孝の頭の後ろに自分の握った拳を当てる。
「違うよ。今の俺は1番大事なものをおぶっているんだけど」
「だけど」
美鳥の頬は赤い。
「なんか、無理してるんだよなぁ」
「えっ、なんのこと?」
「いい女になるって無理しすぎなんかじゃないかなって」
「だって、それお兄ぃが」
一孝は立ち止まり、後ろ振り返る。
「今の俺には美鳥は、凄く可愛く見える」
「カ、ワ、イ、イ?」
「うん、可愛い。それを恋しい。愛しい。一緒になりたい。添い遂げたいって」
「えっー」
ポカッ ポカッ
「そう、可愛い女の子。 可愛 『いい女』 の子 に、なっているんだよなぁ」
「そんな言葉でぇ、で、いつからなの?」
「先週、マンションに来ただろ。モニター越しで、そのあと玄関で美鳥を見て」
一孝は美鳥から視線を外し、
「違うな、始めて会った、小さい時からだね」
「初めからぁ」
ポカッ ポカッ ポカッ
「照れ叩き、やめて。痛くないけど危ないから」
美鳥は叩くのをやめて、一孝の首に手を廻してしがみついた。
「早く言ってよね」
美鳥は一孝の首筋に小さく呟く。
「2年前に怪我をして、その1年半たってかな、自分の体が壊れてバトミントンの大会に出られないと知った時」
再び、一孝は階段を降りて行く。
「夢を見られなくなった俺は、もう美鳥には相応しくないって勝手に考えたんだよ」
「えぇ」
「だから、黙ってた。お前のために別れないといけないって逃げたんだよな」
「そんな、一孝さん、私は」
美鳥は頭を一孝の首筋から外す。
「リハビリしている時に周りのスタッフの人たちを見て気づいたんだ」
一孝の歩みは止まらない。
「俺にも、やれることがあった。夢がまたできたんだよ。そうして成長した美鳥と会えた」
一孝は、再び、振り返り美鳥を見る。
「俺は学校の先生になる。そうしてバトミントンのコーチになって、俺みたいなバトミントンヴァカを育て上げるって夢ができた」
「一孝さん」
「だから、また美鳥と……」
「一孝さん。私はいつだって一択なんだよ。今まで、どんな時も」
美鳥は一孝を抱きしめる。
「美鳥、好きだよ」
「私も、好き」
一階まで降り切るのもあと少し、
「美鳥」
「なあに」
「柔らかいものが背中に感じるのだけど」
「感じさせてるの!大きくなった私を知ってと」
更に抱きしめて自分を一孝の背中に押し付ける美鳥。
「美鳥、俺は…色々と激しいぞ。良いのか?」
なんのことかを察した美鳥。首筋から胸元まで紅潮させて、
「私の愛は重いのよ。どんなになっても受け止めてあげるわ」
一孝は最後の一段を降りた。
美鳥は一孝の耳元で、
「でも…優しくしてね」
終幕
感無量
元旦からアップして予想外にたくさん方々が読んでくれました。励みになり、ここまで来れたと思います。
また別の場所、別の作品で合うかもしれません。そんな時もよろしくお願いします。
今はこの作品をカクヨムにでも武者修行にさせたいとは考えております。
最後に稚拙なのは承知。今後の糧とするため、感想、一言をお願いします。




