表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
年下幼馴染は同級生 でも1/3は俺が嫌い  作者: つむら湯
2度目の登校。再会、出会
33/177

週の始まり 昼 その2

頼み事をされてしまった。中身はわからない。魂と引き換えというわけではないと思う。

高梨の表情が固くなる。


「イッコウ。バトミントンはどうするの?続ける?」

「続けるよ」

「そう」


少し綻んだ。安堵したと言った方が良いかな。


「じゃあ」

「でも、大会に出るとかじゃないよ。おいおいわかると思うけど高梨たちの後を追うわけじゃないよ」

「どういう意味かな? 怪我のせい?」

「そうだね。怪我のことは訳あって詳しくは話せないけど、俺は選手にはなれない。大会になんて出られないよ」

 

自分の体のことは近しい人たちに話したのは、初めてになる。一緒にやってきたパートナーだからこそ話をしている。


「俺はバトミントン馬鹿だから、これしかないし、関わりを切りたくはないんだよ」

リハビリをしていく中で判明したこと。致命的であったから泣いた。悩んださ。でもリハビリスタッフを見ていて、まだバトミントンに関わりができると気づいたんだよ。

「そっかぁ。私らと縁が切れる訳じゃないなら良いか。これからよろしくね。風見くん」


根掘り葉掘り聞いてくるかと身構えたけど、そんなんじゃなかった。


「いい女になりましたね。佐渡先輩が羨ましいし惜しかったよ、高梨先輩」

「ヴァカ」


いうと気持ちを切り替えたかったのか高梨は手を上にあげてグゥーと背を伸ばした。



「そういえば美鳥ちゃんを見たよ。綺麗になってたね。もう'コトリ'じゃあないね」

「俺も驚いてる。どこに出しても恥ずかしくないよ」


高梨の笑顔に変な色が混じった。


「どっかに出すつもりなの?」

「いい男捕まえてくれればなぁが半分、どこにもやるもんかが半分……あっ」

「なんか父親みたいだねー。欲しければ俺を倒してからにしろ、とか?」


 にしゃっと笑うんだ。でも、すぐに表情が厳しくなった。


「そう考えていたんだね」

「さっき呟いたのは本当に考えてました。怪我のせいで夢が叶わない俺よりか、しっかりした他の男のほうがあいつのためになると。でも昨日、あいつとあいつの家族と関わって考えが揺らいでしまった」

「どう?」

「俺がいなくなったあと、俺の残した言葉を俺のために実践してきたことを知ったら、欲しくなりましたよ。一緒にいたい。添い遂げたいってね」

「よっ。男だね。あやふやなら怒るとこだったよ」

「えぇー」

「あの子の気持ちを考えたことあるのかぁー ってね。まあ杞憂だったね、早くものにしてきな」

「まあ、それはもうちょとかなぁ」

「なんで、そこでダウンするの?」

「俺って意気地なしなんですね」

「ヴァカ」 



「じゃあ、教室戻ります」


俺は立ち上がり階段を降りて行った。降りていくだけなのに肩が重い。


「高梨先輩。俺に寄っ掛からないでほしいのですが?」

「いいじゃないの、減るもんじゃないし」

「周りに見られたら、変に勘繰られます。それこそ佐渡さんに殺される。美鳥にもなんで言って良いかわからなくなりますよ」

「まっ、そっかぁ」


でも、下に着くまで、寄っ掛かかってきたよ。


階段を勢いよく降りて行った。途中、踵が引っかかったり、段を飛ばしたり、膝から崩れたりした。手すりにしがみついて転げ落ちることはなかった。幸運以外何にでもない。教室のドアを開ける。気にしてはなかったけど、こんなに重かったっけ。昼休みも残り少ない時間になったからか、みんな帰ってきている。でもお兄ぃは帰っていない。だけど、此奴はいる。


「なぁに湿気ったぁ面してるんだい、勇んで行ってその体たらく。なぁにやってんだ、このすっとこどっこい」


お兄ぃの机の上のやつが言っている。あんな可愛い名前なんか言ってやるか、べら棒目。


「お兄ぃには、まだ遠いと言われた。でもあの女にはいい女になったと言ってる。この差は何?」

「お前がガキくさいだけじゃねえのか」

「くっ、このおぉ」


 悔しくて此奴の頭を鷲掴み、思いっきり握ってやる。そして捻る。


「イター、イタタタタタッ グアぁ。あっ頭の皮が捲れちゃう。やめれー」


 私だって痛いんだ。


「ねえ、美鳥。風見さん見つかった?」


 お兄ぃの隣に座っている美月さんから声がかかった。怪訝な顔をしている。


「いなかったの。すれ違いかなぁって帰ってきなのになぁ」


 手を後ろに隠して、照れ笑いで誤魔化した。


「まっ、しょうがないね。妹分も大変だねぇ」

「えっ? なんのこと」

「さっき、聞いてみたの。美鳥とどう? って。そしたら美鳥は妹分だって言ってたの」


 私は胸元を手で押さえた。自分の中から暗いものが出てくる気がしたの。なかなか止まってくれない。


バァン


机を平手で叩いた。そうしないと自分が爆ぜそうで。美月は、驚いて手を合わせて、擦って謝ってきた。


「ごめんね。美月を怒った訳じゃないの。ここにいない風見さんに怒って机にあたっちゃった」

 

まだ2人で屋上の入り口で話をしているのだろうかと頭に浮かべて、キッと天井を睨んだ。

 すると、


「なんでついてくるのですか? 高梨…」


 お兄の声がドア越しに聞こえてきた。ドアが開き、お兄ぃが廊下側に顔を向けながら教室に入ってきた。私は小走りで机に逃げた。

「…先輩の教室は上でしょう」


「見送りだよ。お見送り」


 高梨先輩が顔だけ教室ドアから出して話している。


「またねぇ」


ドアの中ほどで手がひらひらしているのが見えた。それもドアの外へと消えていく。入れ違いに次の授業の先生が入ってきた。慌てて、


「起立」


 みんなが立ち上がる。午後の授業が始まった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ