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年下幼馴染は同級生 でも1/3は俺が嫌い  作者: つむら湯
2度目の登校。再会、出会
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琴守宅、訪問 その3

ダイニングを出てウォシュルームにある洗面台に行った。情けない、琴守家の楽しい雰囲気に水を差してしまった。鏡にも眉を下げた情けない顔が映っている。自分では得ることができないからって泣くほど羨ましがることじゃないはず。すると鏡に美鳥が映り込んできた。


「お兄ぃ、大丈夫? いきなりだから、びっくりしたよ」

「ごめん、ごめん。なんでもないから、驚かしてごめんな。さあ、戻ろ」


 しかし美鳥は俺の背中に抱きつき、頭をつけてくる。


「寂しかったら、これからはいつでも会えるし側にいてあげるからね」

「美鳥、それは俺が言うセリフだよな」

「これも’いい女'の条件でしょ。ねえ、お兄ぃ、わたしっていい女になれるかなぁ」

「なってるよ。まだ、道のりは遠いけどね」


 未来、いい女になって俺から巣立って欲しい。2年前に道を断たれた俺じゃない誰かと。と、考えていたんだけれどなぁ。どうもあやしい。俺が美鳥を追っかけそうだ。

 俺は振り返り、華奢な肩を持って美鳥の顔を覗いてみる。朱色に染まった頬、潤んで涙が溢れそうなアーモンド型の目。なんと綺麗なんだろう。そのうちに彼女は両手を上げてきた。顎から耳を通り頭の後ろまで伸ばした手で俺の頭をかき抱き、自分の胸元まで引き寄せたのだった。後頭部に感じる柔らかく温かい手。耳は両手の腕で挟まれ、ブラウス越しでも感じる彼女の柔らかさ。立ち上がる甘い香り。それら全てが俺の心にある鍵を開けて行く。このまま、この抗いがたい甘美なものに身を委ねたいと願った。


「悲しい時は悲しい。寂しい時は寂しい。恋しい時は恋しいって言って一孝さん。私はいつでも寄り添ってあげる。あげるから」


 美鳥は優しい。優しいな。ありがとう。美鳥を愛しいと感じる。俺は顔を上げ美鳥のヘイゼルの瞳を見る。美鳥も俺の瞳を見てきた、見つめ合っている。そして美鳥は瞼を閉じて顎を少しあげ、微笑みの滲む唇を差し出してきた。


 カタっ。無粋な音がこの世界を現実に戻す。


「ごめんなさい。お邪魔しちゃいましたね。お邪魔虫は退散しますので、どうぞお続けください。パパ、パパもテーブルに戻るよ、ほらほら」


 ウォシュルームのドアの下から此方を覗き見ていた美桜さんは頬を染めながら頭を引っ込めて隠れて聞いているだろう奏也さんの首根っこを持ってダイニングへと戻っていった。


「美鳥」

「何?」


 俺は美鳥の頭を手で抱え込み自分の胸に押し付けた。


「俺の心臓の音が聞こえるかな? 聞こえるのなら、それが今の気持ちだよ」

 いま、心臓は早鐘を打っている。緊張してるのか、期待してるのか。

「…ごめん、よく聞こえないよぉ〜。私も心臓がドクンドクン言ってるから」

「同じか」

「同じね」


 俺たちは見つめ合う。微笑みを交換した。


「俺たちも戻ろう」

「そうね」


 ウォシュルームを出て廊下を歩く。俺の顔は熱い。赤くなってるのもわかる。隣を歩く美鳥の頬も紅く染まっていた。照れ隠しもあるのだが、


「美鳥、鼻血の件は美桜さんに話しただろ。なんて説明した?」

「女の子の内緒って、お母さんも経験あるってなんか納得してくれた」

「何それ?」

「女の子の秘密よ、聞かないで、察して」


 お互い紅い顔のまま、ダイニングへ戻った。



 琴守邸を出る時、玄関に奏也さん、美桜さん、美鳥の3人で見送ってくれた。美鳥の肩には両親の手が置かれている。


「今日はご馳走様でした。美味しかったし楽しく過ごせました。ありがとうございます」

「お兄ぃ、次にやるときも呼ぶから、きてね」


 美鳥は誘ってくれる。


「ほんとに楽しかったわ、此方もありがとう」


 美桜さんも笑っている。


「いつでも来なさい、何なら美鳥もつけるぞ」

「「パパァ」」


 奏也さんはアルコールのせいか、変なことを呟いてしまい、女性陣に怒られている。眩しい、こんな雰囲気は眩しすぎる。


「では、また。美鳥もおやすみ」


 俺は1人マンションに帰って行く。

 お兄ぃが席にいない。なんで、何か失敗した? ママに聞こうかと目を向けると、微かに微笑んでいた。


「追わなきゃダメ」


 顎を微かに振った。ウォッシュルームを指し示し。


「いい女になるんでしょ」


 立ち上がり、お兄ぃの後を追う。

 ウォッシュルームを覗き込むと鏡越しにお兄ぃの顔を見れた。何なの、眉尻が下がり深い憂いが見られるの。こんな寂しそうな顔は初めて見たよ。

私はお兄ぃの広い背中に抱きつく。いい女なら、こんな時どうするの?寄り添って慰めるの。

今、私の中にあるのは、お兄ぃが恋しいじゃない。愛しい、愛しい想いで一杯なんだ。お兄ぃじゃない、1人の男'一孝'が愛しいんだ。この思いを伝えたくて一孝さんの頭を抱え込んだ。胸に膨らむ愛しい思いが伝われと私のおっぱいの間に顔を押し付けてやった。


「悲しい時は悲しい。寂しい時は寂しい。恋しい時は恋しいって言って一孝さん。私はいつでも寄り添ってあげる。あげるから」


 少しは伝わったのかな、一孝さんが顔を上げて私を見ている。愛しい想いがもっともっと伝われと直接に流し込んでやれと唇を差し出した。


カタっ。無粋な音がこの世界を現実に戻す。


「ごめんなさい。お邪魔しちゃいましたね。お邪魔虫は退散しますので、どうぞお続けください。パパ、パパもテーブルに戻るよ、ほらほら」


 ママのヴァカァ!

 泣きたくなってきたけど、お兄ぃが私を抱きしめてくれた。お兄ぃの胸の中、心臓の音が聞こえる。鼓動が早い。聞いてる私の鼓動も早くなった。頬も顔も体全体が熱くなったよ。


「俺の心臓の音が聞こえるかな? 聞こえるのなら、それが今の気持ちだよ」

「私も心臓がドクンドクン言ってるから」

「同じか」

「同じね」


 私たちはお互いを意識したんだ、同じになったんだね。顔を上げてお兄ぃの目を見る。私を愛しむ目で見返してくれた。安心したのか心臓の鼓動も落ち着いてきた。お兄いの鼓動も聞こえない。

 お兄ぃを立ち直せたんだね。ヤッタァ。

 そのうちにお兄ぃが頬をポリポリ掻きながら聞いてきた。


「美鳥、鼻血の件は美桜さんに話しただろ。なんて説明した?」

「女の子の内緒って、お母さんも経験あるってなんか納得してくれた」

「何それ?」

「女の子の秘密よ、聞かないで、察して」


 でも、お兄ぃのヴァカ、恥ずかしくも情けない記憶を掘り起こしてくれた。

 ほんとにもう、ヴァカァ。


 パーティも終わり、お兄ぃを玄関から送るとママから一言。


「連絡先は?」

「あ」


 自分がこれほど情けないとは、

 ママは呆れた顔で、家の電話に着信履歴が残っているからと教えてくれた。ママ、後光が差してる。愛してる。


 自分のスマホでかけてみる。画面をタップするのにも緊張て指先がが震えて押せなかった。なんとかブッシュ。


「もしもし?」

「おやすみなさい」


 直ぐに切ってしまった。やってもぅた。夜も遅いから、画面に指が乗っていたから、訳はいくらでも脳裏を走り回る。いや、だからね、恥ずかしいの。

 直ぐに着信音。リズミカルすぎてての中でアワアワしました。


「もしもし?」

「美鳥か? やっぱり美鳥かあ。いきなりかけてきて、いきなり切るなよなあ」

「ごめん、なんか慌てちゃって」

「俺、番号教えてなかったよね」

「ママに聞いわ」

「そっか、美鳥の家に電話したっけ」

「ねぇお兄ぃ、これからも電話するけど良いの?」

「………いいよ。あまり遅い時間は避けようね」

  その間はなぁに?

「うん、わかったね……。お兄ぃ、おやすみなさい」

「おやすみ、美鳥」


 短い、淡白、ぶっきらぼう。

 スマホでの初めての会話。あまりにもなんで、頭を抱える。


 でも私の胸の中は幸せ一杯になりました。


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