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年下幼馴染は同級生 でも1/3は俺が嫌い  作者: つむら湯
2度目の登校。再会、出会
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自分の声を知っている人は多くない。

簡易キッチンで電気ケトルがポコポコなっている。気を失った美鳥が起きた時のためにお湯を沸かしている。


「お兄ぃ、美鳥ちゃんのほっぺぷにぷにぃ」


 居室にあるベッドに居るコトリが美鳥の頬を突いているのだろう。


「美鳥で遊ばない。起きた時にバレたら大変だよ」

「だって、ぷにぷにぃのすーべすべなんだよぉ。いいなあ」

「コトリだってほっぺぷにぷにだよ」

「ありがとうね」


 自分が小さかった時と同じ姿を見るという体験をして美鳥は気を失った。今はベッドに寝かせている。着ているウールコートを脱がすのは、いろいろと触ってしまいそうでできなかった。コートの下は黒色コットンのプルオーバーに紺緑のタータンチェックのスカート、濃い色のタイツもそう。皮のショートブーツを脱がすぐらいしか出来なかった。コートと同色のベレー帽は枕元に置いてある。

 ベッドの縁に腹ばいになってコトリは美鳥の目を閉じた横顔を鑑賞している。お触りもしていたりする。

 電気ケトルがゴーと湯が沸騰することを告げる音を出してきた。


「髪の毛もサラサラだし、長いよねぇ。お兄ぃも長い髪は好きですか?」


 コトリはこちらを見て聞いてきた。


「ロングヘアは良いよね。好きだよ。男の浪漫だよ」

「じゃあコトリも伸ばすかなぁ」


 そういえば美鳥がおかっぱ頭を止めて伸ばし始めたのはコトリぐらいの背格好からだった。


「あれぇ、目を開けてる。お兄ぃ、美鳥ちゃん起きたよ」

「そうか!」


 簡易キッチンを離れ、美鳥の様子を見に行く。


「美鳥、起きたのか?、気分どう?あたま、はっきりしてるか」

「あなたたちの話は気にさわるし、やかんの音は煩いし寝てられない」

「ごめん、ごめん。悪かったよ」


 いきなりプンスカしているところを見ると大丈夫そうだな。


「ねぇお兄ぃ、この娘、誰?」 

「うわぁ、美鳥お姉ちゃんの目、綺麗だね。黄色かなぁ、そうだ金色に見えるよ」


 美鳥が視線でコトリを見た時に丁度、お互い見つめ合う形になったようだ。

 上手く話を変えてくれた。


「あんた、いえ、貴方の目の色も同じでしょ、多分、貴方は私なんだから」

「そうだよ、コトリは美鳥だもんねぇ」


 コトリは嬉しそうに答えている。


「わかってたのか?」

「インターフォン越しに聞いた時から、そうじゃないかと。学校で人形も見てるからね、察したよ。さすがに目の当たりにした時は意識が飛んだけどね」


 美鳥は上体を起こし座り直すと顔を近づけていたコトリの顔を両手で挟み自分の顔に近づけて見始めた。


「鏡では、いつも見てたけど3Dで見るとちがうねぇ。こんな感じなんだ」


 美鳥はコトリの顔をを上下左右に動かして観察。


「美鳥お姉ちゃん恥ずかしいよぉ。やめよ、ねぇやめよ」


 コトリは頬を染めつつ抗議し始める。


「ねえ、お兄ぃ」


 どんな質問が来るのか、生唾を飲む。


「私の……私の声って、こんな感じなのかな。自分で聞くとキンキンして頭に突き刺さってくる感じなのだけれど、意外と低いというか、ソフトというか」

「美鳥の声は優しいよ。耳の中にフワッって入ってくるんだよな。心地よいというか俺は好みだな」


 ポッと頬を朱に染める美鳥。コトリは両手で耳を押さえてクネクネしてる。


「自分の声って頭の骨の中を通って耳に入るって聞いてる。声が高く聞こえるんだって。俺は自分の声か実際にどう聞こえているかはわからない」

「お兄ぃが知らない声を私は知っているのね。お兄ぃの声って私の鼓膜を心地よく震わすのよ。そう、好みよ」


 俺も頬が熱くなった。


 

 しばらく無言の時間が過ぎる。するとカチンと音がした。電気ケトルのお湯ができた後、中の空気が冷えて容器が音を出すんだそうた。


「そういえば、美鳥。今日は何のようなんだ?」

「あっ」


 小さな呟きが聞こえた。


「そうだったわね。ママからメッセージを頼まれたの」


 美鳥はコートの内ポケットを探って、メモらしきものを出してきた。


「これを渡してと、言付けもあるのよ」


 赤い名刺サイズのメモだ。折ってある。開いてみのと銀のマーカーで、

’来なさい'

の4文字。


「明日の夕飯は、こちらで用意するからって。否はなしだって」


 2人でその赤いメモを見る。


「赤い紙なのは何でかな」

「召集令状だって。アカガミって言ってた」

「ふるぅ」

「なんかその時のドラマを見てたみたい」

「そうなんだね」

「私もきて欲しいよ」


 耳まで赤くして恥ずかしそうに美鳥は告げてきた。



「私も混ぜて!2人の世界作らないでよぉ」


 俺と美鳥の間に割り込んで手をバタバタするコトリさんが現れた。

「もう」

「好きだよ」


 その言葉で目が覚めた。耳からはいり鼓膜を甘く震わせてくれた。嬉しさがジワジワと体の中で膨らんでいく。恥ずかしさも出て悪態をついてしまう。でもこの子がそれを霧散させてしまった。'コトリ'は引っ込み思案だった私を周りに知って欲しくて名乗った自分。この子は私なんだね。なんか恥ずかしいなぁ。コトリの声はふんわり優しく聞こえる。お兄ぃも好きだよって、又言ってくれた。その言葉が心を、胸を、体を熱くしてくれる。やめて頬が溶けちゃう。私もお兄ぃの声が大好き。

 少し褒めたら、お兄ぃのテレた顔が見られた。初めて見る表情。心のライブラリーに入れました。小さい幸せね。


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