表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
年下幼馴染は同級生 でも1/3は俺が嫌い  作者: つむら湯
2度目の登校。再会、出会
23/177

ジョギング コース元住処

走るのは苦にならない。1時間ぐらい走ってきた。同じ景色ではつまらないからコースをいくつか考えている。そして住宅街の一角で足を止めた。壁はブラウン、二階建て。一階の窓にはシャッターが降り2階の台形出窓には遮光カーテンもなく天井の柄が見えている。ここは俺が生まれてから中学卒業まで住んでいたところ、俺の元メインステージだね。今は住む人なく無人。暫く眺めていると、


「一孝くん! 君、風見一孝くん?」


 隣の家の玄関に立つ女性から声をかけられた。亜麻色のショートボブ、白いニットにベージュのエプロンスカート。美鳥そっくりな顔立ちをしている。ふたり並べは姉妹と間違われる。美鳥のママです。これでも3児の母。美魔女ですね、右手にファイル、ああ地域の回覧板。


「ちょっと待ってね、あの子呼んでくるから…これどうしましょ」


 玄関と手の中にある回覧板に視線を彷徨わせ、困ったポーズ。仕方なく右手を前に出して、


「美桜さん、俺がお隣に回覧板、出しに行きますよ、ポストで良いですか?」

「じゃあ、お願いね」


 琴守家の玄関まで行ってファイルを受け取る。美桜さんは、扉を開けて中に入って行く。


「美鳥、美鳥、お客様」


 琴守家のお隣は記憶によれば飯塚さん、ポストの表札に書いてある。


「えー!聞いてないよぅ」


 美鳥の悲鳴に似た声が上がった。外まで聞こえるとは寝こけてたな。

 ポストにファイルを入れ琴守家に戻るとちょうど良いタイミングで玄関が開き、美鳥が顔を出した。PIYO文字いっぱいの黄色のパジャマにホワイトのカーディガンを羽織っている。起き抜けなのが丸わかりに亜麻色の長い髪がよれ数本跳ねている。前髪は昨晩からのヘアカーラーが決まったのかふんわりとしている。そんな前髪の下、不機嫌さ丸出しの半眼ジト目でこちらを睨みつけてきている。


「こんな朝早くからとは’嫌がらせ’?それとも’ストーキンク゛’でしょうか?」

「ごめん、ごめん。昔の家が気になって見ていたのを美桜さんに見つかってね」

 ジト目か深くなった。

「それだけですか?」

 俺は頬を掻きそっぽを向いて、

「琴守が大丈夫か、気になってな」


 美鳥はうなづき、頬をかすかに染めた。


「一孝くん!琴守なんて他人行儀な呼び方はやめて、名前で呼んでやって」

 美鳥の後ろから美桜さんの抗議の声が上がった。  

「美鳥さん」

「…さん?」


 美桜さんの眦が上がるのがわかった。


「美鳥、大丈夫そうでよかったよ。じゃあ」  


 俺は手を上げて、すぐ踵を返した。


「ちょっと」


 美鳥が近づき、服の端を掴む。


「ランニングの後で汗臭いだろ。気にならないか」

「別に嫌ではない。不快ではないよ。昨日だって」

 美鳥の顔が朱に染まった。


「ん」


 それを見て思わず手を頭に当て、なでなでしてしまった。

 美鳥の唇が綻ぶ。


「美鳥の笑顔、素敵だよ。笑っていた方が良いね」

 美鳥のジト目が見開き、俺を見てくる。髪の下に見える耳まで赤くなっている。


 美桜さんが美鳥の肩を後ろから支えてニッコリ、笑顔も似てるなぁ。


「どう、中でお茶でも」


 俺は一歩下がり、


「すいません。今日は病院で検査があるんです。またの時にさせていただきます」


 そのまま琴守家から出ていった。

 一度、振り返ると美鳥は口を手で覆い、飛び跳ねていた。

 肩を揺さぶられ体を揺さぶられて目は覚めている。昨日はちょっと疲れたから寝たふりをしていた。


「美鳥驚け!一孝くんが来てるのよ、風見一孝くん。覚えている」


 覚えてるも何も昨日たいへん関わったんだけど、

 あれっ、えーっ、来てる? 聞いてない!私は目を開けた。見えたのは私のママ、髪はショートだけど、そっくりなんだもん。この前は街中で姉妹ですかってナンパされちゃった。うへへ。体を捻り、ベッドへ手をついて起き上がった。腰を捻ってベッドから足を下ろしスリッパに足を通す。立ち上がって部屋を出ようした。


「美鳥、ひよこナイトキャップ脱ごうね」


 直ぐにシルク地ナイトキャップを外した。体を回し外に出ようとすると、


「私はコメディアンを産んだつもりないよ、一孝くんにも合わせたくない」

「今度はなに?」

「ヘアカーラー」

「あー」


 私は両手で額を押さえる。早く会いたいのに。約束していれば用意できたのに。今日来るなんて、


「えー!聞いてないよぅ」


 頭の中を占めていたものを叫んでしまった。

 一階に降りて玄関を開ける。まだ夢かもという懸念は捨ててない。でもお兄いはいてくれた。緊張して嫌味と塩対応しかできない。でもママが助け舟を出してくれる。'美鳥'と名前で呼んでくれた。彼の汗の匂いが、これは現実だと証明してくれる。ダメ、昨日のお姫様抱っこの記憶も呼び覚まされる。ああっ頭を撫でてくれた。まだ幼い時の記憶と同じ。


「美鳥の笑顔、素敵だよ。笑っていた方が良いね」


嬉しい、嬉しい、嬉しい、嬉しい、嬉しい。彼への想いが膨らむ。唇開き、言葉にしたら思いは外に出て霧散する。両手で口は押さえた。でも想いが体の中で膨らむ、暴れ回る。歓喜に体が震える。飛び跳ねてしまった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ