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年下幼馴染は同級生 でも1/3は俺が嫌い  作者: つむら湯
2度目の登校。再会、出会
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鏡よ鏡

コットンから


「鏡が欲しい。自分の顔を見たい」

「前にできないって言ってなかったか」

「言った。でも、やってみないとわからないじゃないか」


 確かにそうだ。帰りに薬屋スーパーに寄ってみる。そういえば鏡はどこで売っている?小物ショップ、化粧品店、デパート、100均ショップ、どこだろ。この大規模テンポにはコスメコーナーがある。フロアの2割を占めている。流石に男の俺では入れなかった。通路がわりにしてもキョロキョロしていたら変質者に間違われる。他のコーナーを見ても見当たらない。マンションまでに100均専門店があったのを思い出し寄ってみた。なければ後日に百貨店に行かなければいけない。なんとかハンドミラーを見つけた。10センチぐらいの鏡にプラスチックの取手がついているものだった。

 マンションに帰りドアを開けるとコトリが怯えている。恐怖を感じたようだ。


「怖かったよぅ」


 頭を撫ででいると落ち着いてきた。涙の残る目で、


「おかえり」


 と言ってくれた。健気だねぇ。泣く子には甘いものが良いかもと薬局スーパーで買ってきたマスカットゼリ-(キューブ)をあげる。3個だけ。


「これも美味しい、もっともっと」


 とリクエストしてきた。表情に恐怖は見られない。何処かへ行ったようだ。


「少しお手伝いしてくれたらあげるよ」

「するする。なんだってしちゃう」


 危ない返事ではあるのだがスルーしておく。居室に移って、


「これ、持てるかな?」


 買ってきたハンドミラーを渡してみた。

 コトリは手に取ろうとするのだが指が通り抜けてしまう。


「あれ? あれ?」


 次にコトリの顔の横にハンドミラーを移してコトリを見られるようにしてみた。コトリは鏡を見ている。 


「私、映ってないよ。あれ?」

「だめかぁ、コトリそのままにしてる」


 俺はしばらくハンドミラーを手に持っている。すると、


「あっ、映ってる」


 コトリは驚きから笑顔になっていった。


「コトリは、こんな顔なんだねぇ。ねえきれい?」


 しばらく、一緒に生活していて気づいたのだが、コトリは物に触れない。手で持つことができないのだが俺が触っていると触れる。少しの時間、俺が触っていると離してもコトリは触れる。しばらくすると通り抜けてしまう。

 お菓子は最初の事故以降、あげる分だけ俺が持って時間が経ってから渡している。 


「コトリは可愛いよ。これ持てるかな」


 ハンドミラーを渡すと両手で大事そうに掲げている。そうして自分の顔を角度変えながら見ている。


「えへへ」


 自分の顔が見られて嬉しいのかニコニコとしてる。

 もうひとつ驚きなのだが、コトリは毎日、着ているものがちがう。今日は萌葱色のトレーナーにデニム地のハーフスカート。遠い記憶にある姿。寝る時はパジャマだよ。どう決めてるのか聞くと


「気分なんだよなぁ」


 どこかで聞いたセリフだね。

 

 翌日の昼休み、ポークカレーを掻き込んで早めに教室に戻る。コットンが腕を組んで待っている。


「早速、やってみますか」


 コットンに鞄から出したハンドミラーを渡す。手をすり抜けて落ちてしまった。次に俺がハンドミラーを上下から挟むようにして持つ。そのまま持っていた。時間が経ってから、もう一度持たせてみろとコットンは持つことができた。


「我は、こんな顔をしてきるのだね。お目々パッチリの可愛い顔じゃないかい」

鏡の角度を変えて、いろんな角度から見ている。昨日のコトリと同じ仕草。

「コットン、プラーナ出せるか?」

「我も、それを考えたのだよ」


 コットンは早速に手皿を作り口から絞り出したゲル状のプラーナを貯めて行く。机の上に置いたハンドミラーの鏡の部分へプラーナを流し込んでみる。前と同じならプラーナは白濁し固まるのだろが、鏡は透けたまま天井を写している。周りのフレームやグリップにも盛ってみた。そこは逆に透明になって下の色もそのまま。昼休みも終わる寸前まで様子を見てみた。


「では持ってみる」


 コットンをは両手でハンドミラーのグリップを持ち上げてみる。


「おぉ持ち上がった。持てるぞ」


 そのまま左右や上下に振ってみた。


「大丈夫そうだの」


 時間が経ってもコットンの手をすり抜けて落ちる気配はなかった。俺は左右にいる長谷川さんや佐々木さんの様子を見てみる。何もない机の上でハンドミラーだけが上下左右に動き回れば、2人とも気づくはず。驚くはず。今のところ反応なし。

 

「これでハンドミラーはコットンの世界のものになったんだね」

「そうだね、私んだ」


 コットンは鏡に自分の顔を写し、悦に入っている。


「ありがとう。楽しみなことが増えたよ」

「まっ、よろしくやってくれ」

「次は化粧品だな、化粧水に乳液、ファンデーションだ、リップにチークだ。ビューラーも欲しいし夢は尽きぬぞ」


 俺は肩をすくめるだけ。

 だめっ。寝られない。お兄ぃの声が、お兄ぃの感触が、熱が体に残ってる。体が疼いている。どうしよう。布団の中で寝返りを何度もうった。


 次の日。

 お兄ぃと話ができない。登校したら昨日の話で囲まれた。休み時間まで同じに。4限目が終わり振り向いたらお兄ぃがいない。食堂かなと歩美といったのだけどすれ違ったようで見当たらない。


「このレディースメニュー美味しいね、量も丁度良いし」

「こっちのガールズメニューも侮り難いよ、乙女の壺を心得てる」


 ここの食堂はカフェテリアになっている。自由に選べる分、迷わないようにお勧めメニューがある。それを参考にして取り皿へ。食事は楽めた。


「琴守さん!相席良いかな?」


 昨日おしゃべりした久米くん。仲良くなれたんだよ。隣にもう1人いた。


「こいつ同じ吹奏部の黒谷。昨日の話をしたら是非って言うから連れてきたんだ。だめかな?」


 昨日の怖い思いしたから、少し気が引けたけど、


「いいよ、どうぞどうぞ」


 と誘った。2人は笑顔で。テーブルについた。


「大丈夫?美鳥」

「うん。いつまでも引っ込んでもしょうがないよ。勇気勇気」


 歩美は心配してくれた。


「俺はフルートで、こいつオーボエなんだ」

「フルートはわかるけどオーボエってどんなのだっけ?ごめんね、よくわからなくって」

「いいよ、オーケストラのTV見た時ある?」

「年末の第九は家族といっしょに見たよ」

「曲が始まる前に音合わせで最初に音出しするのがオーボエ。他の楽器もその音に合わせるんだ」

「それなら分かるよ。口が細いのだね」

「あははっ。リードっていうだけどね」

「へぇー、そうなんだ。私、フルートの音は好きだよ」

「そう! 今度、生で聞かせてあげるよ」

「ありがとう」


 楽しくは話が続けていける。笑顔でいれると思う。気持ちよく食堂から出られたと思う。

 でも、

 お兄ぃの声には足らない。お兄ぃの体温には敵わない。あれを知ってしまったから、物足りなくなってしまう。久米くん、黒谷くんごめん。


 教室に戻るとおにぃがいた。机に座ってあいつと話をしている。歩美には見えないあいつ、お兄ぃと私しか見えないあいつ。なんかズルい。悔しい。

 




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