う〜ん
幼馴染24−2
「うん、俺はこのクリームパスタにするよ」
ちなみに美鳥はレディースセットを頼むそうだ。
五穀米にキッシュ、カボチャのサラダに大豆のアラビアータ。野菜がふんだんに使われていてカツまでソイミート、つまり大豆だね。ものすごくヘルシー指向のランチなんだ。
本物の肉がなくて、夜まで持つのかと心配してしまう。まあ、美鳥も夏の初め頃、ダイエットに躍起になっていたからね。
「別に気にするほどじゃなかったぞ」
「乙女の気持ちがわからない、お兄ぃなんて知りません」
水着を着ている美鳥を見たけど、気にするような具合じゃなかったんだけどなあ。言ったら怒られる始末。女の子の執念、恐るべし。
キッチンスペース前のディスプレイを見ながら二人で何を食べるかメニューを見ながら話していると、
「あぁ、美鳥。それに風見さんも⁉︎」
「美鳥さん。お隣に一孝さんもいらしゃるのですね」
背中の方から声をかけられた。振り返ると見知った女の子が二人。
おっと彼女たちは美鳥の友達だ。
髪を頭の左右で止めている凛々しい感じの柊さんと、髪を左右に下ろして、ゆったりと編んでいるおっとりした感じの櫟木さん。いいところで声をかけてくれた。
助かったと言うのが正直な気持ち。食堂まで、美鳥に腕を抱えられてきたものだから、周りからの視線が痛かった。殺気に近いものまであったような気がするよ。
頼むから、腕を離すようにお願いはしたんだけど、か細い声で、
「だめ……ですか?」
そして、うるっとした目で見つめられてしまった。
かっ、可愛いじゃないか。カアって頬が熱くなって、美鳥の顔を見続けことができなくったよ。
間近で、こんな顔みせられたら、断るに断れない。なし崩し的に食堂まで引き込まれてしまったよ。
違う意味で美鳥のスマイルパンチ以上の破壊力を持ってるんじやないか。それでも目蹴ずに願いして、腕は離してもらったんだけど、結局は手を引っ張られて食堂までグイグイと引っ張られたよ。
なんだろう。美鳥から焦りのようなものが感じられる。そんなに急がなくたって、これから一緒に居られるのに、
すると二人はニコニコしながら俺たちに近づいてきた。
「今日は二人でなんだ。そういえば、初めてなんじゃない。揃ってくるななんて」
「最近、お一人とか、他の方と来てましたよね」
「う、うん」
おう、早速二人に詰め寄られて美鳥も言葉に詰まってるよ。
「良かったじゃない。やっと念願叶ったんだね。」
「うん」
「そういえば、いつも、ご一緒していた川合さん。彼氏ができたそうですね」
それでかぁ、最近、昼休みに入ると一人ポツンとして居たの。川合さんに遠慮してたんだ。美鳥らしいといえば美鳥らしい。優しいな。
それで、俺がみんなの前で打ち明けたものだから、遠慮がなくなったって訳か。
「もう、秋だけど美鳥の周りは春真っ盛りだね。そうか、実りの秋もくるものね。あぁ〜あ、私も美鳥みたいになって素敵な彼氏が欲しいよ」
「私は、風見さんの二号として、正妻の美鳥さんを立ててですね……」
「アンタ、そんなこと思ってたの」
「正妻って、カンナが二号ってどう言うこと。私は認めません。お兄ぃの彼女は私だけなんです」
「いえいえ、男たるもの、浮気も甲斐性のウチと申しまするに、是非、私も囲ってほしいと………」
「カンナァ〜」
「ウフフ」
あ〜ぁ、美鳥の機嫌が悪くなって行く。鏑木さんも、おふざけが過ぎるよ。
でも、これが美鳥の言う、おじゃま虫なのか。それにしては彼女らはニコニコと会話を楽しんでいるだけに見える。美鳥を見る目が優しく見えるよ。
「ですから、正妻たる美鳥さんの見えないところで、ウフフ。あと腐れないようにいたしますゆえ」
でも、そろそろ止めたほうがいいかな。美鳥の肩がが微かにだけど震え出してる。怒り出すまでになんとかしとかないとな。
「鏑木さん、そこまで。早く食べに行こうよ。美鳥にいい場所なくなるって急かされちゃってて」
「はぁ〜い。正妻の逆鱗に触れるとは二号の名折れ。ここは引き下がるといたしましょう」
「鏑木さん」
「ウフフ」
俺まで手玉に取られそうな感じだよ。
「なんか、いつもと感じ違わくないですか?」
「わかります? 最近、こんな感じの配信を読んでしまって感化されたみたいで、ウフフ」
もう、こんなとこで雰囲気出さなくてもいいのに。美鳥、大丈夫だよ。鏑木さん本気で言ってるみたいじゃないからね。
「ウフフ」
「カンナって、あなたねぇ」
だよね。鏑木さん。
ここは、俺が美鳥を抑えるしかないね。
「あっ」
俺は美鳥の肩を、そっと抱いてあげた。驚いて見上げてくる美鳥の金色の見まごうヘイゼルの瞳を見つめ返して、
「大丈夫だよ。鏑木さん、遊んでいるだけだから」
「でもぅ、でもぅ」
「それよりも、早くランチ頼みに行こう。いい加減!お腹空いてきたよ」
「でっ、ですね。行かなきゃ」
美鳥は気を取り戻したようで目をパチクリさせている。
「お二人さんもキッチンスペースに行きませんか? いいテーブル取れなくなりますよ」
「「はぁ〜い」」
二人は返事をすると、直様、振り返り、食堂の中へと入って行く。
「じゃあ、お兄い。私たちも行きませんか」
「そうだね。でも、その前に………」
俺は、
先に食堂へ入った二人の背中を確認。そして右良し、左良しと確認、こっちを見ている人たちがいないのを確認すると、
「美鳥………」
「はい?」
美鳥の前に体向きを変える。少ししゃがんて、高さを合わせると
♡
額にフレンチおキッス。
「安心しな。俺の彼女は、お前しかいないんだから。周りなんて気にすることなんかないよ」
他には聞き取れない声の大きさだけど伝えてやった。
「………⁈」
美鳥は、慌ててキスされた額を手で隠す。目もこれでもかってひらかれ、ミルミルと頬が染まり、顔が赤味を増す。
鳩が豆鉄砲くらった顔って、こう言うものかな。美鳥が目を白黒させている。
「おっ、おにっ、お兄ぃ⁉︎ 一孝さん⁉︎」
「何か、心配することでもあったのか? 今ので少しは気が済んだんじゃないか」
美鳥は赤い顔のまま、コクコクと顎を引いて返事をしてくれた。
「じゃあ、行こうか。櫟さんや鏑木さん、待ってるよ」
ハハハって笑いながら踵を返すと、その二人がニマニマしながら顔を合わせてヒソヒソ話をして俺たちを見ていた。
見られた? いや、俺の背が陰になって見えなかったはず。
「お兄ぃ、いきなりすぎます。してくれるなら、一言、言ってください。それにキスは唇にしてくださいよう」
背中からは美鳥が俺の背中のをポカポカと甘叩きしてくるし、気が動転したのか、美鳥は、あらぬ事を言ってしまっている。
ちょっとやりすぎたかな。失敗、失敗。
美鳥の甘叩きに押されるように食堂へは入りキッチンスペースへ行くと、先に行った二人は既に自分たちのトレイに主菜、副菜を乗せていた。
因みに櫟さんは麦入りご飯にバンバンジー、副菜にほうれん草のひき肉炒め。ごま油の香る、しめじと卵の入った中華スープ。中華風味の取り合わせなんだね。
鏑木さんはと言うと、
炊き込みご飯にサワラの西京焼き、副菜にしらすとオクラとおかか和え。大根おろしのハイったみぞれ汁
まあ、純和風と言えるかな。
美鳥は、日替わりのレディースセット。ソイミートを使ったりしてベジタリアン向けと言えるメニューだ。肉がないんだよ。俺じゃ、絶対、夕方まで持たないよ。
俺はベーコンとほうれん草のクリームパスタにオリーブオイルと塩のシンプルなドレッシングが掛かったコッテージチーズを和えたニンジンサラダをトレイに乗せて、レジで会計を済ませて、テーブル席の方へ向かう。
すると、テーブル席を見渡していた、美鳥が立ち竦む。
「あぁ、やっぱりだぁ。いい所取られてる。折角、お兄ぃと二人でって思ったのに」
すまん、美鳥。食堂に入る前にのんびりとメニューなんてみていたものだから、時間を食いすぎていたんだろう。
「ところで、美鳥。どこなんだ? お前の、お勧めなとこって」
「う〜ん。内緒。でも、残念だなあ」
「いいじゃないか。別に今日だけって訳じゃない。明日だって、いつだって、一緒にたべられるんだぞ」
「そう、そうなんだけどぉ」
俺は、心底残念そうにしている美鳥の頭をポンポンと叩いてあげる。
「みんなで食べるのだって美味しいよ。それが美鳥の親友の櫟さんと柊木さんなんだから、尚更じゃないか」
「でもぉ、でもぉ。私、楽しみにしていたんだよ」
「じゃあ、明日は早めに教室出ようよ。その時まで、お勧めの場所がどんなだか、楽しみにしておくよ」
「お兄ぃ」
「今日は、仲良しの二人と食べる。そんな日なんだよ。そう思えばいいよ」
「そっ、そうですね。明日も一緒できるんでした」
「じゃあ、いいね。二人が待ってるから、行こうよ」
俺は、少しは元気が取り戻せたかなっと思って髪を軽くスリスリと摩ってあげた。
美鳥が気持ち良さそう目を細める。
『美鳥、テーブル確保できたよ。早くきなさいって』
ホールの中程から柊木の声がする。案の定、お呼びが掛ってしまったよ。
俺たちは、人が座り始めた椅子の間を抜けて、二人の待つテーブルへと急いだ。
「遅〜い。ランチ冷めちゃうじゃない。何してたの?」
着くなり、柊木さんから怒りの声が、
「お二人とも、仲良く、おしゃべりしていたみたいですけど、何を話していたんですか」
櫟さんからは何か、勘繰られているような気配が感じがする。
二人のところまで、行くと4人掛けのテーブルに彼女たちは、座っていた。
二人は、並んで座っているから、当然、俺と美鳥は二人に対面して座るしかない。
なんとなく、周りの視線が気になってしょうがない。櫟さんも鏑木さんも俺たちの仲は知ってるから気にならないと言えば、気にならない。
「べっ、別に、な、何でも無いよ」
俺も美鳥も腰掛け、トレイをテーブルに置こうとした時に、
「ふーん。なぁんでもないね。怪しい」
「ところで、小耳に挟んだのですが、朝方、風見さんが教室の皆さんに、美鳥は俺の彼女だと宣言したとか、なんとか」
ガタッ、
俺は、置きかけたトレイを落としてしまう。
「聞いた、聞いた。美鳥に手ぇ出すんじゃ無いぞって、風見さん周りに息込んだって」
ガタッ
美鳥も、テーブルにトレイを落としてしまう。
なんとか、トレイの中のものは、倒れたり飛び散ったりはしなかった。冷や汗が出るよ。
「「本当なんですか?」」
彼女達の声がハモる。噂が流れるのって予想以上に速いね。朝の話が、昼には他の教室にまで伝わってしまう。でも、これで美鳥のちょっかい出すやつもなくなるわけで、悪いことでは無いはずだ。だと思いたい。
「本当だよ。みんなの前で打ち明けた。美鳥と付き合うって覚悟を決めたんだから、別にどうってことないよ。こうすれば、美鳥に言い寄る奴が居なくなるはずだし。居ても、側に俺がいれば守ってやることができるはずだしね」
「お兄ぃ」
頬を染めた美鳥が、俺の顔を見つめてくる。
「ヒュ〜、ヒュ〜。風見さん、やるねぇ。美鳥。あんたの彼って、すごいや。羨ましい」
「風見さん、美鳥のことは宜しく願いしますね。でも、ほんのちょっとでいいから、私のことも………」
「カンナァ」
「カンナ、あんた、そんなことばっかり、言ってると、後ろから美鳥に刺されるぞ」
「まあ、怖い」
「そんなことしません!」
「ですよね。美鳥さん、昔から優しいから。私、美鳥さんの笑顔とか大好きななんでよ」
「「なら、なんで」」
「他にも、困ったちゃん的な表情とかも好物でして………」
「カンナ、あんたって……」
それぞれのランチを乗ったテーブルを囲って、美鳥たちが、やいのやいのやってる。それでも見る限りは楽しそうだ。気心が知れているっていうか。
しかし、鏑木さんの厄介な一面も困ったもんだね。それでも仲良くしてるって言うんだから、問題はないのだろうね。
俺は、3人を他所に我関せずと、美鳥達の声をBGMにして、
一人クリームスパを食べに行くことにした。
パスタに絡むクリームソースがなかなか旨い。
ちょっと濃いめなんで、食べていると、口の中がクドくなるんだけど、ソースの中にあるベーコンの塩味がピリッと来て、なかなか良いんだ。
フォークがすすむ。まったりとした、クリームの中にほうれん草の緑色が浮かび上がって、彩りもいい感じだし。
このほうれん草がパスタと一緒に濃厚な味を俺の胃にまで運んでくれる感じななんだ。
う〜んと一人味を楽しいでいると。
ふと、視線を感じた。
チラッと横を見ると、友達の二人とおしゃべりしていると思っていた美鳥と視線が合ってしまった。俺をじっと見つめてきているんだ。
「どうした。美鳥。俺の顔についてるのか? ソースでも残っているのか」
「ううん、違うんです」
「じゃあ、何?」
美鳥の視線が俺の手元に向かう。
「えっと、ですね。お兄ぃが私たち、そっちのけで食べているじゃありませんか」
「そっか、先に食べててごめんな」
「違うんです。お兄ぃの顔があまりにも満足そうで。そのぅリームパスタって、どれくらい美味しいのかなって、思っちゃいまして」
「なるほどね。うん、美味しいよ。美鳥も食べてみるかい?」
「えっ、いいんですか。じゃあ。お言葉に甘えて」
「どうぞ、召し上がれ」
俺は、極力美鳥に近づくようにパスタ皿を横に動かして、クリームスパを差し出す。
「好きなだけ、食てくれていいからね。あっ、フォークある?」
「そうなんですけど、違うんです」
「どう言うこと?」
「では、こう言うこと……」
アーン
俺の目の前で美鳥が瞼を閉じ餌を待つ雛鳥のように口を開けて,待っている。
なんとも可愛い。
でも………、
ちょっと待て、俺が美鳥の口にパスタを入れろってことか?
他のみんながいる食堂で⁉︎
俺は美鳥の言う通りにすればいいのか。
どうすりゃ、いいんだ。