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年下幼馴染は同級生 でも1/3は俺が嫌い  作者: つむら湯
変わっていくもの。変わらないもの
169/174

ナデナデ

よろしくお願いします

挿絵(By みてみん)

 くすぐったぁい。

 

 お兄ぃが頭を撫ででくれてる。口角が上がってしまう。唇が弧を描くのが判るのね。頬が暖かくなるし、胸が喜びで満たされていく。想いがいっぱいになるの。


「フフッ。なんか、一孝さんに撫でてもらうと気持ちいいですね。フニフニと嬉しくなってしまうんですよ」

「そっ,そうか」


 私の前て照れてる一孝さんが可愛いの。だから、このまま、ずっと幸せに浸らせて欲しいと体を彼に預けていく。


「そうなんですよ。もう少し,このまま………」


 彼の匂いに包まれて,うっとりしてしまう。 でも、


『いい加減にしてくれよ。いちゃつくなら他でやってくれよ』

『そうだ、そうだあ、ここは学校だろ。場所を弁えろよなあ』

『ほどほどにしないと、ネットに流すぞ』


 折角,一孝さんの香りを心ゆくまで楽しんでいるというのに外野がなんか言って、ちゃちゃを入れてくるのよ。失礼しちゃう。

 一孝さんは一孝さんで周りに恐縮してしまって、


「すまん、すまん」


 謝りを入れながら、私を抱えて机まで行こうとするの。みんなには言わせておけばいいのですよ。遠慮まですることないですね。

 ああ、もう少し時間があればいいのに、現実は残酷です。じきに先生が来ちゃう。授業は始まってしまう。

 残念と思いつつ、彼に腰を支えられて歩こうとしたのだけれど、足がうまく進まない。蹈鞴を踏んでしまう。腰から下がフワフワして言うことを聞いてくれないの。


「一孝さん、どうしましょう。なんか腰に力が入りません。上手く歩けませんよう」


 足元がおぼつかなくて、転びそうになる。驚いてギュッて彼を抱きしめてしまう。

 その度に一孝さんが腰を抱え直してくれるのですよ。頼もしいと言うべきでしょうね。 お陰で私の机のところに近づくことができます。彼は机から椅子を引き出し降ろしてくれました。

 そして私の顔を心配そうに覗き込んでくる。その目は私に大丈夫かと暗に聞いてくるのですよ。


「ありがとうございます。足がなんかガクガクしちゃってて」


 一孝さん、安心してね、ちょっと,びっくりしただけなんだから。


 彼の不安を拭おうと、私はニコッて笑顔を返します。

 でも,なんでだろう。一孝さんの頭が一瞬,フラァって振れる。私は安堵して笑いかけてくる彼が見たかったのに。見れたのは苦笑い。なんでえっ。


「美鳥の笑顔は強烈だよ」


 だって。ふふふっ。1人,ホッコリとしていると、


「川合さん。後、頼むね」 


 一孝さんは、私の後ろに座る川合歩美さんへと声をかける。そして自分の席に戻って行くの。もう少し側にいて欲しかったな。絶対,休み時間にこっちから行ってあげるもん。そう言うことしてもいいよね。

 後ろの席の歩美とは入学以来のお友達。いつも私と話をしてくれる。でも、聞いて,聞いて。歩美に彼氏ができたんですよ。

 夏休みの間に彼女からアタックを掛けたんだって。良かったね。歩美。

 でも、困ったことがひとつ。晴れてお付き合いを始めたのはいいのだけど新学期が始まって、歩美が彼氏とランチを食べるっていうから私は1人で食べなければいけないの。2人の仲に割り込むようなことはできるわけないもの。


 でもね、


 ウフフ、


 今日から私は一孝さんとお昼を一緒に食べられるの。ニマニマするのもわかるでしょ。


 すぐ側で私と一孝さんのやり取りを見ていた歩美が,


「フフ、ご馳走様」


 やっぱりわかっちゃうかな。顔をニンマリさせて言ってくるの。


「良かったね。美鳥の念願叶って」

「うん!」

「側にいて気を揉んでいたんだからね。いつになったら,みんなに打ち明けるのかなって」

「そうなんだ」

「しかし、風見くんも凄いわね。教室に入るなり、『みんな聞いてくれ』でしょ」

「私も何事? って思ったの」

「そうしたら『美鳥と正式に付き合うことにしたから、よろしくな』 だよ。勇気あるわよね。みんなの前で言うなんて、そんじょそこいらの男にできることじゃないね」

「うん、私もいきなり過ぎて驚いていたのよ」

「んでもって 『俺の恋人なんだから、ちょっかい出すなよ』 なんて、独占欲丸出し。美鳥、貴女,本当に彼に好かれてるわね。他の男になんかくれてやらんてことよ。羨ましいわ」

「うふ、私も一孝さんが大好き。心配しなくても彼しか選ばないのにね」

「あぁ〜、眩しい。美鳥の笑顔が眩しいよ。私も久米くんに、あんな事言わせてみたいよ」

「頼めば、やってくれるんじゃないの?」

「それはそれで恥ずかしいな」

「そうよね。私も恥ずかしかった。でも誇らしくもあったのは確かね。一孝さんの決意みたいの感じたもの」

「う〜ん。焼けちゃうなあ」

「えへへ」


 歩美と話していたんだけど、ふと思い立って、ちょっと視線をずらしたの。1番後ろの席に座る一孝さんを見たかった。どんな顔をしているか興味があったのね。


「あれ?」


 なんか、びっくりした顔が見える。なんだろ。

「美鳥、どしたの?」

歩美が振り返って私の視線の先を追う。

「どれどれ、美鳥の彼氏はどんな顔してるのかな?」

彼女と一緒に一孝さんを見るのだけれど、何もないような顔をしている。そして、私に気づいたのか、ニコッと笑い返してくれた。彼の頬の赤みが見えるの。ポッと私の頬も熱くなる。頬が赤く染まるのがわかってしまう。

「おやあ」

歩美は一孝さんと私の顔をなん度も見返してるの、

「初々しいねえ。2人とも顔が真っ赤だよ。お熱い、お熱い」

「歩美〜」

私の顔、熱くなっちゃう。

「もう、茶化さないでよぉ〜」

「いやぁ。ごっつぁんです。お腹いっぱい。貴女達見てると飽きないわぁ。私も見習わないとね」

「もう!」

歩美に弄られっぱなしなんで、なんか,言い返そうと思ったんだけど、


ガラッ


教室のドアが開いて先生が入ってきた。


『みんな、席にっ付けえ。ホームルーム始めるぞぉ」

あっ! いけない。先生来ちゃった。

「起立ー、」

お仕事しないと、クラス委員の私は、みんなに号令をかけるの。

「礼、着席」

『おはよう』

朝の挨拶をみんなで声を上げて、1日の授業が始まりました。

でも、気になるの。何か忘れてる。って言うより、いつもの何かがない。うーん。



あっ



コットン!


 そうだ。彼奴をわすれてた。

 いつもは、学校へ登校して授業が始まると教壇に立つ先生を見ているはずなのに、なぜか後ろの席に座る一孝さんを感じるの。

 彼の息遣い。そして真剣に先生がホワイトボードに書いたものをノートに書き写す時の真剣な顔。そして彼の温もり。偶にだけど自分の後ろ姿を見るなんて稀有な体験をすることもあります。

 それも全てあのヘンテコな粘土フィギュアのコットンの所為。何故か、一孝さんの机に居座るお人形みたいなの。どう言う訳か喋るんだよ。驚きです。

 不思議なことに彼奴が見聞きしたことを私も感じることができるんです。彼奴と私が繋がっているんじゃないかって一孝さん言ってました。本当にやめてほしいです。

 彼奴のお陰で痛い思いをしたり、ニキビが頬いっぱいできたりして大変だったんだから。

 更に不思議なことに、彼奴が見えるのは私と一孝さんだけ。周りの皆んなには見えないの。お化けにでも取り憑かれているのかしら。

 目を閉じ、意識を集中してみる。すると、瞼の裏に何か見える。目がくりっとして短い黒髪をした人形が見えた。

 違う! これってフィギュアだ。なんとなく一孝さんとイメージと重なる。なんでこんなものが見えるの。


『三七郎………』


 えっ、一体誰? 呟きと共に恋慕の想いが伝わって来た。

 これってコットンの心が私に伝わっているの。コットンは何を見てるのかな、このフィギュアに恋でもしてるのかな。愛しいって気持ちがヒシヒシと伝わってくる。

 でも、なんだろう。その気持ちって私の一孝さんへ想いと似ている気がする。コットンとこのフィギュアって,どう言った関係なの。

 コットンは、このフィギュアをじっと見つめているようなの。それを感じてしまった私は意識を引き剥がすことができなくなってしまったみたい。

 今,ホームルームでは先生が色々と話しているはずなのに中身がわからない。どうしよう。どうしよう。頭の中だけでアタフタしていると、


『琴守! どうした。ぼうっとして』


 はっ、先生の怒声で意識が私に戻った。


「すっ、すいません」

「寝ぼけてるんじゃないぞ。しっかりしろ! ほら,号令」

「はい、起立ー 」


 ごめんなさい。先生。私は意識を持っていかれましたって言っても信じられないでしょう。でも、本当なんですよぅ。


『美鳥、どうしたんだろ。なんかあったか。朝は機嫌良かったのに』

 

 ああ、コットンを通じて一孝さんの声が聞こえる。彼にまで心配させてしまった。

 コットン! あとできっちりと話を聞くからね。待ってなさいよ。あ〜あ、なんかえらい目に遭ってしまいました。

 ホームルームも終わり、次の授業の先生が入れ替わり入ってくる。折角,朝から気分が良かったのにコットンのせいで台無しです。落ち込んだ気分のまま、1時間目の授業がはじまったんだけど、授業の中身が頭に入っていかないんです。なんか、ホワーっとしてしまって。高揚して喉が渇いて顔や胸が熱いんです。

 浮かぶのは、私を見つめてくる黒髪の粘土フィギュアの円な瞳。見つめられて、胸の鼓動が早くなってドキドキしてしまいます。これってコットンが見てるものなの?

 とうとう、授業の最後までこんな状態が続いてしまったんです。ノートなんて取るなんてできませんでした。後で一孝さんに見せてもらわなきや。


『では、終わります。クラス委員、号令』


 の声に,やっと我に帰りました。


「はっ、はい〜、起立ー」


 慌ててしまって、言うのがやっと、ホワンとして力の抜けた体に鞭打って立ち上がって、


「れっ、礼。ありがとうございました………」


 やっとのこと口に出すことができました。まるでのぼせ上がって体の中から熱で溶かされているみたいなの。声を絞り出したあと、腰が抜けてストンと椅子に座り込んでしまいました。力が抜けてポァッとしているところへ、


「美鳥さん、聞きましてよ。風見さん、すごかったのですね。いきなりの恋人宣言ですよ」

「彼奴にあそこまで言わせるんだ。一体、何をしたら、ああ,なるんの。貴女達どこまで行った。是非とも教えてくれるかなぁ」

「そうですよ。美鳥さん。言ったら楽になりますよ。さあさあ」


 あわわっ、休憩に入った途端、通学路で私たちを目撃した佐々木美月さんと高谷アヤ さんの2人が齧り付きで寄って来るものだからタジタジです。

 彼女たちの圧に押されるように腰が椅子の上を滑り、教室の壁際に背中が押し付けられてしまう。

 折角、登校の時は無理やり話を終わらせたのに、これじゃあ,元の木阿弥です。一孝さん,言ってくれるのは嬉しいのですけれど,もっと場所と時間を考えて欲しかったですよ。


「さあさあって……言われても困るの………」


 私の視線話2人の間を行ったり来たり、喋りもキョドルし、どうしたらいいの。


   パン、パン


 後ろの席に座る,歩美が手を叩いて、


「美月にアヤぁ、そこら辺にしてあげなよ。ちょっと落ち着いてくれるかなぁ。見てみなよ。美鳥が腰引けてる。この子も動揺してるんだ」


 2人の追求を止めてくれた。渡りに船とはこの事ね。ありがとう,歩美。助かりました。今の状態じゃあ、どうにもできませんでしたから。


「あっ、ごめんなさい。私としたことが」

「ごめんな、せかしちまって」


 気を取り直した2人は身を引いてくれた。お陰で私もちょっとだけ落ち着くことかできたので、


「私も突然、聞いたから心の準備が出来てなくて、頭の中が真っ白になったの………腰も抜けたようになってるし、体の火照りだって抜けてくれないの………困っちゃう」


 やっとのことで2人に話していく。

「美鳥さんも突然のことだったんですね。さぞ、驚かれましたのでしょう?」

「うっ、うん」

「本当に良かったよ。側から見てでヤキモキしてたんだからね」

「ええ、そうです。お二人からいつお話しされるか待ってましたの」

「そ、そうだったんだ。もっと早く話せば良かったね」

「全くだよ。まっ、兎に角おめでとう。仲良くやっていきなよ」

「私からもおめでとうと言わせていただます。落ち着かれてからで良いので詳しいお話は、また後ほどで」

「う、うんありがと」


 2人は笑顔を残して自分たちの席に戻って行きました。

 でも、戻りしな、振り返って私を見る視線が生暖かいの。ちょっと気になります。

 その後、周りの子からも、おめでとうって言われました。フフ、ちょっと、こそばゆいな。

 でもって2人のお陰で休憩時間がなくなりました。いけない! 次の授業の準備しなきゃ。








ありがとうございました。

挿絵(By みてみん)

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