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年下幼馴染は同級生 でも1/3は俺が嫌い  作者: つむら湯
変わっていくもの。変わらないもの
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HAPPY DAY

よろしくお願いします


挿絵(By みてみん)

 私の夢がひとつ叶いました。


 お兄ぃと一緒に学校に行けたんです。小学校までは、彼の後ろをなんとかついて行けたのです。

 でも、彼が中学に入ってからは一緒には行けなかった。私は小学生でしたし、お兄ぃは中学のバトミントン部の朝練で早く家を出て行っちゃうし、家の窓から彼の走っていく姿を見送るしかできませんでした。

 私が中学生になっても朝は同じ事。帰りだって、運動の苦手な私は文化系の部活に入って彼とは下校時間が合わなかった。

 校舎に残ってお兄ぃを待とうとしたけど、先生からは早く帰れと嗾けられる始末。友達のミッチやカンナとも時間を合わせることが出来なくて1人でトボトボの帰るしかないの。その内にお兄ぃと話す機会も減って行って、すごく寂しかったのね。

 そうして、一年が経ち彼が高校生になった矢先に大怪我をして私の前からいなくなってしまった。目の前が真っ暗になりました。

 そんな時に思い出したんです。いい女になれって。そうすれば………。

 お兄ぃは生きていると聞いていましたので、絶対に会うんだ。会った時に驚いてもらうんだと一念発起して自分を磨いて行ったの。

 そうこうして2年したら、彼が現れた。ものすごく嬉しかった。だって笑顔を見ることが出来たのよ。声も聞くことが出来たの。美鳥と呼んでくれた。そしてギュッと抱きしめてくれたし、キスも。これからは一緒にいられると思って、舞い上がってしまったの。

 昔は家が隣同士だから一緒に学校へ行くこともできたのに、今、彼は私の家から離れたところに下宿しているんだって。寂しい気持ちもあったけど、教室に行けば彼と会えると思って自分を奮い立たせて、笑顔になって登校してました。

 でも、今日からは変わります。一孝さんが一緒なんです。朝、迎えにきてくれました。

 おはようって。頑張ってセットした前髪は似合うよって褒めてくれたし、笑顔が可愛いとも言ってくれたんですよ。頭も撫でてくれました。エヘヘ。

 天にも昇る気持ちって、このことなのね。今、彼は私の横にいます。一緒に歩いていてくれます。

 そっ、そっ、そっ、そしてですよ。手を握ることが出来ました。なんか恋の階段を一気に駆け上がって行った感じがします。

 クラスメイトが見ているかもしれないのに。人通りの中を一孝さんと手を繋いで歩く。嬉しくて嬉しくて、頬が熱くなる。胸の奥もあったかい。どうしましょう。私、溶けちゃう。嬉しいが体を巡って腰が躍ってしまいます。

 あまりにも自分の世界に入りすぎて周りが見えなくなました。


「美鳥、浸るのはいいけど、そろそろ行かないと遅刻になるぞ。クラス委員が遅れていいのか?」


 すると、お兄ぃに指摘されてしまいました。だって嬉しいんですもの。


「あっ、いけないですね。お兄ぃ」


 でも、そうですね。舞い上がり過ぎていました。いつまでも浸っている訳にはいきませんものね。


「周りの人が見てるぞ。怪しい人だって話されてるかもよ」


 そうでした。ここは学校へ行く途中なんです。私たちを本当に知っている人が見ていたら、どんな噂が立つかわかりません。

 どうしましょう。私の中の嬉しいって言う気持ちが、瞬く間に恥ずかしいっていう羞恥に変わっていく。

 ポアポアとしていた顔を見られたのかしら。そんな顔はお兄ぃだけに見せなきゃダメなのにぃ。

 でもね、一孝さんも一孝さんなんですよ。


「もう、もっと早く教えてくださいよぉ。恥ずかしくって、恥ずかしくって外を歩けなくなってしまいます」


 そんな、小さな憤りの矛先は貴方に向けてあげます。

 えい、どうだ! 美鳥の乱れ打ちですよ。

 私が、どれだけ恥ずかしい思いをしているか分かってくださいね。でも、なんですか? そんな微笑ましく 見返してきて。何も効いていないって顔をして。

 そんなに私って力ないのかな。こんなとをやっている私が馬鹿らしくなってきました。

恥ずかしいったらありゃしない。


「早く行きましょ。お兄ぃの所為ですよ。嬉しかったり、恥ずかしかったりで顔の火照りが冷めません」


 いつまでもこんな事やっていないで、この場所からは離れないといけないです。私はお兄ぃの手をギュッと握りしめて足早に歩いて行きます。

 でもお兄ぃの手って大きいな。握るのが大変。直ぐに離れてしまいそう。運動をしているせいなのかな。ちょっとゴツゴツとして硬いけど、あったかいな。


ふふっ、


 今まで、こんなことあったかしら。私の手を引っ張るのはお兄ぃだったと思うの。ウジウジして動き出さない私を、いつもお兄ぃが引っ張ってくれてたの。

 暫くお兄ぃを引っ張ったまま、早足で歩いていくと、上手な具合に人通りが殆ど無くなりました。ここまで来れば、一安心かな


「ここまで来れば、さっきの人たちも居ませんね。ふう、恥ずか死ぬところでした。いくら嬉しいからって、みんなに見られるところで、あんな姿を晒してしまうなんて」


 冷や汗が出てしまいそう、汗など出ていないのに思わず拭う仕草をしてしまいました


「ハハっ、なかなかの見ものだったよ」


 お兄ぃの声に後ろを振り返ると笑っている顔が見える。私、恥ずかしかったのに。

すると、


「スマホで撮って美桜さんに送ってやれば良かったよ」


 何を言い出すかと思ったら、何てことを言い出すのでしょう。ママにバレたら、根掘り葉掘り聞かれて、あらぬことまで穿かされてしまいます。尾鰭がついてどんなことになるやらわかりません。


「やっ、やめてください。帰ったらママに冷やかされて大変です。パパにでも見られたら、ウチで、もう一度やってなんて言われます。そんなの嫌です。絶対しないでくださいね」


 そうなんです。ウチのパパったらママだけに飽き足らず、美華姉や私たちまで巻き込んでビデオを撮ろうとするんですよ。

 小さい頃から、あんな服やこんな服を着せられ、つい最近、ウェイトレスの格好させられたんですよ。恥ずかしくって恥ずかしくって。

 ですから内緒でお願いね。お兄ぃ。


「わかったよ。あの映像は俺の頭の中にしまっておくよ。それなら良いだろ?」わかやす

「本当は、すぐ忘れて欲しいんですけど、しょうがありません。お願いしますね」

「了解」

「くれぐれも他言無用。配信禁止ですよ」

「合点、承知」


 お兄ぃ、どうしてもお願いしますね。

 パパはコマーシャルと称してネットに配信しているみたいだし、知らない誰かに見られてると思うと顔から火が出るんじゃないかって思っちゃいます。

 そうしたら、お兄ぃがポンポンと軽く叩いてくれた。

 大丈夫だよ。安心しなって言うのはわかります。分かりますけどね。いつまでも、そんな事で絆されはしませんからね。


「もう」


 そろそろ行かないと学校に遅れてしまいますよ。さぁ行きましょ。

 私はお兄ぃの手を引っ張って通学路を進んで行く。周りは、再び学校へ向かう人たちが増えてきた。

 良かったな。お兄ぃが私が心配だからって迎えに来てくれただって。

ふふっ、

 私のことをそんなに大事にしてもらっているのですね。普通にしていなければいけないのに、お兄ぃの気持ちが嬉しくて、微笑むのがわかってしまう。

 あれっ? なんで私を心配してくれたんだっけ。居ても立っても居られなかったって、一体何が………

 そうか! あの娘、


「そういえば一孝さん さっきの話って朝比奈さんと事ですよね。私を迎えに来る理由と言ってたのって」


 私は立ち止まって彼に振り向く。じっと彼の目を見つめる。

 どうなんですか? つい、探るような目でお兄ぃを見てしまう。


「そうだよ。なんで分かったんだ? 美鳥」


やっぱりそうなんですね。


「お昼休みに彼女とすれ違ったんです。その時に感謝とか誠意とか会話が聞こえてきて、その後、いきなりお兄ぃのところへ来たじゃないですか」


 私がクラスメートに呼ばれて食堂から出たところであの娘の会話が耳に入ってきたの。



(だぁめよぉ、葉月。こう言うのは誠意なんだから、早く示さないとね)

(だからって、渡されたハンカチを手洗いして家庭科教室でアイロンまでかけてだよ)

(感謝の想いをしっかり込めましたって)

(風見くん、格好よかったんだって)

(うふふ)


 先生に呼ばれて私は職員室へ向かった。でも、その会話が気になってしまって覚えているのね。


「思い返すと、その時の一孝さんとのやり取りが焦っていると言うか切羽詰まってたんですよ。よっぽどのことだったんだと思ったんです。それで朝、一孝さんのストーカーの話を聞いてピンときたんです。あれは朝比奈さんのことじゃないかと」


 どうしてもお兄ぃに会いに行くんだって気持ちが先立っていたから、何かあったんじゃないかと思ったの。


「美鳥。他の人には言わないでおいてくれよ。確かに朝比奈が巻き込まれたんだ。偶々、俺が気付いたから大したことにはならなかったよ」


 やっぱり、朝比奈さんのことだったんですね。彼女とは、あの後、どうなったか気になるところですが、


「でも、美鳥が同じようなことに合うかもしれないって思ったら、居ても立っても居られなくなったんだよ。だから朝、迎えにいったんだ」


 お兄ぃが私のことを心配してくれている。その事だけで私の胸の中は、彼への感謝で一杯になる。


「嬉しいです。そこまで心配してくれるなんて。美鳥は幸せです」

「そう、思ってくれれば、俺も嬉しいよ」 


 そう言って、お兄ぃの相好が崩れた。笑顔を私に向けて、私の頭をポンポンって。心配するなって言ってくれているようなのね。お兄ぃ! 私、嬉しいよぉ。

 お兄ぃの見上げた顔が輝いて見える。いつまでも見ていたいの。

 でも、至福の時っていつまでも続かないのよね。


「美鳥。おはよう」

「美鳥さん。おはようございます」


 と、2人から声を掛けられた。見知った声。今までなら折角、握った手をを離すところなんだけど、もう違う。離してなるものか。

 私はそのまま、声を掛けられた方へ顔を向けると、


「あっ、美月にアヤ。おはよう」


 クラスメートの佐々木美月さんと高谷アヤさんの2人だった。いつも通学路で一緒になって教室まで行ってるの。この前みたいに食堂のランチを一緒に食べに行くぐらい、仲はいいの。

 佐々木さんが、私とお兄ぃが一緒に登校しているのに驚いている。


「おはようって、美鳥。あなた、何、目を輝かせているの。隣にいるの風見くんでしょ」

「それに、美鳥さんの手が風見さんのを握ったまま。これってどう言うことなのでしょう」


 高谷さんには、早速、お兄ぃと手を握り合っているのを目敏く見つけてしまった。

 でも、これは恥ずかしくない事なんだよ。私たちは付き合ってるの。

 さも、お兄ぃといるのが当然と言うように寄り添って立っている私たち2人を目の色を変えて見つめてる。


「美鳥! ちょっと、こっち来なさい」

「詳しいお話を聞かせていただけますか?」


 やはり来たのね。2人は私に近づくと、あろう事か首に手を回されて引っ張られてしまい、お兄ぃと離れ離れにされてしまった。折角、繋いだ手も離されてしまう。

 私たちの仲を邪魔はしないで欲しいのだけれど、遠慮という言葉が彼女たちの好奇心に負けて霧散してしまったみたい。

 そのまま、私は歩道の隅まで引っ張られて耳打ちされた。


「ねえ、美鳥。あれって風見さんでしょ。どうしたのよ。いきなり2人で登校してくるなんて、今まで別々だったでしょ」

「どうって、一孝さん、私をウチまで迎えに来てくれたんだよ」

「一孝さんって名前呼び! 貴方たちって、そういう仲なの?」


 彼女たちは振り返り、お兄ぃを見つめる。直ぐに戻した顔にはニンマリとした笑みが顔に張り付いていた。


「手まで握っちゃって、どういう風の吹き回しなの」

「ぜひ、経緯を教えて頂けます? 2人の馴れ初めは」


 佐々木さんの高谷さんも目の色を変えて私に詰め寄ってきた。心なしか鼻息も荒い。


「どうって、お兄い、じゃない。一孝さんとは付き合ってたの。みんなには黙っていたのだけれど」

「そんな事、普段の貴方をみてれば、バレバレよ。貴女、何かにつけて風見くん見てたし」

「そうですよ。美鳥さん、脚を怪我した時だっておんぶして保健室に行かれたでしょう。皆さんな見られてますし」

「噂じゃ、プールでお姫様抱っこしてたって聞いたわよ」 

「えぇっ」


 そんなところまで見られていたなんて、何処に目があるなんて分かりませんね。

 もしかして、あんな事とか、こんな事とかも見られているのででしょうか。恥ずかしくって顔が熱くなってしまいます。


「で、どこまで行ったの? 手を繋ぐっていう事はキスば当然よね」

「もう、殿方と褥を一緒にされたのではないのですか?」

「うっ」


 2人の余りの剣幕に体を縮こまずせたら、返事をしたと勘違いしたようで、


「「キャー、先を越されたぁ」」


 2人は声を揃えて嬌声をあげる始末。


「さあ、どうだったか。白状しなさい」

「洗いざらい言われた方が楽になりますよ」

「さあ、吐け」

「他のどなたにも申しません。私にだけお言いになって」


 2人の剣幕にタジタジになるしかありませんけど、そんな恥ずかしい事、


「言えるわけないでしょ。もう、止めよう。こんな事してると学校に遅れるよ」


 大きめの声で2人の追及を遮って、私は一孝さんの元へ逃げ帰った。

 振り返ると未だに、2人の顔がニンマリしている。私の頬が更に熱くなっていくの。もう、焦げちゃうよぅ。

 お兄ぃの下に帰ったら帰ったで、


「美鳥、3人で何を話していたんだ。なんかベトつく視線を向けられて居心地が悪かったんだけど」

「思いっきり冷やかされました。2人とも言うことに事欠いて、あんな事やそんな事聞いてくるんだもん。こんな処じゃ答え難いことばかり聞いてきて、恥ずかしいったらありません」


 っていわれるし。そんなにお兄ぃと仲良くしてはいけないのですか? こうなったら、


「一孝さん。もう、学校行きたくありません。2人してサボっちゃいましょう」

「まあまあ、そう言うわけにはいかないよ。兎に角、行かないとね」


 と我儘を言って帰ろうとする私を お兄ぃは学校へ向かわせようと四苦八苦。そうしたら、私の手を握り引っ張ってくれました。


「これなら、いいだろ。俺だって恥ずかしいけど頑張るよ」

「うっうん」


 お兄ぃの気持ちに免じてシブシブですけど付いていくことにしました。

 それでも、顔が熱いのがなかなか冷めてくれない。耳まで熱いの。

 なんとか、引っ張られて校門を抜けて下駄箱で靴を履き替え廊下を進んでいけた。

 でも、お兄ぃが繋いだ手を離さなかったものだから注目されて、周りからの視線が痛いの。

周囲の目を気にしないようにして、お兄ぃの背中だけを見据えて教室に向かいました。

 でも、こんな注目されているのに教室まで行きたくないのに、お兄ぃは私の手を引くの。

 よく見るとお兄ぃの背中になんか決意みたいのが漂って、拒むことが出来なくなりました。

 とうとう、教室のドアまでたどり着いてしまった。嫌だ、何となく入るのは怖いよ。


「本当に入るのですか?」 


 みんな、私たちを冷やかしに来るに決まっています。

今なら、まだ戻れます。ドアを見つめるお兄ぃの横顔を何度も見て催促するのだけれど、お兄ぃは動じません。

 そして、いきなり私の腰に手を回して抱き寄せたんです。


「ハワワワァ。一孝さん?」


 お兄ぃは力を込めてドアをスライドさせて、私と寄り添いながら教室に入ります。


「みんな! 聞いてくれ。美鳥と正式に付き合うことにしたから、よろしくな。俺の恋人なんだから、ちょっかい出すなよ」


中にいる皆んなに高らかに声をあげたんです。


恋人宣言


私の意識はホワイトアウト

ありがとうございました。


挿絵(By みてみん)

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