姉は黙して語らず
よろしくお願いします。
少し酒精が入ってハイになっていたと思う。なかなか来ない美鳥を呼びに行って、あの娘の部屋のドアを開けたんだ。
そうしたら、微かに聞こえる吐息。
しまった! しかし言葉が止まらない。
「美鳥。何してるの? みんな待ってるよ」
薄明かりの中、ベッドのヘッドボードの枕に寄りかかり半身を起こした男に女が寄りかかっていた。
女の方は汗で額に張り付いた前髪の下、とろんと蕩けた眼 媚びる様な眉、惚けた様に唇が開き、子犬が甘える様に鳴いている。それほどの、しどけない肢体を晒している。
男は女の耳や首筋に唇をつけ、多分,先も…
私が呼んだことに気づいたんだろう。2人の体が跳ねた。
「おっお姉ちゃん! なんで」
美鳥は腰まで、かかっていたブランケットを引き上げ、胸元を隠した。
前に言ってたっけ,サイズはDだって。嘘偽りはなかったよ。疑って悪かった。
「きぃ………」
美鳥は恥ずかしくて叫ぼうとした様だけど、今は自分の部屋のベッドの上、一孝の奴と一緒にいることを思い出したんだろう。
両手で口元を押さえて突っ伏した。溢れる叫び声が体に戻っているのだろう。背中が痙攣している。
チラッと見えた耳が赤かったよ。
「美華姉! ちょっと」
一孝のヴァカは腰にかかっていたブランケットを剥いで、ベッドを降り、私のところに来ようとしたんだろう。
でも、自分がすっぽんぽんとだと気づいたんだね。降りて,すぐ回れ右をしてベッドに逆戻り,ブランケットに潜り込む。やはり顔が真っ赤に染まっている。
私は、ごめん と心の中で呟くと、ゆっくりとドアを閉めた。私も顔が熱い。胸もジンジンするし、下っ腹からも疼きが上がってくる。
腰に力が入らない状態で階段を降りて、ひとり、リビングに戻る。
「美華ちゃん、美鳥ちゃん,どうでした?」
私1人で戻ったことを訝しんでママが聞いてきた。
「美鳥の部屋に一孝もいたよ。2人して寝てた。あれだけ寝て、まだ寝られるんだ。びっくりだね」
私は、おどけた様に答えた。単語では嘘はついていない。
「声をかけたから、目を覚まして降りてくるんじゃないかな」
「まあ,まあ。お眠なのね、美鳥ちゃん、一孝くん」
そのうちに美鳥が服をきてリビングにやってきた。オフホワイトのタートルネックプルオーバーに深緑のキャミワンピの組み合わせ。
そして、ダイニングにあるテーブルの椅子に座った。
しばらくするとつ顔を上げて私を睨んでくる。
で,また顔を伏せた。まっ恥ずかしいっていうことはわかるよ。本当にわかる。髪の毛から覗く耳は真っ赤に染まっている。湯気でも出ているんじゃないか。
「美鳥、起きたの?、美鳥ちゃん、美鳥ちゃん?」
すると、美鳥の様子がおかしいことに気づいたママは私も見てくる。私も顔が熱い。真っ赤になっているはずー、それで察したんだろう。
「美華ちゃん…………、デバガメさん⁈」
ごもっともです。その通り。
でも、話せないよ。家族といえど、こんなこと。
黙って俯くことしかできませんて。
ありがとうございました。
これにて3章終幕です。です。