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年下幼馴染は同級生 でも1/3は俺が嫌い  作者: つむら湯
2度目の登校。再会、出会
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どこまで見ているのかな

 美鳥を追いかけた。廊下に出たが美鳥はすでに角を曲がっているのが見えた。意外と足が速いな。仕方なく教室に戻った。


「痛いよぅ」


 教室の机のコットンは項垂れている。回り込んで顔をのぞいてみると、両方の眼から銀糸で吊られた金属球が六個。涙を模しているのかな。それが卓上バランスボールよろしく、カチカチと片方違い違いに跳ねて秒を刻んでいる。


「なあ、コットン。俺は追いかけるべきかな?」

「多分、近くのトイレに逃げ込んだからやめといた方が良いよ」

「わかるのか」

「そりゃ私だからね」

「あいつは人見知りな割に寂しがり屋だったからなあ」


 いつの間にかコットンの頭を撫でていた。寂しいと泣いてた時にこうしてよく慰めたっけ。しばらく続けていた。コットンの表情の硬さが取れ柔らかくなっていった。撫でていた手を下げて頬に移す。すると頬を手に擦りつける仕草をしてくる。


「しかし、この傷治るのかな?」


 頬には指が食い込んだ跡が谷間になって残っている。粘土フィギュアを模したせいか柔らかいのだろう。


「ここまでの溝だと、補修してもらわないといけないね。手伝ってもらえるか」

「手伝うって、どうするんだ。外で粘土を買ってくるのか?」

「いや、こうする」


 こいつは唇を尖らせ、口の中を吸い出すような仕草をしている。そのうちに口の端から白いものが垂れて来た。更に咀嚼するような仕草をして嚥下した。


「おい、ふざけるのも大概にしな」


 思わず頭を叩いてしまった。(美鳥、ごめん)

 コットンは叩かれた頭を手で押さえ、上目遣いで見つめてくる。そして両掌を口の前で水を掬うような仕草をして唇を開いた。歯の奥に唇が見え、その上に白いゲル状のものが載っていた。更に唇を広げて見せびらかしてくる。頭を下に向けてゲル状のものを手にだしてきた。

(美鳥さん、あなたは何をネットで見つけて、どこまで見ていたのでしょう)


「これを傷につけて均せばいいよ。これはプラーナって言うんだよ」

「もっと普通に出せないか。お願いだから」

「何を想像したのかい」


 にしゃと聞いて来た。うねうねと髪を乱してやった。 


「このプラーナを傷にのせていってくれるか」


 コットンの手から指で掬い取り何気に熱を持ち、どろっとした感触に、うえっとしながら頬の傷にのせていく。抉れたところに流しこんでいく。再び掬い取ってのせていく。多めにのせて山盛りにしていった。


「半渇きのところで余分なところを拭き取っていくんだ」 


 指で拭き取ってみるのだが、うねっとして見映えがよくない。定規で拭ってみたが、


「イタイ、イタイ」


 ひっかかって筋ができてしまう。なんか浮腫んできてる。


「コットン、明日まで我慢できるか?何か方法ないか、情報集めてみるよ」

「頼むよ、お陰で大分痛みが減ったよう」

「そっかぁ」


 先ずは大丈夫そうだから帰ることにした。


「そうだ、コットンって名前ありがとう。気に入ったよ」

「なら、よかったよ」


 再びコットンの頭をなでなでして教室を出ていく。


 頭に手を載せられた感じがする。そして撫できてる。優しく撫でてくれている。

 まだ小さい頃を思い出す。目の前には私より大きな男の子。


「ことことは寂しがり屋だね。すぐ泣いちゃうし」

「だって、だって」


 そう言いながら優しく撫でてくれる。泣き止んで、ニコッと笑い返すと、


「ことことの笑ってる顔、好きだよ。いつも笑っていてよね」


 私の大事な記憶。思い出して、少し気分が晴れた。

 個室を出てシンクの鏡で自分の顔を見てみる。マスクを外すと紅いミミズ腫れが弧を描いてる。


「明日、歩美になんて言おう」


 少し頭を抱える。



  あいつの頬を抓って抉ってこうなるから、何となく悟ってしまう。

 違う私はあんな奴より…


  あっ叩かれた。




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