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デコピン

よろしくお願いします

 美鳥をお姫様抱っこした状態で走りビーチを横切っていく。周りは何事かと一瞬注目するものの、すぐに冷めて興味なさそうに視線を外していく。

 ビーチに入り砂浜に沈み込んで走りづらい。足を取られて転びそうになるのも一度や二度ではない。とにかく急がないと、焦りは募る。

 見ると,波のプールに併設されたビーチのサイドの壁側にに救護室のピクトグラムと案内があった。そこへ正に砂煙をあげて駆け込んで行く。

 救護室のドアを開けるのももどかしく、


「すいません。見てもらえますか。俺の連合いが意識なくして」


 部屋の中に押し行っていく。


「もう,来たんだ。早いね。連絡は来ているよ」


 ネイビーのケーシーに黒パンツスタイルのお姉さんがいた。メディカルスタッなんだろう。


「じゃあ,その子は奥のベッドに下ろしてやって」


 俺はデスクの横にいるベッドへ美鳥を下ろして横たえた。

 ベッドの一部が水着の水分を吸い取って変色し出した。水に浸かった足先も同じようだ。

 横たわった美鳥の顔を見たけど強張っていない。安らいでいる。よく見ると胸が微かに、そしてゆっくりと上下している。額についた前髪を俺の指で払ってあげた。


「ハイハーイ。彼氏さん。場所変わって。見させてもらうからね」


 あまりにも軽い言葉。逼迫しているんだから、もっと落ち着いてやってほしいもだね。

 彼女はベッドの横に位置どりして美鳥の顔を見る。そして顔を横に向けて、口を開けて中を覗き、指を奥まで入れてたりする。


「ねぇ、この子転んだりしてない? 頭を打ったりとか?」

「いえ、体の力が抜けて、しゃがみ込んだんです」

「そっ」


 そして手持ちのバックから機材を持ち出して美鳥を調べていく。手に持った小さい機械を耳の辺りに近づけたりした。つぎはベルトを取り出して腕に巻いていってそれについていたチューブの先にある機械のところのゴムを握った。


   シュコシュコシュコ,シュー ピッ バチって、


 手首に指を当てたり、首横の頸動脈あたりを触ったり、閉じている瞼をあけでライトを当てたりしていた。しばらくして、


「君」


 いきなり呼ばれた。


「向こうのスタッフに言われた通りにしなかったの? そこにいてって言われなかった?」


 少し強い口調で聞かれた。


「その場で体を横たえてって言われなかったかな?」

「言われました」


 彼女の視線は鋭い。


「安静にして体を揺らしちゃいけないこともあるって知ってる」

「はい、何となくですが…」


 あまりの剣幕に返事の声も小さくなっていく。彼女は俺の方に向き直り、指をたてて、


「何となくじゃない。若くたって体の中の血管は切れたりするのよ。揺らしたりなんかしたら酷くなるの。取り返しのつかないこともありうるのよ。わかる?」


 そんなに酷いのか?


「はい………。えっ美鳥は?」

「あっ、それは大丈夫。バイタルは落ち着いてるし、反射も正常、吐瀉物もないし」

彼女の顔から緊張感が抜ける。

「じゃあ…」


「そう、寝てるのよ。ただ寝てるだけ」

「寝てるだけ?」

「体のエネルギーを使い切って、寝てるの。小さい子供なんかがよくやるんだわ」

「小さい子供? 美鳥が」


   はぁー


 俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。安堵と疲労、両方だと思うよ。

彼女が俺に近づきながら、


 「でもね、君の行動は彼女を救いたいっていう勇気なんかじゃない。わがままなんだよ。もしかしたら、もっと酷い状態にしてしまうことになったかもしれないんだ。解る?」


 しゃがみ込んで彼女は俺と目の高さを合わせくれた。


「蛮勇は褒められたものではないのよ」


 そして中指を親指にかけた手を、俺の額に寄せて、


  ビン


 デコピン一発。


「痛って」

「そんな行動は私は好きだよ。ハハ」


 とびっきりの笑顔をくれた。そして彼女は立ち上がり、眠っている美鳥に近づくと、


「いい彼氏じゃないの。あんたを抱えて、一階から2階に駆け上がりここまで爆走してくれるんだよ。羨ましいよ。大事にしなきやね」

美鳥の額についた解れ髪を触りながら告げていく。

 そんなところへ、


「風見さん!」

「美鳥ちゃん大丈夫ですか?」


 ミッチさんとカンナちゃんの2人が駆け込んできた。


「風見さん、早すぎ。美鳥抱えて,砂地なんだよ。あっという間に っちゃうんだもんなぁ」

「で、どうなんですか? 美鳥ちゃん」


 俺に詰め寄ってくる2人をまあまあと両手で執り成すんだね。


「実は、美鳥は……」


 2人は揃って唾を飲み込む仕草をする。


「大丈夫よ。寝ているだけなんだから!」


 横からメディカルスタッフのお姉さんにセリフを取られてしまいました。


「俺のセリフ!」

「もったいぶっていうことじゃないでしょ」


 お姉さんと掛け合いをしてしまう。


「「寝てるだけ! 大丈夫なんですね」」


 2人の声がユニゾンで聞こえてきた。


「「よかったあ」」

「そこっ、静かに」


 2人とも笑顔で


「「ごめんなさい」」


 2人とも嬉しくて意味をなしていないセリフを吐いていく。


 まあ、大したことがなくて本当に良かった。俺も美鳥のことは、もっと考えてやらないといけない。今日一日中、美鳥と一緒に楽しめたけど,最後には考えさせられたよ。


 でも、小さい子供と一緒だって


   ププッ


 思い出して吹き出してしまう。美鳥本人の前では、絶対にしちゃいけないな。


 この後のことはミッチさんとカンナちゃんにお願いした。着替えとかは,流石に俺の手に余るからね。2人とも腕を振り上げて気勢を上げている。お手柔らかにお願いしますよ。


ありがとうございました

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