では、今日はここまで
本日の最後の授業が終わった。午後からは教室を移動しての授業だった。他の教室の机だと奴はいない。地縛霊ならぬ机縛霊かな。世話を焼かなくて、ほっとして授業に集中できた。最後の授業は元に戻るわけだが、机に戻った途端にあいつが抱きついて来た。俺の胸に額を押し付けてグリグリと。暫くして顔を離した時は満足そうな顔をしている。
「成分充填MAX、うへへ」
頬を見れば赤みがとれていた。発疹が消えている。つるんとしてプニプニな感じになっていた。午前中の労力とハンカチの犠牲で回復できたようだ。その後は俺の膝に座り込み、俺の胸に寄りかかるようにして静かにしていてくれた。いろいろと動くが器用にどこか一箇所は机に触れている。
「では、今日はここまで。クラス委員」
ツーテンポぐらい遅れて、
「キィリーツゥ、レィ、ヒャクセキィ」
なんともゆるゆるな号令。
「琴守!シャキリしろ」
「すっ、すみません」
先生に向けて美鳥は何度も頭を下げていた。下を見ると、
「お前成分をたっぷり浸れるたよう。うへへへへ」
こいつの顔はだらしなく蕩けていた。
膝元から持ち上げて机の上にうつ伏せで置いた。こいつは四つん這いになって尻をゆっくりと振っている。しょうがないので無視して席を離れて、教室の前へ歩いて行った。
「琴守さん」
美鳥のところまで移動して後ろから声をかけた。
「俺、ゴミ当番だよな。どこに捨てに行くんだ?」
ビクンと肩を大きく揺らして、
「野暮用済ましてから教えるからぁ、少し待っていてもらえるかなぁ」
此方を向かず、まだフニャけた口調で告げて来た。しょうがなく自分の席へもどり教科書やノートを鞄に詰めたりして時間を潰した。
「ゴミは燃えるものと燃えないものに分けて捨てることになっていますから、それぞれの袋をゴミ箱から出して縛る。縛ったものをここに」
教室を出てふた部屋ほど廊下を移動するとスライドドアだけの部屋があった。開けるとゴミ袋の山があった。
「奥が燃えるゴミで、手前が燃えないゴミをおく。外で無闇に燃やせないので業者の方が回収にきます」
「へぇー」
大きなマスクをした美鳥と大きくなったゴミ袋を持った俺。興味津々とした顔をした河合さんと3人でここまで歩いて来た。
「というわけですから、今後はよろしくお願いします。たまにペットボトルや缶を入れる輩がいますので取り出して入り口近くにある袋に入れ直します。では」
事務的で冷たい感じの話し方をして、美鳥は河合さんを連れ立って帰って行った。
俺はひとり教室に戻る。
あの人が自分の席に戻るだろうの時間をあけて振り返り後ろの席の河合さんに話しかけた。
「歩美、お願い、ちょっと付き合って。風見さんにゴミ捨ての説明をするのだけれど一緒にいて欲しいの」
「いいけど。2人きりの密室で何かされると警戒してかね…」
「いや。………私が風見さんにとんでもないことを言っちゃいそうで、やっちゃいそうで」
歩美は私の顔をまじまじと見て、ニシャと笑い、
「その蕩けて潤んだ目をしてちゃねえ」
徐に私のマスクをずらし
「この真っ赤なほっ、ほー!なになに、このツヤツヤでプニプニな頬は!ニキビなんて跡形もないし」
「えっ、そうなん」
朝方酷かったニキビが治ってしまったようだけど。なんで?




