流れるプール
よろしくお願いします。
私が乗っていると一孝さんが身じろぎをした。
「そろそろ、いいか? 満足したか?」
「ふふん、まだ」
こんな事言ってるとザブザブと波をたてながらミッチがやってきた。
「なあに、いちゃついているのよ。波に飲み込まれたと思って助けに来れば、こんなんだもんなあ」
「ありがとう。私は大丈夫。でも暫くは、このままでいさせて、お願い。お兄ぃの成分を充填しないと」
「なあに、ふざけた抜かしてるのよ。もう」
なんでミッチには悪態をつかれてたんだけど、
「わたしも、その成分欲しいよ」
なんて言ってカンナが私の上に乗ってきたの。
「おうっ」
一孝さんが短くうめき声をあげる。
ちょっと、おもっ、重いよお。
「あうん、ちょっとカンナ。苦しいよ」
私も、うめき声が出てしまう。でも、カンナは降りてくれない。
「私は、美鳥の幸せ成分が欲しいのね。えへ」
尚更に私に抱きついてきてしまう。
「2人ともぉ、風見さんが苦しそうだよ。いい加減にしないとだね」
見かねたミッチがカンナを押して、横にずらして落としてしまう。私も、しがみついたカンナに引きづられて落ちてしまった。
私たちが退いたところで一孝さんは起き上がって、ミッチの後ろに逃げ隠れた。彼女を盾にして、わたしとカンナを覗き見てるの。
わたしってそんなに怖いものに見えるのかしら。
そんな様子を見てたミッチがフッと嘆息して提案してくれる。
「このプールの波って次まで時間あるから、他にも行ってみない? 私は流れるプールに行ってみたいよ」
その話、のったよ。
「いいよ、行ってみようよ。カンナもいいよね」
「そうね、浮き輪にプカプカと流されるのもいいかも」
「決まりね。じゃあ浮き輪借りに行かないと」
波のあるプールのビーチを出ると、横になれるチェアが並んでいる。そこを抜けた先で浮き輪を貸し出している。プール入場料を払うと、バーコードのついたリストバンドをくれる。リーダーで各個人のバーコードを読み取って、後でまとめて払うようになっていてプールにいる間は現金を持たなくていいようになっていの。ミッチとカンナは浮き輪を借りた。でもね、私は借りなかったの。だって泳げないって抱きつくのは一孝さんがいるもん。なんちゃって。そうしながら、私たちは階段を降りる。このアクアリゾートは、なんと3階建になっているのです。1階が流れるプールになっている。建物の構造をぐるりと巡るように作られているからかな、トンネルを潜るみたいで洞窟探検みたいな雰囲気を出しています。2階に波のあるプールと催しものコーナーで3階には、なんとスパまであるんだよ。泳いで、冷えて疲れた体を温泉で癒やす。なかなかですね。一孝さんも温泉が楽しみって言ってます。もちろん私も。流れるプールは幅が4メートルほどある。それが一階をぐるりと取り巻くようにコースが作られているのね。コース自体が薄蒼色になっていて、水中からライトアップもされているせいか、幻想的でもあるの。半円形の階段を降りて水面に浸かっていく。流れは、そんなに早くない。浮き輪に乗ったミッチとカンナには追いついていけた。
「美鳥、水中のウォーキングって良いんだよ。体も浮いているから、膝とか関節に負担かからないし」
「へえー、そうなんだ」
でも彼の次の言葉に、目つきが鋭くなる。
「全身に水圧かかるし、抵抗も多い。カロリーの消費もする。有酸素運動で脂肪の燃焼効率も高いんだ。ダイエットにはもってこいかな」
「えっ」
思わずに聞いてしまう。心臓はドキドキ、呼吸も荒くなる。
「一孝さん、知ってたんですか? 私が………」
最後まで言い切れずに、口を濁してしまう。
「んっ? 何が? よく女の子の間の話題に出るだろ。ダイエットの話題って」
「そうなんですね。気を遣ってもらってありがとうございます」
よかったあ、お腹ぽっかりがバレての話かと思っちゃいました。暴露までするところでした。
「ふぅ」
私は心臓の辺りに手を当てて、ドキドキしている鼓動と過呼吸になろうとする胸を落ち着かせた。
「じゃあ、お言葉に甘えて、歩きますよう」
と言いつつ、ミッチの浮き輪を押していく。流れに任せてだけじゃない。横にスライドさせたり、前に回って流れに逆らって浮き輪を止めたりしたの。
「ちょっと美鳥。私の浮き輪で遊ばないでくれる」
ミッチが抗議してくる。
「ごめんミッチ。私の必須のエクササイズなの、手伝ってほしい」
「いやぁ。私は流れに任せてゆったりとした気分を味わいたかったの」
「ごめんなさい。邪魔しちゃって」
すると
「私ならぁ良いよぉ」
カンナから嬉しい、お誘いが来ました。早速、ミッチの浮き輪から離れてカンナの浮き輪に取り憑く。
ミッチの浮き輪でしたと同じように、スライドさせたりしていた。一孝さんがミッチの浮き輪に付いて、カンナとの浮き輪と重なって通路が狭くなるとかしないように調整してくれた。
そうこうして流れるプールを歩いて、もう時期一周するかと思われたいたとこで………
幼馴染if夏have fun!6
気を緩めたことのツケ
ちょっとだけ悪戯こごろが生まれました。カンナの浮き輪をスルスルと回転させ始めてしまいます。
「あのぅ、美鳥さん、クルクルっと回っているのですが、どういたしました?」
「いえいえ、サービスです。この度は琴守フリートをご利用いただきありがとうございます。お客様に喜んでいただけるよう回しております。いつもより多めに回しております」
「ああ、私は帯を引かれてクルクル回る芸者なのかしらぁ」
そんなふうに戯れあっている。
「アーレー」
「良いではないか、良いではないか」
ミッチは呆れながら、
「全く、何やっているんだか」
「いー加減にしときなよ、やり過ぎは危ないよ」
一孝さんも気にかけていたのだけど、
「はあーい……きゃあー」
ザップっーん
返事をした拍子に浮き輪への力加減を間違えて、バランスを崩してカンナが落水した。
驚いたカンナが、慌てて手を振り回してしまう。
普通に立ち上がれば、私たちの胸ぐらいの水位しかないのだから、全然、慌てる必要がない。
でも、
一孝さんがカンナを抱きしめたの。抱きしめられても。カンナは手を振り回す。
しばらくして彼に抱きついて静かになった。
私も、ミッチも見ているのにいっぱいで、唖然とするだけだった。
「はぁー、はぁー」
「どう?」
「っ、スゥー」
暫くして、カンナは、息を吸い始める。
「スゥー、スッ、ハァー」
「どう、落ち着いた?」
「あっ、ありがとうございます」
頬を染め、顔を真っ赤にしてカンナは、抱きついていた彼から、目線を下にして頭を少し離した。
「慌てたんじゃない? 水とか飲んでないかい?」
「はい、浮き輪がひっくり返ったときに、飛沫が少し口に入っちゃって、喉の奥にじゃないかな?」
「それで喉が緊張しちゃったんだねぇ。痙攣とかしなくてよかったよ」
一孝さんは、ここでニコッと笑った。それまでは、カンナの様子をじっくり見ていたんだと思う。冷静にカンナの対処をしていたの。
「大丈夫だった? カンナ! なんか暴れてたみたいだけど」
やっとことのことで私はカンナに声をかけることができた。
「本当よ。水飛沫上がってたよ」
ミッチも浮き輪から降りてカンナに近づいていく。
「ありがとうミッチに、美鳥も。うん、もう大丈夫だよ」
「じゃあ、いつまでも抱き合っていないの、一孝さんも近いよー」
一孝さんの胸に額をつけてカンナはプールから立っている。
でも下半身はほぼ密着しているはず、緊急事態とはいえ、うぬぬ、
「そうか、じゃ、カンナさん、浮き輪に捕まってくれるかな?」
「はい」
カンナは彼が片手で持ってきた浮き輪を受け取り、そちらにしがみついていく。顔は上げられないみたいだけど耳が真っ赤になってるのがわかる。
「美鳥もダメじゃないか。おふざけも過ぎると、大変なことになるよ」
「ごめんなさい」
私はすぐ誤ったのだけど。珍しい、一孝さの声が荒くなる。
「俺じゃない。カンナさんの方にも」
「あっ」
直ぐに、カンナか捕まっている浮き輪にに近づいて、カンナの背中に抱きついた。
「ごめんなさい。カンナ。私がふざけ過ぎたの」
「ううん、私も遊んでたからぁ。水も飲んでないし大丈夫だよ。ほぅ」
「そう、よかったぁ」
カンナは笑顔で話してくれた。でも、頬と耳の赤いのが覚めていない。吐息まで吐いてる。
この場はしょうがないと思い、私はカンナから離れて、一孝さんに近づいいく。
「ありがとう、一孝さん。おかげさまでカンナは大丈夫みたい」
「良かったよ。早めに対処できた」
笑顔の彼の顔を仰ぎ見て、
「随分と手際が良かったみたいなんですけど? 直ぐ抱き上げたし」
彼の胸に指を当てて、モジモジしながら聞いてみる。
あっ一孝さん、そっぽ向いて頬を掻いてる。
「いや、何。以前にやっぱりどこかの誰こちゃんが俺の目の前で落水してな。水をシコタマ飲んだらしいんだ。なんとか、大丈夫、大丈夫ってことで帰ったら」
彼の顔が苦渋に満ちたものに変わっていった。
「家で溺れたんだ」
ありがとうございました