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年下幼馴染は同級生 でも1/3は俺が嫌い  作者: つむら湯
2度目の登校。再会、出会
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ざわつきの中、譜面は開かれた。

「琴守悪いな。クラス委員になって直ぐの仕事で。入学式から高熱でいきなり休んだ生徒がいるんだ。メアドを間違って登録したみたいで届かないんだよ。プリント届けてくれるか?」

 

 封筒の宛先は'風見一孝'


「先生、私、この人知ってる」


 お兄ぃかもしれない。小さい時から人見知りで寂しがりの私を守っていてくれていた。事故での治療で行き先がわからなくなっていたの。お願い、人違いではありませんように。


                    

  2回目の新生活というとおかしく感じるかと思う。


 でも俺にとっては事実なんだよなぁ。気力に溢れ充実した体力に裏打ちされた自信。頼れるパートナーに馬鹿話のできる友人たち、拙作琢磨できるライバルもいた。後ろを見れば俺だけを頼りとすがってくる妹分もいた。


 それが一瞬にして目の前からなくなったとしたらどうする。僅かな希望に縋りもがいていくしかないとしたらどうする。


 俺は兎に角、足掻くことにした。親元を離れ賄い付きの学生マンションからリスタートだ。他の奴らはしぶといからなんとかするだろうが、妹分は潰れた俺なんかじゃない、頼れる男を見つけて欲しいと願ったがな。


 それがねえ


まさか、2回目の初登校が欠席になるとは、数日前に38℃の熱がでたのだ。出張診察が受けられて第2種の国定感染症ではないと判り、仕方がないのでエアコンで室内の温度を上げて、更に布団に潜り込んで汗をかくことにした。


 眠気に負けて夕方遅くまで寝こけてしまった。喉が渇いたので簡易のシステムキッチンに備え付けの冷蔵庫からスポーツドリンクを取り、飲んでいるとインターフォンが来客を告げてきた。

応答スイッチを押すとミニモニターへ来客者の顔を映し出した。同じ高校のブレザー、亜麻色の髪を伸ばし、ヘイゼルの瞳が印象的な女の子、どこかで会ったことがあるような気がする。記憶の泉がざわつきだす。




「どちら様でしょうか?」




 いや、違う。




「みっ美鳥か!」




 2歳下になる幼馴染の女の子。控えめで大人しかった記憶がある。カメラのレンズを見ているのだろうか顰めっ面をしている。




『風見一孝さんの家でよろしいでしょうか?』




 実に2年ぶりとなる懐かしい声が聞けた。




「はい、そうです」




『先生に言われて、今日と今後のことについてのプリントをもってきました』




「ポストで良いですよ。向かって左手にありますから」




『直接手渡しで。と言われています』




 強気に言われたせいか、疑問に思うことなくオープンのスイッチを押してしまった。


  


   ピンポン♪




 しばらくしてドアチャイムがなりドアを開けると、


 眦を上げ、目頭に涙を溜めた女の子が立っている。手を振り上げ、持っていた封筒で顔を叩かれた。




「おにぃ のぉ ゔぁかぁ」




 懐かしくも可愛い声と初めて聴く怒声に驚き、尻餅をついてしまった。その隙に周りに音が響くほどの音が出るぐらいでドアを閉められてしまった。慌てて起き上がりドアを開けて左右を見たのだが、既に見当たらなかった。




「確かに美鳥だよな」


 


 展開についていけず呆けてしまった。




 そしてドアを閉めて振り返ると、………




 女の子が平座りしていた。姿が少し透けて見える。俺の方をみて笑顔になって、


「おっかえりー」


 寒気が背中を駆け上がる。





次の日は、用心のため、もう1日休んで翌々日、本当の初登校。学校に行けば自分の机の上に女の子をデフォルメしたお人形が立っていた。




「よっ」




 手を掲げて挨拶してきた。周りの人にはわからないようだ。俺の背丈の4分の1くらいはある。こんなものが机に立っていれば話題になるはずなのに、誰も見てない注目してない。




「初登校だな。気分はどうだい?」




 無視しようかと思うのだが、大きすぎて視界を塞いでしまう。両手を下に広げて頭を左右に揺らして俺の顔をのぞいてくる。じっと見てしまった。




「見惚れたかい!」




 しなを作ってウインクしてくる。隣や他の人の机の上を見るがこんなのはもちろん乗っていない。


 俺は踵を返して教室を出る。現実、いや幻視逃避かな職員室の先生に会いに行くことにした。




「おー、川屋に行くのかい?ちびるなよー」




 なんか失礼なことを言っている。


 聞いた住所にあるマンションまで行くまで、私の頭の中は混乱の悪壺になっている。


 2年前、事故で目を覚まさないと聞いて絶望した。私を支えてくれたお兄いとお話できなくなった。声も聞けない。慰めてくれた手も動いてくれない。遠いところで治すということでいなくなってしまった。寂しかったんだよ。


 今度も同じよ。目が覚めたのなら連絡が欲しかった。声か聞きたかったんだよ。たくさんお話をしたかった。一緒に遊びたかった。一緒に笑いたかった。お兄ぃの胸の中で甘えたかったんだよ。エントランスのインターホン越しで顔を見れた時、どれほど嬉しかったかわかる。それが




「どちらさまでしょうか?」




 じゃないわもよぅ。エレベーターの'6'の数字を押す時から、堪えていても涙が出てきた。




 エレベーターが降りてきて中に入り、扉が閉まると、




「ぐすん、ぐすん」



 泣いてしまったんだよ。私ってそんなもの?




 6階まで上がる前になんとか抑えた。でも哀しみはきえないよぅ。個室の玄関でチャイムを鳴らしてドアが開くまでの時間が長かったこと。僅かな期待に胸を膨らませ、ドアが開く。直にお兄ぃの顔を見た時に、箍が外れた。




「おにぃのヴァカぁ」




 今まで会えなかった寂しさ、たった2年で私が忘れられた悔しさが、会えたことの嬉しさや生きていることの安堵を全部流してくれた。


 自分でも驚くぐらいの声が出た。渡すはずだったプリントを持つ手でお兄ぃを叩いてしまった。


 驚きと怒りをドアに当たって思いっきり閉めた。大きな音に驚いて悲しさと恥ずかしさで走って逃げたの。エレベーター室で'降りる'のボタンを押したらレスポンスよく来てくれた。乗り込んで1のボタンと’閉じる'のボタンを連打する。


 エレベーターが降りるまで自分の肩を抱いていた。体も震えているんだよ。


 エレベーターをおり、マンションを出てトボトボと歩いて行った。帰る途中に私は何か大切なことを忘れているのではと気が気でなかった。気にはなるのだけれど思い出せない。思い出そうとしても、あと少しというところで霧散してしまう。




ありがとうございました。

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