アイアイガサ
1、2、3、4、1、2、3、4
「ずれてる、もう一回!」
1、2、1 2
パー、パパ〜パーパー
ヒュルルルルルルルルルルルピーヒュルリン ジャジャーン
ドンタンダダッ、ドコドンタタタカタンタンシャン
「ペットが遅れてるなー、もう一度リハーサルマークBから!」
「いや、違う、音程がズレてる」
ザザザザザザザザ
「ふみ、今日の合奏、音はずしてたじゃん」
「もー、ちょっとだけじゃん。いつもしてないじゃん。涼こそテンポに合ってなかったでしょ!」
「ちょ、ちょっと手元が狂っただけだし……」
ザッザッザッ シャシャシャシャシャ シュルシュルシュル ポンポンッ
俺が今どんな状況にあるか説明しよう。俺は今、ふみと一つ傘の下にある。多くの方が思うかもしれないが、別にふみと特別な関係にあるわけではない。
しかしながら、このただならぬ状況に戸惑っている。このある種の混沌とも言うべき状況を抜け出すために何か話しかけなければと思っている。
そもそも部活の後、雨が降り始めたことが全ての始まりだった。
雨が降りつづくのを退屈に聞きながら歩いていると、急にふみが口を開いた。
「ねぇ、私たちの……うわさ、とか立っちゃったりしないかな」
「何が?」
ふみの唐突な発言に動揺を隠す方法はこれしかなかった。
「…だから、その、…男女の仲、的な (?)」
だよな、やっぱりその話だよな。と、俺は思った。
「別にいいだろ、うわさくらい」
「どうして?」
「うわさされるってことはそれだけ注目されているってことだろ。相手にされないよりよっぽどいいでしょ」
ふみは何を思っていたのか、しばらく口を閉ざしていた。
「私はいいのよ。涼は困るんじゃないの?クラスの人とか、そうゆうのすぐ噂すんじゃない?」
「いや、困んないよ。うん、困んないよ……。それに……」
「それに……って何よ」
いけない、余計なことを口走ってしまった。と、俺は思った。
ザッザッザッ シャシャシャシャシャ シュルシュルシュル ポンポンッ
途切れることなく続く雨の音に、どんよりするこの空に、俺は今何を思えばいいのだろう。だって、だって、だって。
つい20分ほど前までなんとも思っていなかったのに、今は……。
何よ、私だって、私だって……。こんなにいろんなこと思ったのは今日が初めてなのに、知らないふりでゴマカしてんじゃないわよ、もう。
私は今まで、トロンボーンが吹けることが嬉しかった。ガムシャラに練習を続けていた。でも、あんまり気にしていなかったけれど、自分が頑張ってきたのはそういうことだったのかもしれない。
「じゃあ、俺バスだから、ここで。ありがとう、ふみ」
「うん、じゃあ、また明日ね、涼」
「あ、それと、これは……お礼」
「え……あ、ありがと」
「じゃ」
「じゃあね」
また明日から、明日から……。