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7.婚約破棄騒動の裏側の裏側③

国外追放とされた筈の馬車を途中で降ろされ、


「歩けるか?」


ジェズ様にそう尋ねられました。


セラフィーノ様の事です。

きっと私の事は適当な所で『処分』してくるようジェズ様に命令されたのでしょう。


最後くらい、毅然とした姿を見せたかったのですが、そんなに私は強くなくって


「腰が抜けてしまい、無理そうです」


そう言えば、


「そうか」


ジェズ様は短くそう呟くなり、初めて出会った時のように私の事を抱き上げて歩き出されました。



最後に怖がりな私の事を思って、ジェズ様はこうしてくださったのでしょう。


「ジェズ様……」


そう思えば急に涙が抑えきれなくなって、あの日のようにジェズ様の首に思わず縋れば、優しいジェズ様は、まるで


『良く頑張ったな』


とでも言って下さるように、私の髪を優しく撫でてくださったのでした。





しばらく歩くと小さな家に着きました。

ジェズ様は私を抱いたまま、器用に片手で鍵を開ける中に入ると、簡素なベッドの上に私を降ろしました。


ジェズ様にそれ程強くない力で肩を押され、真っ白なシーツの上に仰向けに横たわります。



「私……本当に何もしていないのです……」


最後の祈りの言葉の代わりにと思い、そんな事を言った時でした。


「あぁ、知ってる」


ジェズ様が思いもしなかった事を仰いました。


「信じて……くださるのですか?」


例え、セラフィーノ様の命がそれによって覆る事は無くとも、最後にジェズ様が私の無罪を信じて下さった事が嬉しくてそう言えば、


「ヴィーは馬鹿だな。証言したのはオレだぞ? 信じるも何も……オレがお前を嵌めたんだよ」


ジェズ様が、口元だけは無理矢理笑顔を作って、でも目元は酷く痛々しそうに歪めながらそうおっしゃいました。


「なんで? どうして?」


ジェズ様は騎士としての仕事を全うされているだけなのに、どうしてそんなに苦しそうな顔をされるのでしょう。

すると、ジェズ様はまた酷く苦しそうな顔をされて


「ずっと、こうしたいと思っていたから」


とそんな思いもしなかった事を仰ったのでした。







◇◆◇◆◇



それから三か月が経ちました―


「ジェズ様、愛してます。子供のころからずっとジェズ様だけが好きでした。だから、ジェズ様からの言葉も欲しいです」


半ば眠りにながら、思わずジェズ様にそんな世迷言を言えば。


「愛なんて知らない」


ジェズ様はそんなふうに仰いました。





『愛なんて知らない』


第三騎士団にいらっしゃる頃、


『どうして特定の恋人を作られないのですか?』


そう聞いた私に、ジェズ様はやはり同じように


『愛なんて知らないから』


そうおっしゃった事がありました。



でも……。

私は、ジェズ様以上に本物の愛に憧れている方を知りません。



きっと、納得できない思いが表情に露骨に出てしまっていたのでしょう。

私の顔を見たジェズ様は


「普通、愛する人を計略に嵌めたりしない」


そう言ってこれ以上は問答無用だとばかりにそっぽを向かれてしまいました。


「まぁ、普通はそうですが……」


でも。


計略は計略でも、ジェズ様は私をあの苦しいばかりのお城から助けて下さったのでしょう?

しかも、逃げきれない事を承知の上で自分の命を賭してまで。


これが愛でないなら、何なのでしょう。


家族としての情でしょうか?

ずっと家族に憧れていらしたジェズ様の家族にしていただけたのなら、それはそれで私としては嬉しいのですが……。





まどろみの中目を閉じていると、ジェズ様が半身を起こされた気配がしました。


……あの城に連れ戻されることなく、愛する方の腕の中で眠ったまま死ねるなんて、なんて素敵なんでしょう。





そう思ったのですが。

優し過ぎるジェズ様は、結局私を殺しては下さいませんでした。


「だったら、一緒に逃げましょう……」


その言葉にもジェズ様は頑なに首を横に振られるばかりでした。

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