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6.婚約破棄騒動の裏側の裏側②

十六の誕生日の事です。

夜、我が家で開かれたパーティーに、新しく王太子として立たれる事が決まった第二王子のセラフィーノ様がいらっしゃいました。


ウチの様な弱小貴族のパーティーにまでわざわざいらっしゃるなんて。

セラフィーノ様は随分リベラルな方なのだなと、そんな事を思いながら父と一緒に挨拶をした時でした。


不意に何の断りもなく、セラフィーノ様が私の顎に指で触れ、まるで家畜の品定めをするように上を向かされました。


「なっ……」


セラフィーノ様の余りの非礼な行動に、思わず私も父も絶句しますが、相手が末の国王様とあっては抗議も出来ません。


セラフィーノ様は何が面白いのか、しばらく不躾に私の瞳をのぞき込んだ後で


「気に入った」


そうおっしゃると、私に屋敷の庭を案内するようにおっしゃいました。

流石にそれはと父が抗議したため、気分を害されたセラフィーノ様はその日はそこでお帰りになり、私はホッと胸を撫で下ろしたのでした。



しかし……。

それから程なくして、王家から正式な婚約の申し入れが私の元に届きました。


『いつか素敵な王子様と結婚するの』


それが私の子どもの頃の口癖でしたが、私が思い描いていた王子様はジェズ様の様な優しい方で、決して人を家畜扱いするセラフィーノ様の様な方ではありません。


私には王妃など務まらないと辞退したい旨を暗にお伝えしたのですが、だったら一刻も早く城に上がり王妃教育を受ける様にと返されてしまいました。



貴族に生まれたからには、いずれ家の為に自分が望む方以外の下へ嫁がなくてはならない事は分かっていた筈なのに。

悲しくて悲しくて、涙が止まらないのはどうしてでしょう。


最後に一目だけでもジェズ様にお会いしたくて、第三騎士団の詰め所を訪れれば、そこにいらっしゃるはずのジェズ様のお姿はありませんでした。


でも、それで良かったのかもしれません。


「ヴィーちゃん、どうしたの?」


リベリオ様に声を掛けられた瞬間、私は思わず泣き崩れてしまいました。

沢山泣いて、泣いて、ようやく気持ちの整理がついた頃、ジェズ様がお帰りになりました。


時刻はちょうど夕暮れで、泣きはらした赤い眼は、うまい具合に夕日が隠してくれました。







◇◆◇◆◇



お城での王太子妃教育は酷く辛く厳しいものでした。

元々爵位はなくとも裕福な商家に嫁ぐ予定で育てられた私に、外交や儀式の参列など務まるはずがないのです。


何度、自分の部屋の窓から飛び降りてしまおうかと思った事かしれません。


そんな私を思いとどまらせて下さったのは、やはりセラフィーノ様の警護としてお城にやっていらしたジェズ様でした。



近くに居ながらも、王太子の婚約者という立場上、ジェズ様とは以前の様に言葉を交わす事は叶いませんでした。

それでも……。


私が辛くて辛くて仕方の無い時は、決まってそっと一輪の白薔薇が部屋に届けられました。

それには何のカードも添えられておらず、侍女達にもその贈り主は分からないようでしたが、恐らくジェズ様だろうと私は密かに思っていました。







◇◆◇◆◇



しかし、そんなジェズ様が変わられてしまったのは、やはり男爵令嬢のパメラ様がセラフィーノ様の様のお部屋に頻繁にいらっしゃるようになってからの事でした。


以前の様に、ジェズ様が目線すら合わせて下さらなくなった事を一人悲しく思いながら、城の庭の片隅で泣いていた時の事です。

パメラ様とジェズ様が、人目を盗むように寄り添いながらお話をされている姿を見てしまいました。



パメラ様は男爵令嬢と私以上に身分は高くありませんが、とても華やかな方で、私とは異なり色々な方とのお付き合いも華麗にこなしてみせられます。

セラフィーノ様がパメラ様を気に入られたのも早かったと聞きますし、ジェズ様が心寄せられるのも当然だと思います……。



それでも……。


「はい、ヴァレーリア様がパメラ様のグラスに薬を入れるところを見ました」


婚約破棄を言い渡されたその場で、そう言うジェズ様のお声を聞くのは、ジェズ様にとって私はもう妹でも何でもなくて、ただの邪魔者でしかない事を知らしめられたようで悲しくてしかたありませんでした。

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