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カスタマイズ8 ヘーゼルナッツシロップ追加

 PМ 12:30

 昼食をとり終えたアッシュこと真佐江(ギリ39歳)と、プリリンこと河内(42歳本厄)の二人は、再度【異世界体験】に戻り、それぞれ入館手続きをし直すと、ふたたび異世界へと舞い戻った。


 アッシュになった真佐江は、町田から聞いていた【ソードマスターギリアムさんのギルド】を探し、乱暴に扉を蹴り開けると、荒々しく中へと入ってみた。


「おい! ここにアドニスってイケメンがいるんだろ? 俺のシマでずいぶんブイブイ言わせてるみてえじゃねえか! 誰に断って勝手に楽しんでんだぁコラ? ツラ拝ませてもらおうじゃねえか! オラオラァ! さっさとイケメンナンパ師出しやがれや! つぶすぞコラァ!」


 手近な椅子を蹴っ飛ばし、カチコミらしく登場だ。ガラも思いっきり悪そうにしてみた。


 ちなみにリアルの真佐江にはカチコミ経験はない。あくまでもドラマで入手した知識である。


 ギルドの男たちがいきり立った。


「なんだてめえ? アドニスさんに会いたいなら、俺たちと勝負して勝つんだな!」

 屈強そうな男たちが数人、アッシュの前に立ちふさがった。


 アッシュは不敵な笑みを浮かべて、男たちを見上げる。


 こんなやつら、アッシュが本当は逢いたくてたまらない、あの愛しい一つ目水色巨人(ギガンテス)に比べれば小僧みたいなものだ。


「なんだよ。お前ら人並みのモブ男どもも、イケメンのおこぼれに預かって女とわっしょいしてんのか?

 だっせえなあ! 自分が欲しいと思った女くらい、人に頼らず自分でゲットしろよ! 男として情けねえと思わねえのか!」


 アッシュはわざと煽るように、うんとバカにした表情を浮かべて、男たちを焚きつけるだけ焚きつける。


「うるせえガキだな。なんだてめえ、中坊か? ちょっとレベルが高いからって大人をなめるんじゃねえ! 口のきき方がなってねえようだ。ここで男社会の厳しさを味わって出直してこいや!」


 すらりと音を立てて男たちが剣を抜く。戦闘開始だ。


「そうこなくっちゃな!」


 アッシュは腰を低く落とし、思いっきり正拳突きを放った。


 例の『クラウドさんのやめなよパンチ』が炸裂する。


 ラスボスの城に出現する敵さえふっとばす威力の衝撃波に、男たちはあっさり吹き飛ばされた。


「てめえ! ずりーぞ! ここは剣士のギルドだ! 正々堂々剣で勝負しろ!」

 ひっくり返った男たちが一斉にクレームを出してくる。


「いや、武器持ってるお前らに対して、俺が素手なんだからハンデくれてやってるだろーが。

 なんで俺がずるいって言われなきゃなんだよ!」


「その道具袋に入ってる【銅の剣】は飾り物か! 剣士のギルドに来たからには剣を装備して戦え!」


「どいつもこいつも勝手に人のステータスや道具袋の中をのぞくんじゃねえ!

 失礼だろーが!」


 だが言われた通り、アッシュの道具袋の中には小さな剣が入っていた。


(あー、なんか一番最初に、王様的なのが小銭と一緒に渡してくれたやつだわこれ)


 記憶の片隅にかろうじて引っかかっていた剣を、アッシュはとりあえず袋から出してみた。


 うん、軽い。おもちゃみたいだった。


「よしわかった。じゃあこれで勝負だ。俺が勝ったらアドニスを出せよ?

 んでお前らがやってた悪事、洗いざらいしゃべってもらうからな!」


 ちゃっちい剣を構えてみたアッシュだが、もちろん職業は剣士ではない。装備したことも使ったこともない剣を持たされても、動きは初心者そのものだ。


 あっという間に、ロングソードによってちゃっちい剣は叩き落されてしまった。


「ふん! 大したことないやつめ! この程度の力量で、このギルドに単身乗り込んできたことだけは誉めてやろう!」


 ギルドの男は、大きくロングソードを振りかぶった。


(やべえ! 真っ二つにされる――!?

 ああクソ! こんなことならちゃんと動画で武装解除(ディザーム)の練習しとくんだった!!)


 アッシュは頭で考えるよりも先に手が動いた。相手の剣を持つ手を狙い、拳を叩き込む。

 付け焼刃だったが、相手の武器を持っている手を無力化し、武装解除(ディザーム)をするつもりだった。しかし――。


 グシャア!!

 

「あべしぃぃぃぃっ!!」


 アッシュの拳がぶつかった相手の手が、まるで花火のように爆発し、肉片が飛び散った。

 相手が持っていたロングソードは反動で上に飛び、ギルドの天井に突き刺さった。


「ぅげっ!」

 アッシュがしまったと思ったときには時すでに遅く、相手の右手首より先はすでに消失し、跡形もなくなっていた。


「ああああああぁぁぁぁっ!! 俺の手が!? 俺の手があぁぁぁぁあっ!!」

 右手首から赤い噴水を噴き上げながら男が絶叫する。


「てんめえ! よくもやりやがったな! 素手は反則だろーが! 何てことしやがる!」

「なんてグロテスクな攻撃なんだ! やりすぎだろうが!!」


 殺気だった男たちが一斉にアッシュを囲んだ。


「いやゴメン! 手のことは悪かったって! 加減しなくて悪かったって! こっちも必死だったんだって!

 なあ! でも普通、素手が反則っておかしいだろ!? お前ら俺が剣で腕斬り落とされてもなんにも言わねえだろーが絶対!」


 さすがに分が悪くなり、アッシュは『やめなよパンチ』を打ちながら相手を吹っ飛ばし、ギルドから逃走した。

 さすがに数が多すぎて、相手にしているうちに、拳を直接当ててしまうかもしれなかったからだ。

 もう「ひでぶ」な惨状も「あびば」な修羅場もこれ以上はごめんだ。





 息を切らしながらも、アッシュはなんとか薄暗い細路地に身を隠して、Sランク剣士たちをやり過ごした。安心して一息ついたところで、小さな話し声がするのに気づいた。


 声のする方へ歩いていくと、少年が地面に体育すわりをした状態で独り言をつぶやいている。


 プレイヤーか? それとも街の住人か? アッシュは声をかけてみた。


「おい、あぶないぞ、こんなところで。もっと人通りの多いところにいろよ。

 ここにはな、若い男の童貞を食って回るとんでもねえホルスタイン女が出るんだぞ? 悪いことは言わないから、お前も食われないうちにここから離れた方がいいぞ」


 オバケが出るぞと子供をおどかす時のような感じで話しかけてみると、少年は穏やかに微笑んだ。


「ご親切にありがとうございます。あなたがその件に詳しいのは、あなたが食べられてしまった方だからですか?」


「うっ……いや、俺は品のある女の方が好みだからな! そういうガツガツした女はこっちから願い下げだ! あっちへ行けって追い払ったさ!」


 少年を前に思わず嘘をついてしまう。これが男のプライドというやつなのだろうか。

 少しだけ後ろめたい気持ちを感じていると、少年は話し出した。


「ちょっと一人になりたくて隠れてみたんですけど、今度はだんだん自分の考えが怖くなってきて……。それで、頭の中に話しかけてくるガイドさんとちょっとお話というか、相談に乗ってもらってたんです」


 『ガイド』というのは、つまり天の声的なヤツだろう。


(なあ、天の声? お前、俺以外とも会話したりすんの?)


 心の中で呼びかけてみたが、天の声は返事をしない。思い返せば、今回の天の声はやけに静かだ。


「なあ、そいつにさ、スピーカーモードにしてさ、俺とも話してくれねえか聞いてもらってもいい?」


「……嫌だそうです」

 少し間をおいて少年が返事をする。


「お前んとこの天の声はワガママなやつなんだな。じゃあさ、ちょっと代わりに訊いてくんねえ?

 俺の拳のレベルが上がりすぎて困ってるんだ。

 悪いやつらをちょ~っと懲らしめるだけでいいんだけどさ、なんか殺しちまいそうなんだよね。さすがにそこまでしたくないんだよな。

 普通に殴っても相手を殺さない程度までレベルを落とせるような道具とか方法ってねえもんかな?」


「ありますよ」


「うお。返事速えな」

 少年のあまりにも早いレスポンスにアッシュは驚いた。


「あ、いえ。この頭の中で話してる人に聞いたんではなくて、さっきちょうどそんなのを見かけたんですよ。呪いのアイテムですけど、身につけると力が出なくなるんですって。半額セールで売られてましたよ。

 ちなみにセールの理由は、呪いアイテムであることが目立ちすぎて、相手に身につけさせることができないからということで、効能的なものは保証されているそうです」


 それはまさに今のアッシュが求めているものである。


「マジで!? サンキュ! 売り切れないうちに行ってみるわ! ホント助かった! ホントサンキュな!」


 少年と別れたアッシュは、無事に呪いのレベル半減ブレスレットを購入し、右手に装着した。


 こうすることで右腕の力が半減するらしい。ちなみに左腕は通常モードだ。この呪いの範囲の狭さも在庫処分セールの理由らしい。


 さらに見た目がものすごく毒々しくて、でかでかと『呪』という文字が書かれているが、アッシュにはどうでもいいことだった。このままずっと外さなくてもいいくらいだ。


「ここで買って自分でその場で装備した愚か者はあんたが初めてじゃ」


 【呪い屋】のおじいさんに褒められ照れながらも、アッシュは再びソードマスターギリアムさんのギルドに顔を出した。本当に殴っても大丈夫か確認するためだ。


 しかしアッシュはギルドの中に入れてもらえなかった。


 【剣士以外立ち入り禁止】【腕力バカお断り】


 完全に門前払いになってしまった。


「おい! 入れてくれよ! 何だったらほら! 多対一でかかってきていいからさ! さっきのやられたやつの落とし前、つけさせてやるからさー! ほら! 見てくれ! 呪いで力が半減してるぞー!

 いまがチャンスだぞー! おーい、入れてくれったらー!」


 みかねた街の人が「おい、このギルドでのイベントは剣士を仲間にしないとこれ以上は進めないぞ」とアドバイスをしてくれるまで、アッシュはギルドの前で大声を出し続けたのであった。



・・・・・



「……で? 結局入れてもらえずにノコノコ帰ってきたわけね?」


 巨大な脂肪の塊(Hカップ)を組んだ腕に乗せながら、プリリンがアッシュを睨んだ。


 街のとある酒場のテーブル。アッシュはシュンとなって頭を垂れていた。

 前もって河内プリリンと申し合わせておいた落ち合い場所だった。


「すんません。戦利品はモブキャラの右拳一個分です」


「持って帰ってきてないのに戦利品って言い方はおかしいでしょ? まったくもう! アッシュったら、本当にどこまでも拳ネタばっかりなんだから! まあ、そんなことになるかなとは思ってたけどねえ」


 面目ないと頭を下げながらも、アッシュは不思議でしょうがない。

 どうしてもこの爆乳ロリ顔娘と河内が一致しない。どう考えても別人にしか思えない。


「あの、●●●●●●●●」

「……ちょっと、今普通にあたしのこと呼んだでしょ。やめてよね! せっかく気分アゲアゲなのにすっごい台無し!」


 プリリンがほっぺを膨らませて、ぶりっ子モードでぷんぷん怒る。河内の姿では決して想像することができない光景だ。


「なんで、そんなにキャラが完成してるんですか?」


「ちょっとぉ、アッシュ~? せっかく人が楽しい思いしてるのに水を差さないでくれる~?

 あんまり変なこと言うとぉ……この前よりすっごいコトいっぱいしちゃうけど……いいのぉ?」


 プリリンが――というよりも爆乳が襲いかかってきたためアッシュは素直に謝罪した。

 このままではあの二つの脂肪の塊に顔から食われる。


「すいませんすいませんもう二度と金輪際その件については口にしませんごめんなさい」


「さて、そんなダメダメアッシュの代わりになってくれそうな剣士に心当たりがあるの。

 明日は日曜日だし、その剣士と一緒にもう一度ここに来ましょ。来れないとは言わせないわよ?

 で、あたしの方の収穫はというとぉ。とりあえず合コン決定♡ 男の幹事はアドニスだって。ばっちりお持ち帰りしてくるからね!」


「あ……、お持ち帰りされるんじゃなくて、する方なんすね……。いや、まあ……頑張って掘るんだか掘られるんだかしてきてください」


「うん。アッシュ? いまからちょーっとそこの裏の宿屋いこっかぁ♡ ちょーっとあたしに対しての口のきき方がなってないぞぉ? アッシュは頭使うより体で覚えるタイプだもんね~? 体に教えてあ・げ・る♡」


 プリリンがアッシュの腕をがっちりとホールドすると、そのまま引きずるようにして酒場を出て行こうとする。


「あ! ちょっと!? 冗談ですよね!? いやまじでごめんなさいすいません土下座でも何でもしますから! え? なんで無言なんですか! だ、誰か!? すいません誰か助けて!! お願いっ!! 誰かぁぁぁぁああぁぁぁぁ……っ!!」

 

 アッシュの悲鳴が再び裏路地に響き渡った。


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秘められし愛のサイドストーリー
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