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カスタマイズ6 チョコレートソース追加

「……お前のせいで人殺し呼ばわりされたじゃねえか。急に懐かしい技の名前言うんじゃねえよ。思わずマジで出しちまったじゃねえかよ。しかも打てたし」


 アッシュが睨んだ先には、巨乳を重たそうに組んだ腕に乗せながら、不敵な笑みを浮かべる回復士プリリンの姿があった。


「ふふ、いいパンチを見せてもらったわ。お礼に、その瀕死くんはあたしが治してあげる。みててね?

 プリリン癒しの回復魔法! 元気になるんだっちゅーの!」


 プリリンが胸の谷間をぎゅっと寄せると、巨乳の割れ目からピンク色のビームが飛び出し、男を直撃した。


 アッシュがおそるおそる近づいて確認すると、傷はふさがり、出血も止まっていた。

 そしてなぜか男の下半身がご起立していた。


「なあプリリン、下の方がステ異常起こしてっけどいいのか?」


「それは朝勃ちというものよ、いたって健康な証拠なの」


「ふーん、そういうもんなのか。よし、とりあえずこいつ起こして尋問すっか!

 アドニスってやつと知り合いなのか、裏とらねえとな! あ、プリリン。縄とか持ってねえ? 逃げねえようにまずは縛らねえと……」


「……やだ♡ なんか懐かしいわあ。あたしもね、アッシュみたいに、女の子に強引なナンパしてくるやつとか、弱い男の子からお財布盗っちゃうような悪いやつをやっつけてたことがあるんだあ」


 ぎく。アッシュは思わず体に緊張が走り、身構えた。


「そこのメンバーにね、アッシュみたいに、すっごいパンチを打つ伝説の女の子がいたんだよお? みんなから鉄拳の……」


「それ●●!! 俺が●●●●●●●!!」


「やだ。なんでいきなりピー! とか言うわけ? もう、アッシュのえっち♡」


「違う! いま俺は自分の本名を名乗っただけだ!」


 プリリンはそれを聞くと真顔になり、意を決して口を開いた。


「●●●●●●●●」

「おい! チョメチョメってなんだよ! お前、どさくさに紛れて卑猥(ひわい)な言葉を口にしやがったな!」


「違うわよ。今あたしも本名を名乗ってみたの。じゃあこれは? ●●●●●●●●●●●」

「やめろ! 聞いてるこっちが恥ずかしくなる!」


 耳をふさいで赤面するアッシュを無視して、プリリンは転がっている石を拾って、地面に何かを書きだした」


 ●●●‐●●●●‐●●●●


「おい! モザイクかかってんぞ! なに書いてんだよ! やめろよ!」


「もう! そんなに興奮しないでよ! あたしの電話番号よ!

 ……なるほどね。今はもうこの辺まで規制ができてるってことね……」


 表情を改めたプリリンの出す空気が変わる。


「……お前、なに言ってんだよ」

 アッシュは自分の声がかすれていることに気づいた。こんなに緊張するのは久しぶりのことだった。


「ふふ、実はあたし、ここにちょっと探りを入れにお試し参加をしに来たのよ。

 あたしの教え子がね? ちょっと前なんだけど、ここのユーザーに電話番号教えちゃってね。そんでしつこく電話かけられて参ってるの。自業自得なんだけどねえ。

 ここ、学生とか若い子も利用してるでしょ? へんな事件とかに巻き込まれたりしないか、どういうもんなのか調べに来たってわけ。あたし、こんなでも実は先生だったりするのよねえ、うふふ」


 アッシュは高揚感が高まっていくのを感じた。


 さっきの話といい、ここの参加動機といい、間違いないという確信に変わる。


 プリリンは自分と同じ高校の誰かだ。

 それも、かつての真佐江のように、母校の生徒を闇討ちしていたやつらを成敗していたメンバーの誰かに違いない。もしかして、自分の後輩なのか……?

 だとしたらすごい戦力だ。


「なら……協力しないか? たぶん、俺とあんた……きっと同じ●●●●だよ。あんたがさっき言いかけてたのって●●●●の●●●●●の話だろ?

 ……だーっ! この放送禁止用語め!! 邪魔すんじゃねえよ! 話ができねえだろ! なんなんだよこれは!!」


【ご説明、致しますね……?】


 天の声がスピーカーモードで、おずおずと説明を始めた。


【以前アッシュさまがこちらの世界でモンスターを退治していた際に、本来の世界の方々の固有名詞を連発しながら戦闘を繰り広げていらっしゃったことがありましたよね?

 あの戦い方を真似するプレイヤーが拡がり、他のプレイヤーから景観および雰囲気が損なわれるとクレームが相次ぎまして、こちらの世界に相応しくない固有名詞を発すると規制がかかる仕様にさせていただきました】


「あー、そんなことあったっけかなあ……」

 まさか自分のせいだったとは思わず、アッシュは照れながら頭をかいた。


【もちろんプリリンさまがおっしゃっていたようなトラブル防止のための措置でもあります。その方のときには間に合わなかったようですね。申しわけありません】


「ふーん。そっかあ。じゃあ、ここを出たら●●●で待ち合わせねって言っても……伝わってないわけね。

 じゃあアッシュ、今からあたしが言うことを覚えてね?

 二つの世界を結びし黒き城を出たら、東へ32歩進んで、そこから北へ46歩進むの。

 そこにどんな疲れも吹き飛ぶ魔法の液体、漆黒のポーションを売っている小さな店があるわ。

 あたしはそこであなたを待ってる。姿が変わっていて気づけないと思うから、限られた者しか知り得ない秘密の呪文を教えるわね。

 これをあたしが唱えている時にあなたが気づくか、あなたが唱えている時にあたしが気づくか……賭けだけれど、この作戦で行きましょ?」


 プリリンの提案にアッシュはうなづいた。プリリンは微笑むと言葉を続けた。


「ポーションを売っている店員に会ったらこう唱えるの。……いい?

『クワトロベンティーエクストラコーヒーバニラキャラメルヘーゼルナッツアーモンドエキストラ……』」


「わかった! ●●●な! ●●●の最長呪文な! ガチでそんなん注文してるやつ見たことねえし! 絶対覚えらんねえし! 店員さんに迷惑だし!」


 アッシュは呪文を聞いただけで甘すぎて胸やけがした。アッシュはカスタマイズが好きではなかった。


「でもきっとアッシュ、絶対あたしのことわかんないと思うよ?」


「呪文の方が覚えらんねえし! 唱えたくもねえし!」


「もおアッシュったら! わかった! じゃああたしが呪文唱えるからちゃんと見つけてよね!

 じゃあ、先に行って待ってるから! ちゃんと来るんだゾ!」


「あ! おい! プリリン!」


 プリリンはそう言い残し、アッシュが止める間もなく異世界から離脱した。


 アッシュは下半身をご起立させたまま倒れている男を見下ろし、ふと恐ろしいことに気がついてしまった。


(どうしよう。俺……昔の仲間の女の子とすることしちゃったけど……。お、女同士だし、セーフかな?

 だいたい、向こうの方が誘ってきたわけだし。俺は悪くないよな? 不可抗力だよな!

 てゆーかあんなキャラの女の後輩って、誰かいたか? 2個下の咲良(さくら)は……キャラ的になくはないけど。

 教え子って言ってたし、あいつが先生なんかになるわけないし……。

 誰なんだ、プリリンの正体は。全然わかんねえ! 俺、誰とヤっちまったんだよ!!)


 プリリンが呪文を唱え終わってしまい、合流できなくなると困るので、アッシュは男の尋問を諦め、異世界から離脱した。



 AM 11:52

 真佐江は異世界体験の出口で周りを見渡す。しかし知っている顔はない。


 約束通りのコーヒーショップに入り、注文の順番を待った。

 レジ前には五人ほど並んでいる。前に並んでいる他の客の声に聞き覚えがないか、呪文を唱えている客がいないか耳をすませていると、目の前に並んでいる背の高い男が、真佐江を見下ろしていた。


「……お前、もしかしてマサか?」


 ジャケット姿の男を見上げ、その男の妙に冷めたような細い目に見覚えがあった。

 河内雅文(かわうちまさふみ)――真佐江を西校狩り()()のメンバーにスカウトした張本人だ。


「……? か、河内(かわうち)先輩? え……? わぁ……、お久しぶりです」


 真佐江は思わず緊張してしまう。この人はどうも苦手だ。何を考えているかよく分からない。

 でも珍しい人に逢えて、真佐江はテンションが上がった。

 

 冗談を言っていても目が笑っていないし、いつもどこか冷めていた。正直、怖くて苦手という印象が強い。社会人での二つ年上は大した差ではないのだが、高校時代の二つ上はだいぶ上に感じてしまう。

 それでもどこか憧れを抱いてしまうような、変なカリスマが河内にはあった。


(うっわ……嬉しいけど、でもやっぱ緊張感ハンパない。サシとかマジ無理!)


「何年ぶりだマサ。奢ってやるよ」

 低い声で河内が声をかけてきた。一方の真佐江は緊張で河内の顔を見られない。


「いえ、そんな。大丈夫です。

 あ、実はこれから高校の時の仲間とここで待ち合わせしてるんですよ。先輩はまだ、あの時のメンバーと連絡とったりしてるんですか?」


「メリットがあるやつとだけな」


 前を向いたまま河内はそうつぶやいた。


(この人は相変わらず思ったままを口にする……)


 卒業後にぱったりと連絡が切れたのは、この人にとって自分は何のメリットもない人間だったということだ。そのことが、少し悲しいと思ってしまう自分がいる。

 緊張するし、苦手だし、関わりたくないのに。


 これから合流する誰かは、まだ河内と繋がっているのだろうか。まだ、あの頃みたいに、自分の正義や信念を貫いているのだろうか。


「お待たせしましたー。店内でお過ごしになりますか~?」

 いつの間にか河内の注文する番になっていた。


(しまった! 先輩と話すのに緊張しすぎて前の客が呪文を唱えてるかどうかを聞いてなかった……!)


 もうプリリンは店を出てしまっただろうか。まだ店内にいるだろうか。


 真佐江は慌てて店内に目を光らせたが、長い呪文の末に現れるポーションがどういう見た目なのか知らなかったので、誰がプリリンなのか見当もつかなかった。


 店員の声かけを聞いた河内が真佐江を振り返った。


「マサ、お前、ここで飲んでくか?」

「……え? あ、いえ。たぶん仲間と合流したら公園かどっかで飲もうかと思ってて……」


 そこまで聞くと河内はレジのお姉さんにこう切り出した。


「じゃあ、すんません。トゥーゴークワトロベンティーエクストラコーヒーバニラキャラメルヘーゼルナッツアーモンドエキストラ……」


「お前がプリリンなんかーい!!」


 真佐江の激しいツッコミが店内に響き渡った。

 

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秘められし愛のサイドストーリー
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