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舟は流れて  作者: むつき
6/11

ソノ輝キガマブシクテ

 いつもの町の巡視中に小学校に寄ってみるとちょうど休み時間のようで、芝生の青い校庭では数人の学童がゴム飛びをしていた。みんな人懐っこく、顔見知りの兵士を見ると元気な声であいさつをしてくる。中でも仲がいい学童がとてとてと走り寄って来たので、近くの木の下に自転車を停めた。


 小学校の周りは住居が少ない森のような場所で、未舗装の道と学校の敷地との間に柵がない。不用心だと思うが、これで事故の類は起こっていないらしい。


「ねぇ、川のふね見に行っちゃだめ?」


 舌っ足らずな声で聞いてきたこの学童には懐かれていた。兵士などに対して男の子特有の憧れがより濃厚だったからだ。海軍に入隊した兄にはそれ以上の憧れを持っており、おさがりのハンチングをいつも被っている。


「先生からも言われてるだろ? 危ないから行っちゃだめって」


 苦笑してたしなめると学童は途端にむくれ顔になる。町中を通る太い河川には、以前から海軍の警備艇が泊まっている。この学童に限らず多くの子どもたちはそのことがずっと気になっているらしいが、当の警備艇からは「不必要に民間人が近づかないように配慮してほしい」と頼まれている。


「……へいたいさんは舟乗ったことある?」


「何回かあるよ」


 舟のことから興味が離れられない学童の質問に簡単に答えたものの、すし詰めの輸送船に押し込められた思い出はできれば忘れ去りたいものだ。しかし学童にそれを察することはできず、きらきらした瞳で話のつづきをねだってくる。軍服を着ていて邪険にされないぶんまだましだが、そんな瞳で見られるのは居心地がわるい。


 苦し紛れに空を仰げば、木陰を作る木の青い茂りがさわさわと揺れていた。枝葉の間からは陽の光がちかちかときらめいている。上を向いたからか少しぼーっとする頭で、最近も同じような瞳を向けられたなと思い出した。そして自分はそれをうらやんでいるのだと自覚した。

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