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舟は流れて  作者: むつき
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カフェテリアにて

 大学のカフェテリアでトウイチは友人のサクマと昼食をとっていた。以前は席を取るにも難儀した昼間のカフェテリアは驚くほど空いてた。オンラインで行われとぃる講義が多いため、そして人が密集した場所に行きたがらない人間が多いためだ。


 ふたりは壁沿いの丸テーブルを陣取っている。ガラス張りの壁の向こうには、カフェテリアを囲んで植えられたケヤキが見える。ガラス越しに青みがかった陽の明かりが優しく入ってくる。


「将来なにするか考えてるか?」


「バンド」


 なにげなく聞いてみると、コンビニのミートパスタをすすっていたサクマは速攻かつ簡潔に答えた。大学生になってから染めたという金髪、背中にバンドグループのロゴが入ったスカジャン。見た目と将来の希望が見事に一致しているサクマはトウイチとは真逆の存在で、トウイチはなぜサクマと友人になれたのか疑問を覚えることがある。


「最近もオンラインで活動してるんだっけ?」


「そ。もう自分で準備できるようになったぞ」


 唇に付いたミートソースを舐め取りながら、サクマは誇らしげに笑う。もうオンライン環境の設定で手伝いはいらないらしい。


「でもオンラインだとリアルな音を出すのが難しくてさ! どうしたらリアルさが出るかっていろいろ試しててな―——」


 ミートソースが飛ぶのも構わず、サクマはプラスチックのフォークを振りながら熱弁する。サクマは不良のような見た目に反して子どものように無邪気な表情だ。食事を中断しているのにマスクを着けることを忘れているが、それを注意するのも馬鹿らしくなる。下手なオーケストラ指揮者のタクトのように振られるフォークが、陽の明かりでがちかちかと光る。


 バンド活動で生活が成り立つのだろうかと他人事ながら考えてみるが、なぜかサクマであればなんとかなりそうだと思ってしまう。それだけの、自分のやりたいことに対して全力になるれような溢れるパワーをサクマからは感じられる。


 トウイチは自分ならどうだろうかと考えてみたが、自分にそんな熱中できるものがないことに気づいた。それどころか、ひとつの仕事に落ち着く生活とは真逆のサクマの将来像には戸惑いの感情が大きかった。


 オンライン環境における音質の試行錯誤の苦労話しているのに、サクマの瞳はきらきらと輝いていた。トウイチはその瞳を直視できず、あいまいに視線を逸らした。胸中にはなぜか黒い感情が沸き上がってきていた。


(好きなことでも、なんでもしていればいい)


 口内で呟いたトウイチはコンビニの菓子パンをかじる。お気に入りのパンなのだが、夢の中のそれより味気なく感じた。

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