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舟は流れて  作者: むつき
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穏ヤカナ町デノ日常

 午前中の課業は街中の巡視だ。といっても穏やかな町なので特別注意が必要な事態はほとんどない。実態は町中を自転車で漕ぎ回って、ときどき住民と他愛のない世間話をするくらいなのだ。


 石畳の道と淡色の漆喰の建物の中を自転車で走り抜ける。ベランダに洗濯物がたなびく住宅地を抜ければ、野菜などの商品を店先で広げた商店が多くなる。この時間は主婦が多く行きかっているので、自転車のブレーキを握りながら進む。


 商店街ではいつもパン屋に寄って、昼食を買うついでに女将と世間話をする。顔に健康的な小じわが浮かぶ女将は「配給の小麦が少なくなってるのよ」と笑っていた。


(これで給料貰えるんだよな)


 楽な仕事はいい。命の危険性がないなら大歓迎だ。しかしときどき、胸中に隠れ潜む罪悪感が顔を見せることがある。そうなるとまるで鉛を呑み込んだような感じがして、居心地がわるくなる。


「自分だけ、こんな思いしていいんでしょうか?」


 午後の課業、事務所で巡視の日誌を書いている途中で呟くと軍曹にたしなめられた。軍曹は作戦図の台を流用した机の上に、手に持った鉛筆となにかの書類を放り出す。


「戦争しに来たからって、絶対死にゃあいかん道理はねぇだろう」


 荒削りの岩石のような顔をした軍曹ならではの言葉だ。しかし軍曹でこれなら、巷に聞く反戦運動家は将校になれるだろうと思って苦笑してしまった。


「……彼女への手紙にゃあ書くなよ」


「彼女じゃなくて幼馴染ですってば」


 極秘命令を伝えるような軍曹の言葉に、いつもと同じ訂正を入れた。

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