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起床ラッパノ鳴ルマエニ
いつも自分を眠りから呼び覚ますのは起床ラッパの音ではなく、廊下から聞こえてくる足音だ。隊舎の時計を正しくセットする役目の新兵の足音は、少なくとも任務を忠実に果たしている。
ラッパが鳴るまでの時間は短いので二度寝もできない。心地よいまどろみを振り切るように、いつものように仕方なく身を起こす。いつもなにか妙な夢を見るのだが、起きると忘れていることがほとんどだ。
壁のクリーム色の漆喰は薄暗闇の中でも鮮やかだ。しかしそれ以外に病院の寝具と中古の机しかない空間は殺風景にも見える。
(けど、個室があるだけましか……)
塹壕での生活を思い出しながらキャンバスの脚絆を巻く。頭の中はまだぼんやりしているが、いつもしている動作はてきぱきとできている。
「また、弾の下を潜らない毎日がはじまる……」
呟きながら、木のヘッドボードに引っかけてある草色の上衣を着てキャンバスのカーテンを引き開けた。外はまだ薄暗かった。