表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

彼女は味方か敵か

 屋上に着いた。

 当然、他の生徒はおらず、僕ただ一人が占領していた。いつも通りのことだ。


 ただ一つ、普段とは違うところがある。それは、死に飢えていることだ。

 いや、死にたい感情は毎日のようにある。けど、今日はやけに、その気持ちが強かった。


 僕の目には、一階の地べたのコンクリートが映っていた。

 涼しい風に背中を押されるように、静かに前に倒れこんだ。

 落ちる時間はほんの一瞬で、落下中の感覚はあまり覚えていない。


「やっぱり」


 失敗だ。

 僕は、溜息をつく。


 その数分後。

 傷跡が治癒した身体で、もう一度校内の階段を駆け上がり、屋上まで向かった。


 到着しても、やることは同じだ。

 飛び降り、とにかく死ぬまでそれを繰り返す。

 痛みはあるが、今はそんなことどうでもよかった。


 高見に、裏切られた。その悔しさだけが、心の中を張り巡る。

 十回ほど、飛び降りただろうか。

 何度しても、結果は一向に変わることはなかった。


 それより屋上まで行く最中の階段が、とにかくきつい。段数も無駄に多く、最初の方は走っていたけど、途中はほぼ歩いていた。


 疲れた。

 またいつか自殺が成功する日を願って、帰宅することに決めた。


 その直後。

 校門の前に、高見と吉井がいるのが見えた。

 まだ、いたのか。


 二人は、とても楽しそうに話していた。

 お互い、良い笑顔だった。高見があんなに笑う姿を、初めて見た。


 あんな奴ら、興味ない。と、心の中で思っても、身体は正直だった。

 気が付けば、二人の後を追っていた。

 興味がないはずがない。高見と吉井の関係なんて、気になることばかりだ。


 どういう経緯で、二人は交際したのか。

 男女が交際しているならば、どこまでの行為を経験したのだろうか。

 そもそも何故、吉井を殺す約束をした直後に、高見が彼と付き合ったのか。


 疑問が度重なる一方、途中電柱などに身を隠しながら、かなり遠くまで来てしまった。

 これはストーカーになるのではないのか、と思った。が、今更、止めれるはずもなかった。


 後を追い続けると、高見と吉井はゲームセンターに入っていった。引っ張られるように、僕も入店した。

 二人を見失わないように、駆け足気味で後をついた。


 様々なゲームがある中で、高見と吉井はどれで遊ぶか迷っていた。おおよそ周りのゲームを見渡した二人は、クレーンゲームの前に立つ。

 僕と二人とは距離が離れているため、あまり彼らの会話は聞こえない。


 高見は、ガラス越しの熊のぬいぐるみを指さす。察するに、彼女はあの景品が欲しいのだろう。

 任せろ、と言わんばかりに、吉井は百円玉を投入し、アームを動かした。


 いかにも貧弱そうなアームは、徐々にお目当てのぬいぐるみに近づく。

 落ちろ。

 取るな。

 そう僕は、願った。


 別にここで、ぬいぐるみが取れても取れなくても、何かが変わるわけじゃない。けれど、人の不幸は蜜の味と言うように、景品を獲得して二人が喜ぶ姿より、落ちて悲しむ姿の方が見たい。


 結果はどうだったかと言うと、僕の願いは届き、落ちた。

 まぁ、当然と言えばそうかも知れない。


 まだ一回しか遊んでないのに、一発で取れることの方が珍しい。もし、皆がクレーンゲームの景品が毎回一発で取れるとなれば、おもちゃ業界は破綻するだろう。


 悔しそうな神崎は、諦めきれないのか、再度百円玉を入れた。

 その横で、高見は応援していた。満面の笑みで。

 神崎がまたゲームを始めても、僕の感情は変わらなかった。と言っても、何事も終わりが来るものだ。


 神崎は他のゲームには手を出さず、クレーンゲームばかりに没頭していた。

 じっと観察して、十五分くらい経過した時だった。


 ガコン、と、音が鳴った。

 クレーンゲームの方からだった。


 景品を取った神崎は、熊のぬいぐるみを高見に渡す。高見は、満面の笑みをしていた。

 僕はそれを、ただ、見つめているだけだった。


 それからは、高見と吉井は様々なゲームをしていた。相変わらず、僕はその二人の後をついていった。

 お客さんも大勢いたので、途中から二人を見放してしまった。見つけた頃には、高見ただ一人だった。


 神崎がいない。どこに行ったんだ。

 僕は、ひどく焦った。


 とりあえず神崎の行方を捜すため、あらゆる場所を巡回した。

 音ゲーに、レースゲームなど。最初に遊んでいた、クレーンゲーム。

 可能性がありそうな場所を探しても、見つけれなかった。


「あれ、冬也?」


 その声は、背後にあるトイレの入り口から聞こえた。男の声で、どこか聞き覚えのある声だった。

 男の正体は、おそらく現在僕が捜している人間に違いない。確信した。


「吉井」


 振り向きざまに、僕は言った。


「やっぱり、冬也だ。お前の雰囲気なんか独特だから、後ろ姿でもすぐ分かったわ」


 そうだろうか。僕は、普通にこの場所に立っていただけだ。

 吉井の言う、独特、という言葉には、あまり納得がいかなかった。


 学校での僕は、あまり人と関わらず、目立った行動もしない。色で例えるなら、透明に近いだろう。

 つまり、僕には独特な雰囲気なんてない。言い換えれば、変わった人間ではないと思う。

 至極、平凡だ。


「なんで、こんなとこいんの?」


 吉井の言葉に、僕は一瞬、沈黙した。

 ここで正直に二人を尾行していたと言えば、気持ち悪く思われること間違いない。吉井が周りに言いふらし、学校で変な噂が立つことは目に見えている。

 それは困るので、また別の理由を言うことにした。


「ゲームを、しにきたんだ」


 ごく自然な理由だった。

 吉井はそんな僕を見て、笑った。


「相変わらず、ぼっちなんだな」


 馬鹿にされた。


「なぁ、金貸せよ」


 唐突に、吉井は言った。だけど、それはいつも通りのことだった。


「え?」


 まさか偶然すれ違った時でも、こんなことを言われるとは思わなかった。

 僕は、戸惑った。


「一人ぼっちのお前がかわいそうだから、俺が遊んでやるよ。ま、彼女も一緒にいるけど」

「彼女?」

「え、知らねぇのかよ」


 知っている。

 吉井と高見が付き合ってることぐらい。

 何のために、ここまで後をつけてきたと思ってるんだ。見つかったけど。だけど、心のどこかに認めたくない感情があって、知らないふりをした。


「俺、同じクラスの女子と付き合ってるんだ」


 名前は、と、吉井が言おうとした時だった。

 奥から制服を着た女子が、こちらに向かってくるのが見えた。

 おそらく、吉井の彼女だと思われる人物だ。


「ここにいたんだ」


 彼女がトイレ付近に到着した時、咄嗟に僕は下を向いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ