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死神少女

 校内で、とある噂が広がった。

 それは、高見沙織と交際をすると、付き合った男が自殺をすると言う奇妙な事件だ。


 最初はもちろん、僕も信じられなかった。だが、本当、らしい。

 この目で目撃したわけではないけれど、実際に高見と交際をした男全員が、唐突に自殺に手を出すほどの人間ではないように思えたからだ。


 高見が交際していた男は、主に三人。

 一人は、学校一のイケメンで、女子からも絶大な人気を誇る。また一人は、バスケットボール部の期待のルーキーで、爽やかな感じもあり、運動神経も抜群。女子からの評判も、前者と同じだ。


 冷静に考えて、この男たちが自殺に手を染めることはやはりあり得ない。

 この事件がきっかけで、高見は学校内で虐められるようになった。


 理由は簡単だ。この男たちの突然の死は、自殺ではなく、実は高見による殺害ではないかと陰で囁かれている。


 そして三人目。この男は前に説明した二人に比べれば、至って平凡かもしれない。

 容姿は並、成績も平均、運動神経も中の下。女子からの人気もあまりなく、むしろ人生に絶望している。


 ただ、唯一あの二人と違う点がある。それは、高見の正体を知っていると言うことだ。そして、自殺にも失敗した人間だ。

 なので、高見と交際して、自殺した人数が三人であるのは語弊である。正確には、二人だ。


 僕はまだ、生きている。いや、仕方なく生きていると言った方が正しいだろうか。

 これは三ヶ月前のことだ。


「もう、いいんだ。何もかも、どうでもよくなった」


 放課後になった頃、校舎の頂上に位置する屋上で、僕は一階に繋がるコンクリートを眺めていた。

 自分の足の場所も、あと少し身体を前にすれば、落ちる寸前まで来ていた。にもかかわらず、不思議と恐怖感はなかった。もう、飛び降りることは、心に決めていたからだ。


 死ぬ意味は極めて単純。生きる意味がない、からだ。この先生きていても、希望がない。絶望したんだ。この現実に。自分がいかに、無価値であるということに。


 でも、そんなものとも今日でお別れだ。あと一歩だけ前に進めば、全てが終わる。終わって、欲しい。


 ドクンドクンと心臓が高鳴る。おかしい。怖くなんてないのに、どうしてか緊張している。

 このままじゃ、駄目だ。僕は、決めたんだ。この屋上から飛び降り、自殺を行うと。


 一歩だけ、足を前に出す。そんな簡単なことでも、躊躇してしまった。

 なんとなく、僕は深い深呼吸をした。落ち着いた。


 頭の中も真っ白になって、無意識に足を前に出していた。

 僕の頭は、地面に強く当たった。

 これで、全て終わった。


「また、失敗か」


 ため息をついた僕は、血まみれのまま起き上がる。

 今回も、死ぬことは出来なかった。というのも、屋上から飛び降りたのはこれが初めてではなく、ほぼ毎日している習慣みたいなものだ。つまり僕は、自殺志願者というわけだ。


 そうは言っても、やっぱり飛び降りる前は緊張するし、何度やっても慣れない。

 では何故これほどの重症を負っても、平気なのか。

 僕が、不死身だからだ。


 信じられないかもしれないが、本当だ。何せ、最初の自殺を実行した時は、自分が一番驚いたくらいだ。

 痛みはあるが、傷は徐々に治っていく。さっきまでの傷跡は、綺麗に消えていった。


「大丈夫?」


 死ねなかったことに後悔を残しつつ、帰宅しようとした直後のことだ。数メートル先から、女子の声が聞こえた。

 これはまずい、と思った。


 自殺をする前は、僕は決まって近くに人がいないかを確認する。変に注目されるのも、嫌だからだ。そして、誰一人いなかったら飛び降りると決めている。今までだって、そうだった。


 なのに、今日は人がいた。僕の注意不足なのだろうか。

 これでお互いが存在を全く認知していなければ、まだ良かった。が、不幸にも、同級生の高見沙織に見られてしまった。


 いつからいたんだ。どこまで見ていた。

 心配した高見は、僕に近づく。

 短い黒髪をした童顔の彼女は、制服も見事に似合っていて、とても可愛かった。


「何が?」


 突然声をかけられたせいか、余りにぎこちない対応をしてしまった。


「だって、顔が血まみれだったから」


 そこまで、見られていたのか。


「少し一人で遊んでいただけだから、安心してよ」


 さすがに無理のある理由付けを、僕はした。


「そっか」


 意外にも、高見の反応は薄かった。

 けれど、これは僕を油断させる一言に過ぎなかった。


「じゃあ聞くけど、何で石田くんは屋上から落ちてきたの?」


 身体が、固まった。


「それに、傷口が塞がるのも早くない?」


 言葉が、出なかった。


「普通、あの高さから落ちたら死ぬよね?」


 全てが見透かされていた質問の連続に、もはや何と答えるべきか分からなくなった。


「石田くん?」


 硬直した僕の前で、高見は首を傾げる。


「あ、あぁ」

「体調悪いの?」

「違う。少し考え事をしていたんだ」

「そう。なら、良かった」

「じゃあ、僕はもう帰るから」


 何とかして、この状況から逃げようとした時だった。


「待って」


 僕は、高見に呼び止められた。


「何?」


 本当なら無視をしてもよかったのだろうけど、さすがにそれは印象悪いので、仕方なく返事をした。

 高見に背を向けたいた僕が、彼女の方を振り向いた。


「死にたいんでしょ?」


 その言葉は重く、真っすぐ、心臓に突き刺さった。


「違うよ」


 僕は、否定した。

 自殺願望があるなんて、人に言えたものじゃない。

 どうせ僕の気持ちなんて、分かってもらえない。

 分かって、たまるか。


「石田くんが死にたいと思う理由はなんだろ」


 それでも高見は、僕の言うことを聞かず、話し始めた。


「人生への絶望?」


 僕は、何も答えなかった。


「人への憎しみ?」


 僕はまた、何も言わなかった。


「じゃあ」


 その一言だけを言って、僕は後を去ろうとした。


「信じてもらえないかもしれないけど、私、死神なんだ」


 意味不明なことを、高見は言いだした。


「石田くんが死にたい理由は分からないけど、憎いと思っている人間を殺してあげるよ」


 その言葉を聞いた時、思わず、振り向いてしまった。

 高見のその笑顔は、まるで悪魔そのもののようだった。

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