表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

別れのプラットホーム

作者: ダルシン

 それは突然の別れだった。

 あの時あの場所で別れが決まっていたというのに、僕はのんびりとした気分で、君が僕のそばにいてくれるものだと思っていた。

 だって君は駅の構内のいつもの場所でいつものように僕を待っていてくれたから。

 僕はいつもと同じように君を見つけて、声をかけた。


「ありがとう」


 自然とこぼれる笑顔。

 僕は君といっしょに歩き出す。

 ホームの電光掲示板で列車が来る時間を再確認。まだ少し時間があったので空いているベンチに座ったんだ。





 思えば君をはじめて駅で見掛けた時は一目で胸が高鳴った。

 じっと見つめてしまった。

 だが時間がないのだと我に返り、僕は駆け抜けるようにして列車に飛び乗った。

 でも席についてからは、間に合ったことに胸を撫でおろしながらも、君のことをぼんやりと思い出していた。

 一目惚れだった。




 次に駅の構内で君を見掛けた時、君はあっさりとほかの男と一緒に歩き出した。

 あれだけの上玉だ。

 仕方がない。

 自分か見てとても魅力的なのだ。同じことを感じる男がわんさかいて当然だ。

 そりゃそうでしょうと肩を落としながら自分に言い聞かせる。

 だが気持ちがおさまらない。

 ふつふつと悔しさがこみあげて来る。

 何としても僕の手に。

 僕はあきらめなかった。




 僕は機会をうかがい、待ちに待った。

 時には乗る用もないのに駅に出かけることもあった。

 でも君を見つけることはできなかった。

 君のいない駅の構内はどんなに人でにぎわっていても、廃墟のごとく僕に寂しさを与えた。




 君を駅の構内で再び見つけたのは、一目惚れをしたあの日からもう二か月も経った日のことだった。

 待ちに待った僕だが、それでも待ち疲れるということはなかった。

 僕の気持ちはあの日のままときめいていた。

 僕は弾んだ声で話しかける。

 焦って少し噛んでしまった。

 それでも笑顔で対応してくれた。

 気持ちが急いている僕は指を強く握ってしまって、恥ずかしい気持ちにもなった。

 君といっしょに歩き、列車に乗り込む。

 そして僕はこれからはずっと君と一緒に過ごすことを決めたんだ。




 それなのに・・・。




 君と一緒に過ごすと決めた日から、君は駅の構内のいつもの場所で必ず待っていてくれるようになった。

 君を探して、君のいない駅をさまよった二か月間が嘘のようだ。

 僕が声をかけるといつもの笑顔が返ってくる。

 そしていつもの君を手に取る。

 そんな日が繰り返し繰り返し続いたから。

 半年以上も続いたから。

 僕はそれが当たり前のことだと感じるようになってしまっていたのだ。

 もっとしっかりとこの手につかんでおくべきだったのに。

 人から変だと思われようと、君をこの胸にしっかりと抱きしめておくべきだったのに。

 僕はもう完全に君を我がものとしたと勘違いをしてしまっていたのだ。

 その時別れが来ていたことに気づかなかった。


         ◇◇◇◇◇


 僕はいつもと同じ売店で同じ場所に陳列されている君を見つけて、店員に声をかけた。


「三種のブランド牛弁当ください」


 大人気で売り切れが続いた弁当だったので、初めて買えた時は興奮して受け取る際に店員の指を強く握ってしまった。

 今日もありつけた喜びで胸が弾む。すでに愛しの君だ。

 ホームの電光掲示板で列車が来る時間を再確認。まだ少し時間があったので空いているベンチに座った。

 その時に弁当から手を離したのだ。

 それが今生の別れとなることも知らずに。

 僕は弁当をベンチの上に置き忘れたまま列車に乗ったのだ。


                             (おわり)

くだらねーーーーと思っていただければうれしいですね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ