Sister the Ripper
ココの後を追いかけて森に迷い込んだように複雑な学内を歩き回る。これが伝統校だけあって無駄に広い。
梅雨が明けて、久しぶりに晴れた校庭へ出る頃にはこの足はクタクタになる。部屋でヒモ騎士ばかり読んでるくたびれ者の体力のなさは舐めたものじゃない。
夏の日差しが感じられてきたこの日は、校庭の緑が瑞々しい。連日の雨だったから、やっぱりカラッとした夏の空気は気持ちがいい。最近は気持ちが沈んでばかりいたけど、このときはもう少し顔を上げてみようと気まぐれに思った。
見上げれば、グランプリの日に彼に手を引かれてやって来た礼拝堂の前だ。
校内の奥まった位置にあるから、普段は人通りが少ないのかもしれない。
木漏れ日のカーテンに隠れてあの人が耳元で言いかけた内容が、今もこの耳に引っかかっている。
彼はいつか教えてくれるのかな……なんて。そんな日が来るのかももうわからない。
「ミャ」
その白壁の建物の重厚感ある扉で、さっきからカリカリと爪で研いでいるココにハラハラとさせられる。あと心細いから自分の腕に抱き寄せた。
今一度その外観を見上げてみる。
傍若無人なあの人のイメージとは大きくかけ離れている洗礼された幻想的な雰囲気に圧倒される。
退学宣告されたばかりの落ちこぼれには場違いすぎでは。
「ここに高雅さんが……?」
神様なんて鼻で笑いそうな彼だけど、ココが言うならきっと間違いないはず。図書室には彼の姿はなくて他に行く当てもない。少し中を覗くだけにしようと、重厚な扉の取っ手に触れる。
彼には思うところがたくさんあるけど、肝心の中身がここに来て思い出せない。もう喉のところまで来てるのに。色々なことが目まぐるしく起こって、彼に言わなきゃいけないことがあったんだけど……何だっけ……?
「――汝に主の祝福があらんことをなんつってさっさとくたばれやああああああぁぁぁ!!」
「ふえ?」
その怒号にも近しい何者かの声とともに、光の速さで何かが私の真横を掠める。
掠めたそれがすぐそばの壁に何本もめり込んでいるのを目の当たりにして、悲鳴を上げることもままならずココを抱きしめたまま身体が大理石の床に倒れた。
ゴツンと頭を打った物音でこちらに気がついた彼らは、取り込み中の手を一旦止めて大扉が開いた玄関を振り返る。
そこには女子生徒の魂が抜けた骸がゴロンと転がっているのだった。
「ん? またうちの敷地内で生徒がぶっ倒れてるな」
「君は目先の獲物に貪欲で周りを見ないからこうなるんだよ」
「ハッ! アタシはアタシの職務を果たしているだけだ。それより誰だこの小娘。また貴様がたぶらかしたのか?」
「名ばかりの修道女を語るなら、その最悪な口から悔い改めることだ」
意識の彼方で探していた彼の声が微かに聞こえたような気がした。
星の輪を見上げながら、私はそのまま意識を手放した。