白馬のエスコート
「桃香!」
高雅さんの連絡ですぐに駆けつけてくれた白馬先生に保護され、喉元まで込み上げていた不安がブワッと目から溢れ出した。
「は、はくばせんせえぇ……」
「どうした。そんなとこに蹲って……高雅も急にメール寄越したっきりいなくなるし、何があったんだ」
赤ちゃん返りをしたようにえぐえぐと泣き止まない私を、白馬先生がよしよしとそばで慰めてくれる。誰かがそばにいてくれることに少しずつ気持ちも落ち着いていく。
それにこんなこと白馬先生くらいにしか相談できなくて、経緯をゆっくりと彼に説明すればあんぐりと口を開けていた。
「まじかよ、あいつ。不器用にも程があるだろうが……」
「こ、高雅さんは、悪くないんです……私がこんなチキンでとっくに救えないバカだからぁああ〜」
「ああもう、桃香までそうヤケになるな。俺も手がつけられん。まったくあの問題児、自分までどっかに姿くらましやがって。まだ白雪姫も見つからねえってのに」
そもそも、白雪姫をまずは探し出さなければいけないのだ。
そんな白雪姫がいなくなった理由も、自分の大根芝居に嫌気が差したからかと思うと、こんな猿以下の知能のバカが生きている資格さえあるのかと疑問に思う。
「白馬先生……もし高雅さんも白雪姫も見つけられなかったときは、私を煮るなり焼くなり、土手から川底に突き落とすなり好きにしてください。むしろそうしてください」
「早まるな桃香! 何言ってんだお前!? その変な思考は今すぐ止めろ!」
こんなおバカは、せめて魚のエサになって役に立つくらいしか他に道もない。高雅さんにも見捨てられ、先は暗い。暗闇しか見えない。視力よかったはずだけど。
バカが塞ぎ込むとろくなことがないとわかっているけれど、それを見兼ねて白馬先生は助言する。
「いいか。人生生きてたら一度や二度壁にぶち当たるなんて当たり前だ。みんなそうやって自分の壁を乗り越える努力をするんだ。あのアホの高雅だって、スカした顔して本ばっか読んでるように見えて、自分の壁を一生懸命登ろうとしてるんだ。そこにお前が手を差し出すんだ、桃香」
白馬って名前のくせに、私の苦手な熱血指導を彼は説いてくる。
ついさっき彼に見放されたばかりだと言うのに、そんな大役が彼とひと月しかまだ付き合いのない私にできるわけがないじゃない。すでにもうヤケクソだった。
「そ、そんなの、私にできるわけ……」
「やってみないとわかんねえだろそんなの。お前のよさはその真っ直ぐで、バカ正直に高雅と向き合えるところだ。砕けても俺がフォローしてやるから、お前は正面から高雅に喧嘩ふっかけてこいよ」
いや、喧嘩はダメだけど。砕けちゃダメだけど。
でも白馬先生の熱血指導は不思議とこの胸にエネルギーを分けてくれる。
以前は一人の戦いだったけど、今は白馬先生もバックアップしてくれるから、またダメもとでぶつかってみるのもいいかもしれない。
太陽はあっという間に西の方角に傾き始めている。
白馬先生と小人達に白雪姫捜索を任せて、私は涙を拭いて高雅さんを見つけるためにもう一度立ち上がることができた。